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「ねえ、リューディア、あなたったらどうするつもり?」
お茶会を終えて馬車で帰ろうとしていると、後ろから追いかけて来たマリアーナが問いかけて来たのよ。
「カステヘルミの話を聞いていたらすっごく怖くなってしまったのだけれど、あなたったら本当にミカエルと結婚するつもりなの?」
マリアーナの中では浮気を繰り返すミカエルは病気の持ち主に認定されちゃっているみたいだわ。
「もちろん私はこの婚約を破棄、白紙、解消に持ち込みたいと思っているわよ!」
「だったらこれから一緒にメゾンのマダムのところに行ってみる?」
メゾンのマダムというと、ミカエルが最近深い関係になったと噂されているマダムのことよ。
「そのマダムがミカエル様に夢中になっていて、結婚したい〜!という強い思いを抱いているのならリューディアはマダムのために身を引いて、新しい相手を見つけ始めるっていうシナリオが出来上がると思うのだけれど」
「お・・おお〜!」
モジモジしながら言い出すマリアーナの言葉を聞いて、思わず感動の声を上げてしまったわ。
「これからマダムのところへ行くって言うのなら私も付き合ってあげることが出来ると思うのだけれど」
「マリアーナったら最高だわ!」
私は思わずマリアーナに抱きついたわ。
「ミカエルと仲良しな女性って大概が私に物凄い敵意を向けて来るのだもの。だからこそ、マダムも敵意を持って睨みつけて来るかもしれないって思っていたんだけど、そのマダムとミカエルがくっつくように手伝ってあげるとこちらが言えば、マダムの態度も大分変わってくることになるものね?」
「カステヘルミは今しかチャンスは残されていないって言っていたでしょう?」
マリアーナは人差し指で赤縁の眼鏡を押し上げながら言い出したのよ。
「リューディアに病気が移ったら困るもの、そんなことになるくらいだったら、さっさと婚約は解消したほうが良いわよ!」
「そうよね!そうだよね!」
私はもう一度、マリアーナに飛びつくようにして抱きついたわ。
「それじゃあ一緒に行きましょう!マダムが経営するメゾンに行きましょう!」
「ナザレ・ティコリのメゾンは店舗の一部が住居になっていたはずだから、運が良ければマダムに直談判できると思うのよね」
「だったら今すぐに行きましょうよ!」
一人でマダムのところまで出向くのには物凄く勇気が必要になるけれど、マリアーナがついて来てくれるのならとっても心強いわ!
心強い親友マリアーナは、最近、恋人募集中状態だったというのに、今日のカステヘルミの話で一気に気持ちが萎えちゃったみたい。
「職場の上司が紹介してくれると言ってくれたんだけど、なんだかとっても怖くなってしまったのよ。そもそも、相手がどんな人間かだなんて初対面じゃわかるわけもないじゃない?それで女好きの病気持ちだったと後から分かったらどうしよう?恐怖なんだけど〜!」
馬車の中でマリアーナはそんなことを言い出したのだけれど、病気への恐怖でパニック状態になっているみたい。
「研究一筋の真面目なタイプだったら大丈夫なんじゃないのかな?」
「でもね、研究一筋で真面目なタイプだというのに、そういったお店が大好きな人って噂によると結構いるらしいのよ」
「それは所詮噂でしょう?」
「だけどね、女の人と一度も交際したことないけれど、そういったお店には良く顔を出すなんて話を私自身も小耳に挟んではいるのよ」
学者肌の家系であるマリアーナは、とっても頼りになる姉御肌みたいな外見をしているというのに、そういった話になると途端に奥手になるのよね。
「嫌だわ!私のお兄様もそういったお店に行っているのかしら?病気を貰って帰って来ているのかしら?怖いわ!本当の本当に怖いわ!」
「実家に帰る機会があったら、是非とも直接質問してみてよ?どんな反応が返って来るのか興味があるわ〜」
絶対に妹には突っ込まれたくはない話題よね〜。
マリアーナの兄はどんな反応をするのかしら〜。
想像するだけで楽しくなってくるわ〜。
「それじゃあリューディアも自分のお父様に尋ねてみてよ!そういったお店に行ったことがあるのかないのか、病気を貰ってきた恐れがあるのかないのかってことを!きちんとハッキリ質問して来てちょうだい!」
「いやいや、何でお父様にそんなことを質問するのよ?」
私の家族構成は父と母と一人娘の私と猫二匹という構成なのだけれど、二匹の猫は雌なので完全なる女だらけの構成なのよ。お父様は完全なるアウェーなのよ。
「万が一にも『いや〜過去に一度、貰っちゃったんだよね〜』とか言い出したらどうするのよ?反応に困るし、母が激怒するわよ!」
そんなことをくちゃくちゃと喋っている間に馬車はあっという間に劇場通りの80番地にある問題のメゾンの近くに停車することになったのよ。
たまたま問題のメゾンは定休日で、人の出入りはもちろん無いように見えたのだけれど、馬車で移動の途中で裏通りへと歩いていくミカエルを見たような気がしたのよ。気のせいかもしれないけれど、あの珍しい金茶の髪はミカエルではないかしら?
