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秘密の先の異世界で  作者: 橘可憐


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冒険開始2


「まずは私の家に案内しますのでどうぞ遠慮せずにゆっくりしてください」


「すみませんお願いします」


ジェードの提案に雪永が口を開きかけたが、それより先に葵が返事をしていた。

泊めてくれると言うのなら折角だから遠慮せずにこの世界の生活様式を知っておきたいと思ったからだった。


雪永は暫く一日おきに異世界探索をしようと決めた事を気にしているのだろうが、折角の出会いを大事にしたいのだから仕方ないだろう。

それに冒険の為の予備知識は多くあって困る事はない。


「素敵な町ですね」


「そうでしょう」


町を取り囲む長閑な景色と黄昏時間の雰囲気とでどこか懐かしいような不思議な感じがして、葵をノスタルジックな気分にさせた。


町の大きさは多分人口は1000人居ないだろうと思われる広さで、葵の印象では町というより村に近いように思えたが、町の中心部へ到着するとジェードが町と言い張る理由が伺えた。


ジェードが言っていた冒険者ギルドや商業ギルドだけでなく宿屋や商店なども何店も建ち並び、役所や学校も有りこの場所だけは建物が密集していて、多分冒険者や商人達が他の地域から大勢往来しているのだと思われた。


「ここは随分賑やかな場所だね」


「この町の中心部ですからね。宜しければ明日にでもゆっくり案内しますよ。ギルドに登録し身分証を作った方が色々と便利ですからね」


ジェードと言葉が通じている時点で当然だとは思っていたが、こちらの世界の文字で書かれたギルドや商店の看板の文字が普通に読めたので葵は心からホッとしていた。

折角異世界に来ても言葉が通じないと冒険の楽しみも半減し、文字が読めないとどこで失敗するか分からないからね。


「身分証が無いとやっぱり不便なんだ」


「そうですね。ギルドで取引もできませんし、行政の公共サービスも受けられませんね」


「公共サービスですか?」


葵はおよそ異世界とは思えない言葉を聞き本気で驚いた。


「ええ、他の国や地域の事は良く分かりませんが、少なくともこの町は公共事業も充実していますよ」


「それは興味深い話ですね」


公共事業と聞いて雪永もおもいきり食いついた。


「各種学校に図書館や病院に銭湯などが多くの人に利用されている施設です。この町の住民ならタダで、他の地区の住民からは多少お金を取りますが、身分証を持たない人達は利用できませんね」


「どうしてですか?」


「税を納めていない者と判断されるからですよ」


「なるほど。でも学校は他地域の人達には関係ないんじゃないですか?」


葵は学校と聞いて小中高といった学校を思い浮かべ、他地域の人には関係ないだろうとついついツッコんで聞いていた。


「学校と言っても選択科目を自由に選び短期間で学べるので他の地域からわざわざ来る人も多いのですよ。中でも商人には欠かせない計算や帳簿つけ管理業務などが人気ですね。アオイさんも何か学んでみたい事があれば是非通ってみるのもいいかも知れませんよ」


葵は学ぶ事は嫌いではないが、わざわざ異世界に来てまで学ぶ必要があるのかと思ったが口には出さなかった。


「ああ、その顔はちょっと敬遠している感じですか。まあ無理にとは言いませんが、武術や戦闘法に魔法といった冒険者に必須な講義だけでなく神話や天文学なんてマニアックな事を教える人も居るんですよ」


神話や天文学と聞いて少しだけ興味を惹かれたが、異世界に居続ける事ができない状況で通えるものではないだろうという都合の良い言い訳を思い付き、口を開きかけたところで雪永が先に話し始めた。


「お嬢様、折角の興味深いお誘いではありますが、まずはこの町で落ち着いてからゆっくり考える事に致しましょう」


「そ、そうね」


雪永のあまりに鋭い眼差しに葵は一瞬たじろいだ。


「それよりもジェード殿はあの森で調査をなさっていたという話でしたが、いったい何を調査されていたのか伺っても宜しいでしょうか?」


「良く覚えていたねそんな話」


「ええ、私達がこの町に長く留まる事を前提でお話しされているようですので何かあるのかと思いまして」


「警戒させちゃったって事か。ただこの町を知って欲しかっただけで別にそんなに深い意味は無いんだけどなぁ。でも別に隠している事じゃないから話すけど、最近この森の魔物の生息地域に変化があったようだという報告があってね。何かがあってからじゃ遅いから私が調査に乗り出しただけだよ」


「どうしてジェードさんが?」


「私がこの領主の息子だからというか、一応名の知れた冒険者でもあるからかな」


「えぇぇーーー」


ジェードが領主の息子と聞いて葵は本気で驚き思わず声を上げていた。


「そんなに驚く事?」


驚いたのは葵だけでなかったらしく、思いっきり頷いた葵が雪永を見ると雪永も表情を少し歪めていた。

でも、この町を作ったのが曾祖父って言っていたのだから、よく考えなくても想像はできた筈だった。


「という訳だから遠慮なしでゆっくり滞在してくれていいからね」


葵と雪永は先に歩き始めたジェードの後を追うように黙って歩き始めるのだった。



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