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第2話 フライパンとお玉を装備したオーガ(?)に襲われる

 ステファンを追い出して、念のためにと寝る前に部屋に設置していた結界石から響いた警戒音で、ティナは目が覚めた。


 この結界石は極悪と名高いSクラスダンジョン〝地獄の底〟でも使える一級品で、使用者に対して敵意を持つものに反応して警戒音を発する。

 そのうえオーガの全力攻撃だって何発も防いでくれる優れものだ。大事にメンテナンスをすれば何度でも使える。コスパも最高なティナの相棒であり、エピック級の魔道具である。


 それが反応したということは、本来ならば安全なはずの家の中でティナに敵意を向けるものがいたということだ。


 昨夜のステファンの様子を見て嫌な予感がしたから結界石を置いて寝たが、まさか本当に起動するとは思わなかった。


 結界石の有効範囲はティナが寝ていたベッドとその周辺だ。

 安全な広いベッドの上で身を起こしたティナは、あくびをしながら伸びをして呟いた。


 視線の先の扉は、昨夜内側から鍵をかけて寝たはずなのに大きく開かれている。

 そしてその扉の側には、警戒音で鼓膜から脳を揺さぶられたせいで膝から崩れ落ち、床に手を突く姑がいた。


 姑の側にはフライパンとお玉が落ちている。

 おそらくこれが、結界石が反応した敵意の正体だろう。


 「しかしまあ、お義母さんちょっとベタすぎません? フライパンをお玉でガンガン叩いて起こす気でした? 冒険者養成学校の寮でもそんなのされたことないですけど」


 ていうか今何時です? とまだ薄暗い部屋を見回して半笑いで言うティナに、脳震盪から復活した姑ベアトリスはナイトキャップを床に叩きつけて叫んだ。


 「あなた、昨日ステフから水汲みを言いつけられたでしょう⁈ 主人の言いつけを守らず、嫁が同居初日から寝坊するなんて考えられませんよ!」


 「はあ」


 誰が誰の主人じゃ。とか、早朝からそんなに元気で叫べるなら姑が水を汲めばいいじゃんとティナは思いつつ、立ち上がってふんぞり返ったネグリジェ姿の義母の鼻の穴を眺めながら呟いた。


 「そういうの、この規模の屋敷なら使用人の仕事だと思うんですけど。昨日の結婚式にいた彼らはどこ行ったんです?」


 「今日からあなたがそういう力仕事をするんだから、使用人なんて(そんなもの)いらないでしょう? 昨日のうちに全員クビにしました」


 出し過ぎた紅茶のような濃い茶色の鼻毛を見ながら、ティナは姑のその言い草に心底うんざりした。ステファンと同じ鼻の穴の形をしている。それに気づいたらまたうんざりした。


 どうやら姑たちは使用人の代わりに力仕事をさせるためにティナをモルレンデ家の嫁にしたらしいが、彼女たちの思惑通りにこちらが働くと思ったら大間違いである。


 ティナは結界石がちゃんと起動しているかを確かめてから、二つある枕のうちひとつを抱きかかえてベッドに転がった。

 スケスケ下着が姑にさらされるが、どうでもよかった。


 朝っぱらから怒りすぎてオーガのようになった姑を無視して目を閉じる。

 昨日の結婚式では上品なご婦人だったのに、とんでもない豹変ぶりだった。


 やっぱり今日中に離婚届をもらってこよう。

 なんか夫も夫だったけど、姑もだいぶアレだったし。


 わめき続ける姑の声が徐々に枯れていくのを聞きつつ、ティナは二度寝を決意した。

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