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モリアーティ教授の手帖

鏡の証言

作者: アヤ鷹




『予告された死』






ロンドンの夜は霧に包まれていた。

私は手帳を開き、計画の最後の仕上げを確認する。



今夜、男が一人死ぬ。

そして、その罪は私に着せられる。




私の仕事はシンプルだ。

彼に”自分の目で見た真実”を語らせること。

疑いようのない”証言”を作り上げること。




目撃者は酒場で軽く酔わせ、事件現場へと導く。

倉庫の奥、鏡の前に私の影を映し出し、その目に焼き付ける。

そして、銃声が響く頃には私はそこにはいない。


“見た”という事実が”真実”にすり替わる瞬間を、私は幾度となく見てきた。

人の目ほど簡単に欺けるものはない。



さあ、ホームズ。

君はこの罠に気づくことができるか?









『奇妙な証言』






「モリアーティが殺人を犯した。」



ワトソンが新聞を広げる。


目撃者が彼の姿を”この目で見た”と証言し、警察は彼を指名手配した。


だが、私は新聞を折りたたみながら静かに笑った。



「ワトソン、君はなぜその証言を信じる?」



「証人がはっきりと見たと言っているからだ。」



「なるほど。しかし、それは”彼がそう思っている”というだけのことだ。」



人の目は、最も信頼され、最も欺かれやすい。

私の脳裏に、ある考えが浮かんだ。



モリアーティがこのような単純な失敗をするはずがない。


つまり、証言そのものが仕組まれたものなのだ。




さあ、教授。

君が仕掛けた幻を暴くとしよう。












『死の舞台』



倉庫の奥に配置された鏡。

慎重に計算された照明の角度。



目撃者が立つ位置を誘導し、“正面から事件を見た”と思い込ませる。

彼の目には、銃を構えた私の姿が映るだろう。



しかし、私はその場にはいない。




銃声が響いた瞬間、証人の記憶には”私が殺人を犯した”という鮮烈な印象だけが残る。


真相などどうでもいい。




重要なのは、「彼の証言こそが事実になる」ということだ。


計画は完璧だった。




……ただ一つ、ホームズさえいなければ











『仕掛けられた罠』



私は倉庫の床に落ちた小さなガラス片を拾い上げた。



「ホームズ、何を見つけた?」



「ワトソン、ここには”誰かがいた証拠”がない。」



「だが、証人は見たと言っているぞ?」



私は微笑んだ。


「彼が見たのは、“鏡の中の像”だよ。」



ワトソンの目が見開かれる。


「つまり……モリアーティは現場にいなかった!?」



その通り。

鏡に映る像を利用し、証人を欺いたのだ。



モリアーティ……君らしい手口だ。



だが、君は一つだけミスを犯した。


鏡の存在を消そうと割ったが、完全に処理しきれていなかった。

その小さな破片が、君の幻を崩す鍵になる。












『知の対決』



「実に見事だ。」


私は静かに紅茶を飲みながら、ホームズの分析を聞く。



「私の作った幻影を暴くとは、さすがだな。」




彼は私を見つめながら言った。


「君の計画は完璧だった。ただし、鏡の破片が残っていた。」


その言葉に私は微笑んだ。



「破片があろうと、証言が残る限り、私は捕まらない。」



「証人が”見た”と主張する限り、警察はそれを信じる。証言を覆すのは容易ではない。」


「では、どうする?」私は問いかけた。


ホームズは静かに答えた。


「君が次に仕掛ける手を読ませてもらうよ。」



「それは実に楽しみだな。」


我々の戦いはまだ終わらない。




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