御礼企画 妻の心を取り戻すには ④
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「妻へのサプライズが成功したのかどうかが分からないって?」
「本当にそうなんだよ。きゃあ〜!帝国のドレス!嬉しい〜!という反応でもあればサプライズは成功したんだなと実感できるんだけど、終始、怯えているようにも見えたものだから」
「それは失敗だろ、失敗」
執務室で書類に埋もれていた兄のニクラスは大きなため息を吐き出すと言い出した。
「宝石商でも呼んだらどうだ?そこで宝石の二つや三つも買えば、ピーナツ一粒と言われずに済むようにもなるだろう?」
アドルフ殿下に対して不敬罪をはたらいたユリアナの管理不行届を突きつけられることになった父上が引退をし、急遽、公爵家の当主となった兄上は殺人的な忙しさの中に身を置いているということは良く分かっているのだが、
「兄上、それでは駄目なんですよ」
俺は兄を諭すように言ったんだ。
「宝石を買えば女は満足という考えは非常に危ういものなのです。確かにレディの中には宝石さえ与えておけば大概のことは許してくれるという部類の人間も居るのですが、百人が百人、そうではないのだから、相手へのプレゼントは吟味に吟味を重ねる必要があるというのです」
「ええー〜?(めんどくさ〜!)」
兄上から言葉にならない思いが漏れ出ているのだが、これは危険信号と見たほうが良いだろう。
「兄上もこれから隣国の王女を娶ることになるわけですし、ええー〜?(めんどくさ〜!)なんて言っている場合ではないですよ!」
ラハティ王国と隣国のルーレオ王国は共同で鉄道事業に出資をしている関係で、
「両国の強固な繋がりを保つために!兄上は王女と結婚をすることになるわけですから!」
冬に入る前に急ピッチで結婚式が行われるのだから、準備、準備、準備で俺だけではなく妻のカステヘルミも忙殺されているような状況なのだ。
「その隣国の王女なのだが・・」
そこで兄上は下を俯きながら言い出した。
「当初の予定では隣国の正妃が産んだジョアンナ王女が当家へ輿入れする予定だったのだが、急遽、妾妃が産んだカタジーナ王女に変更となったらしいんだ」
「ああ〜、アドルフ殿下から聞きましたよ。何でもユリアナの一妻多夫の噂が巡り巡って隣国にまで伝わってしまったらしく、その噂を聞きつけたジョアンナ王女が急遽、兄上との結婚を取りやめにしたという話ですよね」
俺と同じように家の都合で自分の結婚相手は決められるのだろうと達観をしていた兄上だったのだが、
「まさか、正妃様が産んだ王女様ではなく妾妃が産んだ王女だから気に食わないとか言い出すわけじゃないですよね?」
そんなことはあり得ないと思いつつ恐る恐る質問をすると、兄のニクラスは吐き出すように言い出した。
「王女なんか誰でもどれでも構わないんだが・・ジョアンナ王女に代わって我が家に嫁ぐことになったカタジーナ王女なのだが、とんでもない噂がある王女みたいなんだ」
「とんでもない噂って・・」
ルーレオ王国では表に出てくるのは正妃が産んだ子供たちばかりで、妾妃が産んだ子供たちが公の場に出てくることはまずないと言われている。そうして民衆に顔を見せることもなく結婚政策に利用されることでも有名なのだ。
「実は隠し子がいるとか?それともすでに何処かに嫁いでいて、出戻ってきていた王女様だったとか?」
「そうじゃない!そうじゃない!」
兄上は綺麗に整えた銀色の髪を乱暴に掻きむしると、
「カタジーナ王女はルーレオ王国で『墨色姫』と呼ばれているらしい」
と、深刻な様子で言い出したんだ。
「墨色姫?」
「そうなんだ」
兄上はゴクリと生唾を呑み込むと、真面目な顔で言い出したんだ。
「隣国の妾妃が産んだカタジーナ王女という人は、何でも舌も黒なら口の中も黒で、白目も黒なら肌の色も黒だと言われているんだ」
「はあ・・」
