御礼企画 妻の心を取り戻すには ③
貴婦人たちの噂話は今日も楽しい ② 11月4日(火)に発売します!!御礼企画として1巻と2巻の間のオリヴェルとカステヘルミのお話を毎日掲載してきますのでよろしくお願いします!!
お話の中のオリヴェルは書籍の中で奮闘するオリヴェル(1巻)のその後の話になりますので、ネットで掲載中の内容と多少の齟齬があります。そこのところは置いておいて、楽しんで頂けたら幸いです!!
妻のカステヘルミは友人とのお茶会に出かけることが多い為、彼女の帰宅を狙ってサプライズを仕掛けようという話になったのだが、
「あらまあ」
万全を期すためにペルニラ夫人に相談をしたところ、
「それではサプライズになりませんわよ」
夫人はそう言ってオホホと笑い出したのだった。
「帝国船から購入(強奪)してきたドレスをトルソーに着せた状態で並べて、周囲は妻の大好きな花々で囲むつもりでいるのだが」
「オリヴェル様、それではサプライズになりません」
老夫人は紅茶を一口飲むと言い出した。
「お茶会というのは貴婦人同士で噂話を交換するために行われるもの。ただ、楽しくキャピキャピはしゃいで帰って来るのではなく、貴婦人たちの戦闘地から帰還をするようなものなのでございます」
「戦闘地からの帰還かあ」
激戦地から命からがら帰還したとして、そこで、
「サプラーイズ!」
好みの軍服、好みの装飾品を並べられたとしても、
「それでは相手を喜ばせることは出来ないか」
大きなため息を吐き出しながらサプライズの難しさをしみじみ味わっていると、
「オリヴェル様、時間をずらせば何の問題もないのですよ?」
ペルニラ夫人はそう言って曲がった腰を更に曲げながら前のめりとなって、幾つかのアドバイスを与えてくれたのだった。
そのアドバイスを帰宅後、執事頭のグレンと侍女三人組に伝えたのだが・・
「それは思いつきもしませんでした!」
「さすがはカステヘルミ様の乳母様!」
「完璧なサプライズになりますね!」
興奮の声を上げる三人組に比べて、グレンは一人眉を顰めながら、
「完璧なサプライズにはなるでしょうが・・それで本当にうまくいくのでしょうか?」
という疑問の声をあげたのだった。
歴史あるラウタヴァーラ公爵家の王都にある邸宅は中央に当主夫妻の居住空間があり、左翼側に跡取りとなる嫡男夫妻、右翼側に跡取り以外の家族が住む居住空間が設けられている。夫婦の寝室を中心にして左に夫の寝室と応接室、右に妻の寝室と応接室という作りになっているのだが・・
「「「静かに・・静かに」」」
妻が就寝したのを確認して妻の応接室にドレスを着せた十体のトルソーを運びこみ、妻が大好きだという丸弁咲きのモスローズという薔薇だとか、白と青の紫陽花だとか。ドレスの色合いに合わせるように芍薬だのデラフィウムだの、ラナンキュラスという名前の花を並べていく。
妻が好む花という花を金をかけて用意したのだが、
「ただ、ただ、お嬢様の好きな花を並べるだけではサプライズになりませんわよ」
とペルニラ夫人に言われることになったので、王都でも有名なフローリストにアレンジをしてもらうことにしたのだ。
日中であれば完全に戦闘モードに入っているカステヘルミにサプライズを仕掛けるのなら朝、目が覚めた時だと夫人は言うのだが・・
「こ…こ…これはどういうことなのかしら?」
帝国の最先端のドレスを十着並べた応接室へと移動して来た俺の妻は、
「な…なんなのこれは…足の踏み場がないじゃない…」
喜んでいるのか、喜んでいないのか、さっぱり良く分からない。
「一応! 通路は作られているみたいです!」
「ドレスを確認出来るように道が出来ているみたいです!」
侍女のリアとヘルカが必死に声をあげているのだが、
「ちょっと待って、このドレス、帝国で人気のブランドの物じゃない!」
ここでカステヘルミはようやっと、船から強奪して来たドレスが帝国産だと言うことに気が付いたようだ。
「うちの坊っちゃまが本気を出せば、これくらい簡単なことでございます」
執事のグレンがドヤ顔で言っているんだろうなと想像をしていると、