「さあ!お店の方は、今日は開いていないみたいだけど、自宅部分の方には明かりもついているしマダムも在宅のようよ!勇気を奮って突撃訪問をしちゃいましょう!」
夕暮れ時ということもあって、人通りも多いし、楽しそうに買い物をしている人の姿も見えるもの。
この地区には服飾を取り扱う店舗が非常に多い関係から、多くの針子さんが働きに来ているのよね。だからこそ、ちょっと裏通りに入れば揚げ芋や魚のフライ、豚肉の串焼きなんかを売る出店が並んでいたりするの。夜ご飯に買って帰る人もいるし、ちょっと小腹を満たそうと買っていく人もいるのよね。
表通りから外れて店の裏口の方へと回ってノックをしようと思ったのだけれど、
「あれ?扉が開いているんだけど?」
私が思わず驚きの声をあげると、
「まあ!随分と不用心じゃない?マダム!マダム!いくらこの辺の治安が良いと言っても不用心ですわよ!」
扉を開けてツカツカとマリアーナは家の中に入って行ってしまったのよ。
王宮で働いているマリアーナは押しが強いというか、どんどん前に出ていって物事を進めてしまうところがあるのよね。この勢いでマダムとミカエルをくっつけてくれないかしら?と、そんなことを思いながら裏口から入った私は、キッチンに誰もいないことを確認した。
店舗の方にでも居るのかしら?
そんなことを考えながらぐるりと見回している間に、マリアーナはどんどん部屋の奥へと進んでいく。彼女はちょっと猪突猛進なところがあるのよね。
「マダムー?すみません、突然訪問して申し訳ないのですが〜・・」
私はそんなことを言いながら炊事場の横の倉庫の扉を開けたのだけれど、激しく後悔することになったのよね。
私の家では大概、キッチンに人が居ない場合は誰かしらが倉庫の方で何かしらをしているから、ほぼ、習性みたいな感じでこの扉を開けたわけなんだけど、
「マリアーナ!ちょっとこっちに来てちょうだいー!」
私はどんどん遠ざかるマリアーナのほっそりとした背中に向かって声をあげたわ。
「あのね!マリアーナー!マダム、ここで死んでいるみたいー!」
「はあ?冗談はやめてよ〜!ミカエルが浮気をしても殺したいほど憎いってわけじゃ無いんでしょう?」
「違う!違う!冗談とかじゃなくて、本当の本当に死んでいるみたいなんだってー!」
「なんなのよ、その死んでいるみたいってやつ」
戻って来たマリアーナは倉庫にうつ伏せの状態で倒れているマダムを見下ろして悲鳴を上げたわ。それはそれは派手な悲鳴で、近所の人が飛んで来るほどの悲鳴よ。
そりゃそうよね、倒れたマダムの腰にはぶっすりとナイフが刺さったままだし、傷口から流れた血液で池みたいになっているのだもの。
こちらの作品、アース・スター大賞 金賞 御礼企画として番外編の連載を開始しております。殺人事件も頻発するサスペンスとなりますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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