驚くべきことに兄上は至って真面目らしいのだ。
「それじゃあ化け物になりますよねえ」
「そうだよな!白目も黒で、口の中まで真っ黒じゃあ化け物になるよな!」
驚くべきことに、兄上は至って真面目に言っているようだ。
「それもまた、隣国から流れて来た噂でしょう?」
俺もその噂は耳にしていたのだが、真面目に取り合ってはいなかった。
「俺が思うに、我が国とルーレオ王国との共同で始めている鉄道事業を頓挫させてやりたい敵国オムクスが、両国を繋げる重要な結婚に茶々を入れたくてそんな馬鹿げた噂を流しているんだと思います」
そんな馬鹿げた噂を信じる人がいるとは思いもしなかったので、呆れ返りながら兄上を眺めていると、兄上もまた呆れ果てた様子で俺の方を見ているのだ。
「オリヴェル、敵国オムクスがアーチ橋を爆破しようとしているのをお前が未然に防いだという話は知っているし、お前がオムクスのスパイと暗闘を繰り広げていたという話も聞いてはいるが、何でもかんでもオムクスと繋げて考えるのは如何なものかと思うんだが?」
「はあ?」
「なんだよ」
「兄上はもしかして、俺のことを馬鹿にしているんですか?」
兄上は視線を左右に彷徨わせた末に言い出した。
「いや、だって、お前が何でもかんでも敵国オムクスに繋げて考えるようなことを言い出すから」
「実際に敵の魔の手があっちにも、こっちにも伸びているんだから仕方がないじゃないですか!」
俺は思わず鼻で笑ってしまったよ。
「兄上こそ、書類仕事で頭が回らなくなっているんじゃないですか?」
「なんだよ」
「だって、白目も黒なら口の中も黒って、そんな人間いますか?」
「いるかもしれないだろう!」
兄上は椅子から立ち上がりながら言い出した。
「化け物が嫌だって言っているわけじゃないんだよ!たとえ化け物だって受け入れる覚悟は出来ているさ!だけど食べ物とかドレスとか、どういった物が好みなのか皆目検討がつかないし、生活環境もどういったもので揃えれば良いのか全く想像もつかないから困り果てているだけで!」
「化け物を受け入れる心意気は素晴らしいとは思いますが!冷静になって考えてください!この世の中に!口の中も真っ黒なら白目も真っ黒な人間なんて存在するんですか?見たことありますか?」
「いや、見たことないけども!」
その後、ラハティの王都では、
『ルーレオ王国からラウタヴァーラ公爵家に嫁いで来る姫様は〜 ♪ 真っ黒くろ、真っ黒くろ、手足も頬も真っ黒くろ ♪ 目玉も真っ黒なら口も黒い ♪ 舌も黒けりゃ皮膚も黒い ♪ なんなら髪も皮膚も真っ黒クロ真っ黒クロの墨色姫 ♪ 暗黒からやってきた四番目のルーレオの姫!』
こんな歌が流行することになったのだが、
「ルーレオ王国の4番目の姫は暗黒からやって来るのか・・」
市中で売られている、もはや化け物にしか見えないカタジーナ姫の肖像画を眺めながら、王女を受け入れた後の新婚生活を兄のニクラスは思い描いているようなのだが、
「放っておきましょう」
と、執事頭のグレンは首を横に振りながら言い出した。
「どうせ何を言ったって聞きはしないんですから」
「たしかに」
結婚政策として隣国から嫁いで来るのだから、普通の王女(と言うのもなんなんだが)に違いないと思うし、流行歌だって碌でもない奴らが広めているだけのことだと思うのだが、
「何を言ったって聞きはしないしな」
結婚式になったら嫌でも顔を合わせることになるのだし、兄には俺みたいに失敗をしないで欲しいと願うばかりなのだ。
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ② 11月4日(火)に発売します!!御礼企画として1巻と2巻の間のオリヴェルとカステヘルミのお話を毎日掲載しますのでよろしくお願いします!!
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