「カステヘルミ様! そう言われちゃうと今までどれだけ本気を出していなかったのかが分かってしまいますよね!」
侍女のアイラが余計なことを言い出しているぞ。
はなから皆と一緒に居てはカステヘルミが警戒するかもしれないからということで、俺は一人、応接室の扉の外で待ち構えていたのだが、
「どういうことなの? どうやってこのブランドのドレスを手に入れたの? どうせ誰かに頼んで自分はお金だけ出したんじゃないの? やっぱりピーナツ一粒すら妻に与えたことがないという噂が耐え難かったということなのかしら?」
カステヘルミからピーナツ発言が出たところで、俺は応接室のドアを開き、モーニングティーを用意したトレーを片手に、
「カステヘルミおはよう! 今日も素晴らしい朝だね!」
満面の笑みを浮かべることにしたのだ。
「どうだい! このドレスたちは! ラウタヴァラーラの港に帝国の商船が寄港するということで慌てて乗り込んできたんだけど! 幸いなことに君の大好きなブランドのドレスが載せ込まれていたんだ!」
応接室のテーブルの上にトレーを置きながら俺は胸を張って主張した。
「君が着れそうなサイズのドレスは百着程度だったんだけれど、その中から俺が選んでみたんだよ! 君の好みに合うものが用意出来たと思うのだけれどどうだろう? 微細なサイズ調整については針子に頼んで直してもらったから、すぐにでも着られると思うんだが!」
「一体幾ら費やしたんですか! それに船にわざわざ乗り込んだですって! まさか商船から強奪して来たんですか? あなたは海賊ですか!」
「俺は海軍所属ではなく陸軍所属だったんだけど、今は軍部から抜ける手続きをしているところだよ。アドルフ殿下がかなりゴネていてね」
「ど…ど…どうして…どうして私好みのドレスを百着の中から選び出せたのですか?」
「それはね、カステヘルミ」
俺はティーカップに紅茶を注ぎながら言い切った。
「俺が君のことを心底愛しているからだよ?」
ペルニラ夫人が、
「これこそお嬢様が愛する紅茶でございますよ」
と言っていた、マラニャ産のバニラビーンズを贅沢に使った紅茶。
完全に怯えていたカステヘルミはそこでうっとりした様子で紅茶の芳しい香りを楽しんだ後に、
「怖い…怖すぎる…」
と、震え上がりながら言い出した。
「今までピーナツ一粒すら与えることがなかった夫なのに!」
出た!出た!出た!ピーナツ一粒すら与えなかった夫発言!事情があって妻にウェディングドレスすら用意出来なかった俺はピーナツ一粒すら与えない夫として世に認識されているのだが、
「お嬢様もいつまでもグチグチと、根にもつところがおかしいのですよ。あちらこちらのお茶会でピーナツピーナツ言っているのなら、お嬢様に向かってこう言ってやりなさい」
と言って、ペルニラ夫人は俺に進言してくれたのだ。
「カステヘルミ、君が望むのならマラニャ産のピーナツだって俺は現地まで採りに行くよ」
マラニャ島とはイブリナ帝国の南海に浮かぶ島であり、ラハティ王国から向かったらとんでもなく遠い場所にあるのだが、
「怖い、怖い、怖い、本当に怖いんだけど!」
完全に虚をつかれた様子のカステヘルミは後退りながら、
「リア!ヘルカ!アイラ!今すぐ私のところまで来てちょうだい!」
三人の侍女に向かって声をあげたのだが、
「「「カステヘルミ様のお望みのままには出来ません」」」
カステヘルミ付きの三人の侍女たちはすでに懐柔済みとなっている。
「「「夫婦の間を邪魔する者は犬に食われて死んでしまえと良く言うじゃありませんか!」」」
「そんな格言、今使わなくても良いじゃない!」
ちなみに、終始カステヘルミが怯え続けているように見えた為、今回のサプライズが成功したのかどうかは俺にはトント分からなかったし、
「オリヴェル様、千里の道も一歩からと言うではないですか!」
と、執事頭のグレンは励ますように言ってはいたのだが、
「・・・」
結局、カステヘルミ相手のサプライズが成功したのかどうなのか、最後まで俺には分からないままだったのだ。
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