閑話 ロニアの冒険譚 ⑫
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遺体が安置された部屋の扉を開けると、
「ああ!サファイア!サファイア!」
泣き崩れる男が居たのだが、
「君が画家のセヴェリ・ペルトマだよね?」
ミカエルは何の感情もこもらない声で問いかけた。
「君には国家との対外的存在、隣国オムクスと通謀した疑いがあり、外患罪を適用する可能性が大きい」
「が・・外患罪ですか!」
今、軍部の人間に一番恐れられているのが『外患罪』もしくは『外患誘致罪』。
敵国と示し合わせてことを企み、祖国に対して武力行使をさせることを意味し、最悪の場合は処刑処分となるほどの重い罪となるのだが、
「ぼ・・ぼ・・僕は!・・僕は!・・みんなが知っているような情報しか言っていません!本当です!信じてください!」
セヴェリは驚き慌てながら言い出した。
「サファイアを守るために仕方なく!画家として赴くことがあった家のちょっとした情報を流しただけで!」
「ちょっとした情報を流すだけでも国を裏切る行為になるんだよ」
ミカエルは持っていた鞭を掴むと、涙で濡れるセヴェリの顎を引き上げながら言い出した。
「脅迫を受けた時点で憲兵隊の元へ通報するべきだったんだ。だというのに貴様は素人目線で手持ちの情報を取捨選択し、敵国に流すようなことをしたわけだ」
ミカエルは女と見紛うような顔立ちをした男なのだが、その瞳には強い殺気が含まれていた。
「せめて君のパトロンであるルオッカ男爵に相談をするべきだったのだ。だというのに、女が大事だという理由で貴様はやるべきことをやらず敵に踊らされた形となった」
真っ青な顔でガタガタと震え出したセヴェリは、
「すみません!すみません!本当にすみません!」
と言って泣き出した。
「僕はアンティラ伯爵がこっそり鬘を作っていて、肖像画にはカツラを着用した姿を描くように命じられたってことを言っています!」
セヴェリは泣きながら言い出した。
「ペルトマ伯爵夫人は胸を盛っているとも言いました!夫人は非常に痩せているのですが、胸の膨らみが貧相なのだと気にしていて、パットを五枚使っていると言いました!」
セヴェリは泣き続けながら言い出した。
「キルッカ子爵の全身像を描いたのですが、股間は盛っているとも言いました!男らしさを強調したいということで、カップを入れて強調していたってオムクス人の男に言いました!」
「お前!そんなことを敵国の人間に言ったのか!」
オルヴォ・マネキンが笑いを堪えながら問いかけると、
「だって僕は画家ですもの!」
と、セヴェリは必死になって言い出した。
「絵に関係することくらいしか分からないんだって言ったんですけど、面白いし、何でも良いから情報を持って来いって言われてしまって!」
「ゔ―ん」
今、セヴェリが言った内容は思わず吹き出してしまうようなたわいもない内容にも思えるのだが、隣国オムクスは情報戦を得意とするのは有名な話だし、手に入れた多くの情報を使ってミカエルの想像を遥かに超えるようなことも企むのが敵国の特徴でもあるのだ。
今回は、娼婦を使って情報の抜き取りを図ったのは間違いないのだが、将校たちが頑なにこれを認めないのにも理由はある。
多くの軍人が買春行為を楽しんでいたのだが、好みの女性から甘えられて、
「そうか、そうか、可愛い奴だな〜」
と、言いながらポロッと言ってしまった言葉を利用されて、本国に危機を招くようなことにでもなれば『外患罪』または『外患誘致罪』を適用される可能性だって出てくることになる。
下手したら死刑にはなりたくないため、
「「「北の部族による犯行だ!」」」
と、言い出す輩がやたらと多い。買春行為=内通行為とされては困るとばかりに騒いでいるのだが、これもまた敵国の思惑によるものかもしれないのだ。
「とにかく、何を敵国の人間に伝えたのかは詳らかにして貰わなければこちらも困る。今から別室に移動をして聴取をする形となるのだが、そもそも君は今日の早朝、遺体が発見された家を訪問していたという報告を受けている。君はそこに恋人の死体があるものと分かった上で訪問をしたのか?」
「はあ?」
セヴェリの顔色が青から紫へと変色をしていく。
「え?なに?どういうことなんですか?」
「君が本日朝の7時過ぎに、オペラ劇場からも近い裏路地に位置するアパートを訪問していたということは、近隣住民からの聴取からも明らかとなっている。家主が不在だったため君はそのまま引き返したようだが・・」
ミカエルは、顔色が変色していく画家のセヴェリを針のような鋭い眼差しで見つめながら言い出した。
「何故、君は、遺体があるアパートを早朝に訪問したんだ?」
「そ・・それは・・あの・・」
「アパートを訪問した後に、定食屋のマダムに招かれて食堂へと移動をしたようだが、君と定食屋との関係はなんなのだ?周囲の人間は定食屋の夫婦が君のことを息子のように可愛がっていると言っているようだがそれは本当なのか?」
「あの・・その・・そんな・・・」
拳を握って俯いたセヴェリは震える声で言い出した。
「今日の朝、僕はサファイアのお姉さんの家を訪問しただけです。脅迫を受けて以降、彼女と会えていなかったから、彼女が無事なのか確認したくてお姉さんの家へと伺ったんです」
「お姉さんとはどんな人なんだ?」
「その・・あの・・ナザレノ・ティコリというメゾンのマダムをしている人で、帝国で最先端のファッションを貴婦人たちに提供しているんだって聞きました」
「ナザレノ・ティコリだって?」
ミカエルが思わず驚きの声を上げると、後ろからオルヴォが、
「君が訪問した家なんだけど、有名なフルート奏者が所有しているアパートなんだよ」
と、気遣うように言い出した。
「最近まで演奏旅行をしていて、帝国まで行っていた人なんだけど、帰って来た途端に異臭を感じて、それで床下を確認して驚き、悲鳴をあげてしまったというんだ。俺はその悲鳴を聞きつけてその場に駆けつけているんだけど、あそこの家はフルート奏者ピア・オリンが所有するアパートなんだ」
「ええっ!そんな!僕は五日前にも訪問していますし!先月、彼女のお姉さんに食事に招待されているんですよ?」
「その姉だと言う人物が、ナザレノ・ティコリのマダムだと本人自身が言っていたのか?」
ミカエルの質問に、セヴェリは首を激しく横に振った。
「そうじゃないんです。ナザレノ・ティコリのメゾンに出入りしているのをたまたま僕が見掛けたもので、それでサファイアに尋ねたら、あそこのメゾンのマダムをしているって言われたんです」
「踊り子のサファイアとその姉は、同じ両親から生まれた姉妹だったのか?」
「いいえ、父親が一緒なだけで、母親は違うんだって言っていました」
憂いを含んだ眼差しを遺体となったサファイアに向けたセヴェリは、
「だって全然似ていない姉妹でしたからね」
と、言い出した。
「左手の小指の爪の形が二人とも変形していて、そこだけは父親に似ていると言っていたかな」
その言葉を聞いて、ミカエルは思わず眉間に皺を寄せながら自分の下唇を噛み締めたのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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