御礼企画 妻の心を取り戻すには ⑥
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レストラン・ラヴィントラは王都の高級住宅地にあるのだが、席数も少ない隠れ家的なレストランで、今の国王陛下が若かりし時に王妃を連れてお忍びで訪れたという話で有名なのだ。
帝国の流行を取り入れたモダンさとラハティ王国の古き良き伝統が共存したような不思議な雰囲気を持つ店であり、ここで出されるトナカイの肉を使った料理は絶品であり、予約は一年待ちとも言われている。
「私、ここのお店に来るのは初めてですわ!」
自分の妻をレストランに誘う前に妻の両親をレストランに誘って情報収集をしていた俺は、後からカステヘルミに激しく非難をされることになったのだ。そこで明らかに格が違うレストランを予約してカステヘルミを誘ったのだが、彼女の機嫌も急上昇しているようだ。
俺はペルニラ夫人の指導の元、毎日、毎日、妻の心を取り戻すために努力を続けているところなのだが、
「あら!あら!オリヴェルじゃない!珍しい〜!貴方でもこんな店に来るのね〜?」
レストランが開店となるのは18時、レストランの開店前から並んでいる貴婦人の集団の中から一人のレディが俺に向かって声を掛けて来たのだ。
「貴方とお付き合いをしたのは五年も前になるけれど!顔だけはあの時と変わらない美しさなのね〜!心底呆れるわ〜!」
そう言ってコロコロと笑い出すアレクサンドラは、一時期、俺の花嫁候補として交際をしていたことがある人物だ。彼女はデンシック伯爵家の長男と結婚をしていたはずなのだが、何故、そんな女がここに居るんだ?
「アレクサンドラ、お前の夫は何処だ?」
「え? 家だけど?」
派手なドレス姿のアレクサンドラは、近くにいる貴婦人たちの方を振り返りながら言い出した。
「今日はお友達と食事に来たのですもの!夫がいるわけがないじゃない〜!」
そこでカステヘルミが俺の服の裾を引きながら上目遣いとなって、
「あの、オリヴェル様、ご紹介はしていただけないのですか?」
と、問いかけて来たんだ。妻としての不安を露にするような、動揺を隠せないような彼女の態度は演技なのだろうか?それとも本心なのか?
「この女は…」
「はじめまして!一時期はこの男と交際をしていたアレクサンドラと申します〜!」
アレクサンドラは無遠慮にカステヘルミの手を取って握手をしながら言い出した。
「噂は色々とお聞きしておりますわ!この男のことでしたらカステヘルミ様よりも私の方が知っていることが多いと思いますので!良い機会ですもの!何でも訊いてくださいませ!」
アレクサンドラの言葉には嫌味とマウントが盛り込まれているのだが、カステヘルミは瞳を伏せ、不安と焦りを隠しきれないような気弱な様子で言い出した。
「まあ…とっても心強いお言葉ですわ……」
まさか昔の恋人の出現でカステヘルミの心の中にも不安とか、俺を取られやしないかという焦りの気持ちが生まれて来ているのだろうか?
「オリヴェル様については分からないことばかりで…」
「そうでしょうね!そうでしょうとも!」
派手な美人であるアレクサンドラは百合の花のように清楚で可憐に見えるカステヘルミに向かって勝ち誇った猛獣のような顔で見下ろしながら言い出した。
「この男、とにかく仕事第一の男でしょう?それにプレゼントを用意してもセンスはないし、花束一つ用意してもダサいのよ。頭の中身は家族、家族、軍部、軍部、女が入り込む余地もないというか?顔だけ良くても本気で無理って思ったものですわ!配慮もしなければ考慮もしてくれないのですもの!別れて正解だったなって今でも思っておりますもの!」
アレクサンドラはカステヘルミを威嚇するように見下ろしながら、何故、俺をコキおろし続けるのだろうか?一時期は俺の花嫁候補だったこともあって、公爵家の令息なんて振ってやってせいせいしたと主張したいのだろうか?
「そうですわね、世の男の人とは皆様そういうものですもの」
カステヘルミの言葉に俺の胃は鉛のように重くなったのは言うまでもない。
結婚前から現在に至るまで、数々のやらかしが頭の中を回転する。
またピーナツ一粒も与えない男と非難されることになるのだろうか?
