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閑話  ロニアの冒険譚 ⑧ 

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 北の部族出身のマダム、シグリーズルはラハティ人と結婚をして王都に居を構えるようになってからというもの、王都に住む北方民族の支援を行って来たような人である。


 人道家として一部の人間には有名人となるシグリーズルの家には、北方の伝統の刺繍が施されたキルトがあちこちに飾られているのだが、

「雪の結晶・・」

 鮮やかな刺繍の模様を眺めたオルヴォが思わずといった様子で呟いた。


 北の人々にとって雪の結晶は神の象徴にもなるため、身近にありながらも尊い存在として、結晶を施したものを身近におくことは護符の意味もあるとされているのだが、

「セヴェリさん、怒らないから出ていらっしゃい」

 ロニアが部屋の奥に向かって声をかけると、ガタゴトと音がした後に、壁掛けの向こう側から行方不明となった画家のセヴェリが現れたのだ。


 セヴェリは顔立ちが整った男なのだが、今は憔悴し切った様子で金色の髪の毛も萎れたたんぽぽの花のように垂れ下がっている。無精髭を剃ろうともしないセヴェリは、

「お嬢様・・本当にすみません!」

 と言って、床に膝をつき首を垂れたのだった。


「サファイアが・・サファイアが行方不明になって・・心配で、心配で、手がつかなくなって・・絵とか描いている場合じゃないっていうか・・とにかく・・何もかもが無理になっちゃって・・」

 セヴェリはポロポロと涙を流しながら言い出した。

「もしかしたらサファイアは・・サファイアは殺されたのかもしれないです!」


 ロニアはオルヴォと目と目を合わせると、床に膝をついたまま涙を流す画家のセヴェリを見下ろした。


 画家のセヴェリは整ったその顔からも分かるとおり女性からの人気も高く、抱えている愛人、恋人は数知れずというような男なのだ。最近、踊り子のサファイアに夢中になり過ぎてかなりの額を貢いでいたという噂は聞いていたし、そこで金が必要になって他所の画廊への移籍を考えることになったのかと思っていたのだが・・


「まあ!まあ!ロニアさんったらお土産にシナモンロールを買って来てくれたのね!」

 マダムは明るくそう言うと、

「セヴェリもさあ立ち上がって、みんなでフィーカ(コーヒーブレイク)をしましょう!」

 と、言い出したのだった。


 そこでロニアの後ろに立っていたオルヴォが、

「あっ!」

 と、言い出した。

「あってなに?」

「サファイアって・・赤髪で有名な踊り子じゃなかったか?」

「そうだけど?」

「ああ〜」

 オルヴォは挙動不審になりながらも、

「と・・とにかく、話を聞くのが先かな〜」

 と、言い出した。


 食い詰めた芸術家が多く住むこの建物には、秘密の部屋や秘密の抜け道が存在する。迫害を受けた部族民の受け入れを行って来たマダムの歴史がここには残されているのだった。建物のオーナーであるマダムの部屋には天井からポプリにするためのドライフラワーがぶら下がり、見事な刺繍が施されたキルトがあちこちに飾られている。


 日当たりの良い可愛らしい部屋に無精髭が生えたセヴェリと逞しい体つきのオルヴォが座るだけで一気に狭くなったようにも感じてしまうのだが、

「今回は上手くロースト出来たと思うのよ」

 と言ってマダムはテーブルの上に珈琲を注いだカップを置いていく。


 椅子が四つ置かれたキッチンテーブルについたロニアは珈琲を一口呑むと、

「美味しいです!」

 と、マダムに言った後に、

「アンティラ伯爵の肖像画の期限が今日だってことは理解しているのよね?」

 と、セヴェリを睨みつけながら言い出した。


「それは・・はい、分かっています。今日が締め切りだってことは分かっています」

「それじゃあ、何で今まで逃げ回っていたのか、きちんと説明してくれるのよね?」

 ロニアはにっこり笑いながら言い出した。

「怒らないから、最初から最後まで、きっちりはっきり教えてくれると嬉しいわ〜」


 なにしろ女にだらしないセヴェリは外国人のマダムといっときの恋人関係となって、マダムの夫(外国人)に脅迫をされているのかもしれないし?お金欲しさに他所の画廊に移籍をしようと考えているのかもしれない。


 外国人に脅迫をされているみたいだし、引き抜きの誘いも受けていた。

 何処の画廊がうちのホープを引き抜きしようと考えたのか?

 ロニアがイライラしながらしょげかえったセヴェリを見つめていると、セヴェリは覚悟を決めた様子で口を開いたのだった。


「踊り子のサファイアにはじめて会ったのは・・エレナの酒場でした」


 エレナの酒場とは劇場前通りに面した小洒落た酒場のことであり、金持ちが貸切りにしてパーティーを開くことも良くある場所になる。

 うん?と、思ったものの話を遮らずにいると、セヴェリはポツポツと今まで自分に起こったことを語り出したのだった。


「金持ちが企画するパーティーに僕も誘われることになったんですけれど、そこに招かれていたサファイアを見て、僕は運命の女神にようやっと出会えたってことに気が付いたんです」

 ロニアはうん?と、思ったものの、話を遮らずに聞くことにした。


「情熱的な炎の色の髪にサファイアのような瞳を持つ彼女のダンスを見た時に、今まで灰色だった僕の世界が一気に色づくことになったんです!」

 ロニアはううん?と、思ったものの、話を遮らずに聞くことにした。


「友人がサファイアを紹介してくれたので、僕は彼女の手を取って彼女の手の甲にキスを落としました。僕の心はすでにサファイアで埋め尽くされていたのです。だからこそ、彼女の絵を描かせてくれないかと僕は彼女に願い出たんです」

 それはお前のいつものナンパの方式ではないかと思いながらも、ロニアは話を遮らずに聞くことにした。


「マネージャーの男が出て来たんですけど、僕が画家だということが分かると途端に笑顔になって、彼女の絵を描いてやってくれという話になったんです。そこで僕はサファイアを僕のアトリエに招き入れ、僕たちの恋が始まることになったんです」

 それもお前の常套手段じゃないかと思いながらも、ロニアは話を遮らずに聞くことにした。


「僕たちの恋は最初こそ順調でした。本当に、最初の方は順調だったんです。だけど、サファイアが僕に助けてくれって言い出して・・」

 セヴェリは自分の髪の毛を掻きむしるようにすると、

「貴方だけを愛しているから、他の男に体を差し出したくはないって。あのクソマネージャーは女衒のようなことをやっていたんです。ようするに金持ちの男に踊り子たちの一晩を売るようなことをしていたわけなんです。僕は彼女のマネージャーのところに文句を言いに行ったわけなんですけど、そこでナイフを突きつけられて、殺されそうになったんです」


 ロニアは嫌な予感がどんどんと膨れ上がって来たものの、何も言わずにいると、

「この子ったら本物のバカでしょう?」

 と、シグリーズルが言い出した。


「うちの子たちも、こういう騙され方をする子が多いのだけれど、まさかラハティ人でもそんな手に嵌るのかと驚いちゃったくらいなのよ〜」

「いや、本当に・・」

 美人局に見事に嵌められたとしか思えない展開に、ロニアは自分のズキズキと痛む頭を抱えこむことになったのだった。


殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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