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閑話  ロニアの冒険譚 ③

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 画家というものは有名になればなるほど、ファンはその画家の背景に強烈な興味を抱くようになる。この絵を描いていた時にはどんな心境だったのか、どういう心境でこの場所を選び、この絵を描いたのかなど、

「まあ!あの方はここで絵を描いていらっしゃったのね!」

 ということで、画家が描いた場所まで赴いて聖地巡礼をするファンだっているほどなのだ。


 コアなファンになればなるほど、画家が描いた絵だけでなく、その画家自身に興味を抱くようになるのだが、

「この画家はすでに亡くなっているのですが、実は彼、アトリエで殺されていたのです。そのアトリエが密室で〜」

「「「え〜?なんで?どうして?そんなことになっちゃったの〜?」」」

 作家がミステリアスな死に方をしていると、そこに興味を持った人間は、たとえその絵にそこまでの資産価値がなかったとしても、多額のお金を払ってしまう。


「実は最近、購入した絵なんだけど、実はこれを描いた画家は・・密室の中で殺されていたんだよ」

 と、いろいろな人に話して聞かせてやりたいし、

「「「え〜?なんで?どうして?そんなことになっちゃったの〜?」」」

 と、周りの人間を驚かせたい欲求も大きくなってくる。


 夏が短くて冬がやたらと長くなるラハティ王国では、話のネタを多く持っている者ほど人気者になりやすい。ミステリーな絵画なんてものは格好のネタになるのは間違いないため、

「そうか、そうか、これは面白い絵画だね」

 と言って、そこそこの値段を払って購入してしまうのだ。


 ちなみに、密室となったアトリエで殺された画家についての後日譚となるけれど、後に殺人犯として捕まえられた愛人がアトリエの合鍵を持っていたことから、何のトリックもない、単なる痴情のもつれによる犯行だったということが明らかとなる。だけど、そんなことは全く関係ないのだ!

「面白いネタに出来ればそれで良いのよ!」

 というのがロニアの持論であるし、ルオッカ男爵家の方針でもあるのだった。


 だからこそ、ルオッカ男爵家がパトロンとなっている画家は、基本的にプライバシーというものが存在しない。行方不明となったセヴェリ・ペルトマに何処にどれだけの愛人が居るのかなんてことも熟知しているし、

「この絵は画家のセヴェリが踊り子のサファイアに夢中になっていた時に描かれたもので、サファイアが愛した碧を、彼はラピスラズリを利用して描き出しているのです」

 なんて注釈を入れたいがために、画家の私生活はパトロンに丸裸状態になっているとも言えるのだ。


 だからこそ、行方不明の画家が隣のマダムの家でグラタンを食べたと聞けば、その情報から画家の足取りを追うのがルオッカ男爵家の人間の役目。

 ロニアはオルヴォを引き連れて劇場通りへと向かったのだが、

「あれ〜、最近、劇場通りについてはかなり詳しくなっていると思っていたんだけど、こんなところに定食屋があるなんて知らなかったな〜」

 ロニアの後ろをついて歩いていたオルヴォは、思わず呆れたように声をあげたのだった。


 オペラ座がある通りのことを劇場通りと呼ぶのだが、最近では都市開発が進んで、オペラ座の周囲には富裕層を狙った洒落たレストランが並んでいる。

 金持ちと富裕層の若者向けの区画といった印象を醸し出しているのだが、オペラ座からほど近い場所にある一本裏路地に入った場所に、そのこぢんまりとした定食屋は存在しているのだった。


『ジルの定食屋』は昼から店を開けるので、店主のジルベルトの妻、マリアが朝から店の前を箒で掃いていたのだが、

「んまぁあ、ロニアったら遅かったわね」

 老婆のマリアは曲がった腰をう〜んと伸ばしながら言い出した。


「セヴェリさんだったら今朝方、丁度出て行ってしまったのよ」

「えええ?エロ画家が今朝、出て行ってしまったって本当ですか?」

 ロニアの後ろでオルヴォが驚きの声をあげている。

「もしかして、おばあさんはエロ画家の愛人?」

「バカをお言いでないよ!」

 手の甲を口元に当てながら、マリアがオホホホホッと笑い出す。


「いくら私が過去にお盛んだったと言っても、この歳になるまで若い愛人を抱えてなんていられやしないわよ」

 過去には大量の若い愛人を抱えていたような言い振りに、ギョッとした様子でオルヴォがロニアの方を見ると、

「マリアさんはお若い時に、そこのオペラ座でプリマドンナとして鳴らしていた人なんです」

 ロニアは簡単に説明をした。


 遥か昔、マリアがプリマドンナ(主役女性歌手)だった時代、夫のジルベルトはプリモ・ウォーモ(主役男性歌手)だったのだ。引退後の二人がオペラ座近くの裏路地で定食屋を開くまでは紆余曲折があり過ぎて一冊の本にしても足りないような内容となるのだが、面倒臭いのでロニアはオルヴォにその辺りを説明をするつもりは全くない。


「このジルの定食屋はヤスペルの誘惑(ジャガイモとアンチョビのグラタン)しか出さないお店なんだけど、元プリマドンナにあやかろうと、新人のオペラ歌手なんかが良く利用するし、画家のセヴェルさんはここの子供みたいな扱いなのよ」

「え?子供?」

「だってあの子ったら可愛らしいじゃな〜い!」

 老婆はクスクス笑いながら言い出したのだが、画家のセヴェルは相手が年寄り相手だとよく働くので、年寄り連中から異常に好かれる画家なのだ。


「セヴェルさんは何泊したんですか?」

「一泊だけだけど」

「普段と同じような感じですか?何か変わったことはありましたか?」

「そうねえ〜」


 オルヴォは箒を片手に持って立っているだけなのに、老婆から滲み出てくる品格のようなものを感じて、流石は昔、プリマドンナだっただけはある!というようなことを考えていたのだが、

「真っ青な顔をして、物凄く怯えていたわね」

 と、マリアは瞳を伏せながら言い出したのだった。

「ちょっと尋常じゃない怯えぶりだったわね」


「肖像画の締切りが迫っていることによる怯えという奴ですか?」

 オルヴォの質問に、

「そんなんじゃないわよ〜!」

 マリアはコロコロ笑いながら言い出した。


「そういうのではなくて、根源的な恐怖というか、何だか尋常じゃない感じで、あまりにも様子がおかしいから私たちも今日は泊まっていくようにと勧めたわけなのだけれどね?」

「何に怯えていて、それで何処かに出掛けて行った。何処に行くか言ってましたか?」

「さあねえ?」

 マリアは少しだけ考え込んだ後に言い出した。


「結晶を見に行くと言っていたわね」

「結晶?」

 ロニアがそこから深く考え込み始めると、突然、路地の向こう側から、

「キャーーーーーッ!」

 という、女性の叫び声が轟いたのだ。


殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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