するとカステヘルミは俺の腕に自分の腕を回しながら、
「結婚前には山のようなプレゼントを贈っていたとしても釣った魚には餌はやらない方式を取る殿方もおりますし、逆に結婚後、今になって必死になってプレゼント攻撃を仕掛けてくる人もおりますものね」
アレクサンドラに対して勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言い出した。
「私の夫は後者の方だったみたいですわね。今着ているドレスも夫がプレゼントしてくれたドレスなのですけれど、帝国で一番と言われるブランドのもので、わざわざラウタヴァーラの港に寄港した帝国の商船に乗り込んでまで購入してきてくれましたのよ」
カステヘルミはそう言うと、次にダイヤモンドをあしらった指輪を掲げながら言い出した。
「帝国では今、大粒のダイヤを使用した宝飾品が流行しているのですけれど、夫がプレゼントしてくれたこの指輪、帝国でもなかなかお目にかかれないほどのカラット数なのですもの。私は国王陛下の命令で王国と帝国を今まで行き来していましたから、帝国由来のものを用意して寂しくならないようにと配慮してくださっているみたいです!」
そのダイヤの指輪はペルニラ夫人に言われて大金を積んで購入した奴!
「あぁあら!アレクサンドラ様はオリヴェル様からセンスのないプレゼントしかいただいたことがないのでしたわよね?花束も好みではない花束?私の場合は部屋いっぱいに私が大好きな丸弁咲きのモスローズを敷き詰め、モスローズの花弁の差し色として白と青の紫陽花を並べ、最新の帝国のドレスの色合いに合わせるようにして芍薬やデラフィウム、ラナンキュラスの花々を部屋いっぱいに生けて用意して下さったけれど」
カステヘルミは勝ち誇った顔でアレクサンドラを見つめながら言い出した。
「男の方って結婚する前と後では違うみたいですわねえ〜!」
アレクサンドラがギリギリ歯軋りをし始めたところで、レストランの扉が開いたのだ。開いた扉から差し込む明かりに照らされた俺の妻は、頭の先からつま先まで、全てを帝国発信の最新ブランドで固めているような状態だったのだ。
こうして悔しがるアレクサンドラを置いて俺たちはレストランの中へと移動をしたのだが、
「これからルーレオのお姫様がラウタヴァーラ公爵家に嫁がれるというのに、先に嫁いだ私が今でも冷遇されているなんて噂が新たに流れたら困ることになるでしょう?」
と、カステヘルミはギャルソンが引いた椅子に座りながら言い出した。
「都合よく私たちの仲を宣伝することが出来て良かったですよ。アレクサンドラ様としては気に入らないでしょうけれど、確実に彼女の友人たちが今日のことを面白おかしく広めてくれることでしょう」
五つも年上のアレクサンドラを手玉に取って完全勝利をしてくれたのは確かに嬉しいけれど、以前交際した恋人が現れたというのに嫉妬の一つもしてくれないことに一抹の寂しさを感じてしまう。そもそも俺はカステヘルミの夫として、男として、認められているのだろうか?
「あら、あら、元気がありませんわね?やっぱりオリヴェル様も心配ですわよねえ」
「心配って何が?」
「ニクラス様のことですわよ!」
カステヘルミは可愛らしい鼻の上に皺を寄せながら言い出した。
「最初から頭がおかしい人だとは思っておりましたけれど、あそこまで頭がおかしい人だとは思いもしませんでしたわ!」
兄上はカステヘルミから頭がおかしい人だと思われていたんだな。
「カタジーナ様の根も葉もない噂を鵜呑みにして信じ切っている姿は滑稽以外の何物でもありませんわよ。本当に、ラウタヴァーラ公爵家の男たちは一体どうなっているのでございましょうね?」
俺は思わず自分の顔を両手で覆って項垂れた。
カステヘルミの言うラウタヴァーラ公爵家の男たちの中には、もれなく俺も加わっているのは間違いない事実なのだ。
「お兄様の話をするのに公爵邸の中では都合が悪いからということでレストランを予約したのでしょう?お兄様の結婚式まであと僅かではありますが、噂を信じ切っているニクラス様をどうしたら良いのでしょうねえ?」
「兄は・・きっと何とかなるだろう」
「何とかなるとオリヴェル様は思っているんですか?」
「兄は何とかなるよきっと!」
問題なのは俺だ。
帝国籍の船から購入(強奪)してきたドレスも、
「オリヴェル様、ドレスは貴方様がお嬢様のことを真剣に考え、吟味して選んだのだと言いなさい。決して乳母である私が関わったと思わせてはいけませんよ?」
と、ペルニラ夫人から言われて、俺自らが選んだんだ!という風に偽っているというのに効果はゼロ状態だし、足のマッサージだって毎日しているのに効果があったのかどうかが全く分からないではないか。
「今日は純粋にトナカイ料理を君と楽しむためにレストランを予約したのだが」
「え?なんで?どうしてかしら?」
不思議そうな顔をしたカステヘルミは、遠くに座るアレクサンドラの方に視線を送っている。
タイミングが悪いのにも程がある話ではあるのだが、このレストランを紹介してくれたアドルフ殿下に対して、正直に言って俺は恨みを抱き始めている。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ② 11月4日(火)に発売します!!御礼企画として1巻と2巻の間のオリヴェルとカステヘルミのお話を毎日掲載しますのでよろしくお願いします!!
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