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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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19/80

冒険開始4


屋敷の中は畳にふすまといった作りを想像していたが、すべて木造りで玄関土間も広く居間には囲炉裏もあった。

そして葵と雪永それぞれ隣り合った6畳程の簡素な部屋に案内され、夕飯の支度が整うまでの間寛がせて貰う事になった。


「お嬢様大事な話があります」


葵は夕飯までの間やはり雪永と少し話をするべきかと考えていると、雪永が深刻な顔をして葵の部屋にやって来た。


「どうしたの?」


葵はどんな重大な話をされるのかと少し身構えるようにして返事をすると、雪永は徐に左手首を見せるように袖をまくった。

雪永の紋章は腕時計で隠れる位置に描かれていたが、その紋章がだいぶ青く変色していた。

葵は驚き思わず自分の左手にある紋章と見比べると葵の紋章はまだたいして色づいてもいない。

瑠紺の説明で個人差があるとは聞いてはいたが、これ程の違に葵は驚き戸惑った。


「もうそんなに…」


「はい、私はこちらの世界には馴染みが悪いというのか相性が悪いと言うべきか、とにかく私に残された時間はそう多くはないようです」


昨日と今日と合わせてもまだ一日分もこの異世界で過ごしてはいない筈なのに、三日が限界だという条件にどうも雪永は当てはまらないらしい。

考えてみたら雪永は、転移門の存在を知りながら魔力量の低さが原因で今まで結界の確認作業ができなかったのだ。

もしかしたら雪永の魔力量の低さが紋章の色づきの速さにも関係しているのかも知れないと考えてていた。


「大変、急いで戻りましょう」


「それですとジェード殿に不審に思われます。それに彼の思惑も気になる所ですが、お嬢様がこちらで冒険を希望されるのであれば彼を味方につけるのが得策かと考えています。ですのでこのまま姿を消すのはどうかと思います」


「雪永の考えは分かるけど、向こうの世界に帰れなくなるよ。今一番の問題はそこでしょう。雪永がこの世界に居たいのなら別だけど」


「私の望みはこの異世界での冒険を楽しみにしているお嬢様をお守りするとです。しかしこの世界に居続けるのは私には無理です。どうぞ私の至らなさをお許しください……」


顔を曇らせ俯く雪永に葵は明るく声を掛ける。


「それは当然よ。私だってこの世界に居続けたいとは思っていないわ。それに雪永はここまで十分に助けてくれたじゃない。取り敢えず町を見つける事もできたし冒険はまだ始まったばかりでこれからいくらでも時間はあるわ。ジェードにはまた会う事があればその時にきちんとお詫びすれば大丈夫よ」


「いえお嬢様、私がこんな事を言うのはとても心苦しいのですが、この異世界では私はお嬢様の足手まといにしかならないようです。ですのでこれはあくまでも私の提案として聞いていただけますか」


真剣な面差しの雪永の圧に負け葵は黙って頷いた。


「この異世界での冒険の手助けをジェード殿に頼めないかと考えています。彼には秘密を打ち明けその上で助けになって貰えないか頼んでみてはいかがでしょう」


「ジェードに話して信じて貰えると思う?」


「少なくとも彼は会長がこの世界に送った人の末裔である事は事実です。ですのでその辺の理解は話してみれば大丈夫ではないかと思われます」


「それもそうね。秘密を抱えるなんてたいてい碌な事にならないし、考えてみたら私の性にも合わないわ」


「ふふ、性に合いませんか」


珍しく雪永が微笑みを見せた事に葵はとても驚いた。

普段真剣な顔しか見せない雪永のそのギャップに葵はドキッとしながら気持ちは明るく華やいだ。


「そうと決まれば時間が無いわ。急いで話してしまいましょう。もし信じて貰えなかったり受け入れて貰えなかったらその時は身分証を諦めて転移すれば良いだけだしね」


最悪の場合異世界の冒険が少々面倒になるだけで、葵が瑠紺に頼まれている結界の確認を続けることには何の支障もないのだと葵は自分に言い聞かせた。


雪永と一緒にジェードの部屋を訪ね、葵は前置きも無く自分達が別の世界から転移門を隠す結界を確認する為に来ている事を打ち明けた。

そしてジェードの英雄である曽祖父もこの森で時たま発見される記憶喪失者も、すべて別世界から来た人たちだという事を知らせた。


その上で帰れなくなった人達がこの世界に残り色んな功績を上げて来たのだろうと教え、そして葵は自分の紋章と雪永の紋章を見せ、雪永がこの世界に留まれる限界に近いので一度別世界に戻ると話した。


「お嬢様だけならもう少し長くこの世界に留まれるのです。ですからジェード殿、是非私に代わりお嬢様のこちらの世界での冒険を手助けしお守りいただけないかとお願いしたいのです」


今さっきまでただ茫然とした様子で話を黙って聞いていたジェードは、雪永に頭を下げられた事で現実に戻ったようで一瞬で表情がキリリとした。


「まだ正直信じられない部分もあるが、この私がセツナ殿に代わりアオイを必ずや護ると約束しよう」


「私も時間が許す限りはこちらの世界に来るつもりですが、お任せしましたよ」


雪永とジェードが二人で盛り上がる中、葵は何となく守られるだけの存在じゃないと少しだけ不服を申し立てたい気分になったが時間が無いので我慢した。


「私が今使っている部屋を転移の拠点にしても良いでしょうか?」


「そうですね。人目のある所で突然消えたり現れたりするのはやはり憚られますからその方がいいでしょう」


「転移とは突然姿を消したり現れたりするものなのか?」


ジェードは転移をまったく知らないらしかった。


「この世界に転移魔法は無いの?」


「少なくとも私は聞いた事がないな」


多分の話だけれど、瑠紺がこの世界に送り込んだ人達はきっと全員使える筈なのに世間一般には知られていない事を葵は少しだけ疑問に感じていた。


「私もまだ一度も使った事が無いんだけどね。じゃあここに居るみんなが初体験という事で良いかしら」


葵はジェードへの説明に思っていた以上には時間が割かれなかったとはいえ、雪永の事が気になって仕方なかったので急ぎ葵に与えられた部屋へと戻ると雪永と手を繋ぎ転移門の前を転移場所に設定して転移魔法を念じた。

一瞬立ち眩みのような眩暈と目の前が真っ暗になった感じがあった後、気付けば葵と雪永は転移門の前に立っていた。


「問題無く転移出来たわね」


失敗を考えていなかった訳ではなかった葵は思わずそう呟いていた。

そしてそのまま急ぐように雪永と転移門を潜り現実世界へと戻ったのだった。



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