異世界へGO! 4
さっきまで驚愕の表情を浮かべていた筈の瑠紺はすぐに平常心を取り戻していた。
「聖女は特別職だね。葵は余程魔力量が多いのかそれとも選ばれたのかだろうが今の私にははっきりと判断できかねないね。でも折角だ、職業を複数登録できるようにしておこう」
「それって何か利点があるんですか?」
「万が一誰かに鑑定された時には第一職業だけしか看破されずに済む。それに若干ではあるが基礎身体能力に補正が掛かる筈だ」
「要するに聖女を職業にしても良いが隠せって事ですね?」
「まぁその方が向こうの世界で揉め事に巻き込まれる事も少ないだろう。ああそれに言い忘れていたが、スキルはセットした職業のものしか使えないからね。複数の職業をセットすればその分使えるスキルも増えるという事だよ」
「それは嬉しいかも。ありがとうございます!」
言い包められた感がハンパないが、葵は素直にお礼を言った。
「それじゃぁ私は夕飯の準備に戻ってもいいかな? そうそう向こうの魔力をリセットできる時間は個人差もあるからゆっくりとお風呂にでも浸かってしっかりと休みなさい」
そう言いながら台所へと戻る瑠紺を見送りながら葵は少し考える。
瑠紺の説明からするとスキルを取得すれば職業レベルが上がりポイントも復活する。
という事はポイントが無くなるまでスキルを選択し職業レベルを上げ続ければ良いという事だよね?
そうして職業レベルをMAXにした職業をセットし、後は魔法の熟練度を十分に上げればそれが完全なるチートと言う事なんじゃないだろうかと。
「雪永、私もう一度向こうへ行ってスキルの取得をしてしまいたいのだけど良いかしら?」
「それだけでしたら私も気になっているので宜しいかと思います」
「じゃあ行こうか」
葵が差し出した手を雪永が繋ぎ、二人揃って異世界門へと足を踏み入れ、そして異世界へ到着早々にステータスをオープンさせる。
「お嬢様、本当にスキルのチェックだけですよ。今回はこの結界から外へは出ませんからね」
「分かってるって。それより早く済ませてしまわないときっと瑠紺さんご飯の用意して待ってるよ」
「そうでございました」
葵に念を押して注意していた雪永も急ぎステータス表示されているタブレットを開きチェックを始めた。
葵は風魔法の上級を取得し次いで氷魔法の上級魔法まで取得してから一度タブレットを閉じ再度開く。
すると瑠紺の説明通り職業のレベルが上がりポイントも復活しているので、雷魔法も上級までを取得すると魔術師のスキルツリーで取得できるスキルは無くなった。
確認のために一度タブレットを閉じ再度開くと魔術師の職業レベルはMAXになっていた。
多分職業レベルの上限は10という事だろう。
葵は次にどの職業のスキルを取得しようかと悩む。
残りは冒険者・剣士・斥候・武闘家・僧侶・商人・薬師・鍛冶師・調理師・聖女の10種類。
そして残り保有ポイントは178。
基礎身体能力を強化しても良いが、このまま他の職業すべてのスキルも取得できるのじゃないかと葵は考えた。
どの職業に就くかは別として、すべての職業レベルがMAXになっていればその時の状況に合わせた職業を選択可能になる。
というよりどうせならコンプリートしたいという意識が俄然強くなっていた。
それにいくつかの職業レベルをMAXにしたら上級職も現れるという話だったではないか。
それなら当然職業コンプリートを目指すべきだよねと、葵は手当たり次第にスキルを取得し次々と職業レベルをMAXにしていく。
ステータス表示されたタブレットでスキルを取得しては一度閉じて開きなおしまたスキルを取得して行くという殆ど作業のような工程を繰り返した。
そしてすべての下級職レベルをMAXにすると葵の職業欄には忍者・賢者・錬金術師と言う上級職が増えていた。
勿論その上級職もMAXにしていったがポイントがかなり余ったので、職業スキルツリー外のスキルも当然取得して行く。
詠唱破棄に基礎身体能力に各種耐性など結果的にすべてのスキルを取得できた。
職業によっては同じスキルがあったりしたので、思った以上にポイントが余った感じだ。
「ふぅ~~~」
何となくやり切った感がハンパなく大満足だった。
そして第一職業は賢者、第二職業は忍者、第三職業は商人をセットした。
賢者にしたのは当然魔法攻撃重視を考えてだったが、忍者を選んだのは探索や探知に隠蔽などのスキルが便利そうだったからで、商人を選んだのはアイテムボックスという空間収納スキルを得たかったからだ。
他にも気になるスキルは数々あったが、多分それは雪永が得るんじゃないかと勝手に判断していた。
「雪永、終わった?」
「お嬢様もう少々お待ちください」
雪永はきっと最初のポイント振り分けで基礎身体能力を重視して取得したために職業レベルを上げるのに苦労をしているのだろうと判断して、急かしちゃ悪いと引き続きステータスチェックをした。
ただぼんやりと職業欄を見詰めながら忍者になった自分を想像してみたり、商人になった自分や聖女になった自分などと妄想を膨らませていた。
(そのうちどこかの街へも行くだろうし、その時はどんな職業をセットしたら楽しいかしら…)
「お嬢様、お待たせいたしました」
葵が一人妄想の旅を楽しんでいると雪永の声に現実に引き戻される。
「終わったの?」
「はい、終わりました」
「じゃあ戻ろうか。瑠紺さんも待ちくたびれているだろうしね」
多分だが両方の世界の時間は連動しているというか同じと考えてもいいようで、異世界もすっかり夜になっていた。
「それでは急ぎましょう」
葵と雪永は手を繋ぐと急いで転移門を潜り元の世界へと戻ったのだった。




