閑話 ロニアの冒険譚 (63)
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「お父様!画家のセヴェリの恋人であるサファイアさんっていう人が、どうやらオムクスのスパイだったようなんです!」
「彼が夢中になっていたという女性だね?」
「セヴェリに贋作を描くのは無理だからエギルを送り込んで、スパイの幹部まで繋がりをつけて、一斉摘発をしましょうっていう話になっていたでしょう?」
そこまでは男爵も軍部から説明を受けている。
「瓶詰めにされて殺された踊り子のサファイアさんなのだけれど、ケティル・サンドヴィクという幹部と太い繋がりがあったみたいなの」
「瓶詰め?瓶詰めってなんなんだい?」
「お父様、とりあえず瓶詰めは横に置いておいてちょうだい。問題はケティルという名前のガマガエルのような男だったのよ!十年前、北の民族が武装蜂起を起こすきっかけを作った敵国のスパイがこのガマガエルだったんだけど、ガマガエルが現れたと聞いてシグリーズルおばさまの頭の中の血管がプチリと切れてしまったのよ!」
十年前の騒動の中でシグリーズルの息子が死んでいる。ばあさんとしては息子の弔い合戦のつもりだったのだろうが、ばあさんは昔、北西部の国境で敵国オムクスの軍を退けるのを手伝ったレジスタンスのリーダでもあるのだ。
「そんな訳でおばさまは敵のアジトとなる倉庫の壁を火薬で爆破させちゃったのよ。大穴を開けたところから自ら飛び込んで、ケティルという男をヨウンおじさんに担がせて攫って行ってしまったの」
ルオッカ男爵は痛む頭を抱えて俯いた。
「最初は上物の贋作を鼻先にぶら下げればこちらの思う通りに交渉を進められるだろうと思ったのよ?護衛に使えるからっていう理由で北の民族のおじさんたち五人と敵のアジトに乗り込んだのだけれど、私ったら客層を見誤っちゃったのよね!ちっとも思う方向に話を進めることが出来ないし、危うくガマガエルの慰み者になりそうだったし」
「ロニア、そのガマガエルというのは人間なんだよね?」
「そうよ!ガマガエルみたいな顔の男だったのよ!」
ロニアは興奮しながら言い出した。
「おばさまが見事なライフル技術でガマガエルを撃ち抜いてくださったおかげで、ガマガエルの愛妾にならずに済んだのよ!お父様!私はおばさまが助けに来てくれて大変感謝をしたのだけれど、おばさまは『小説的展開だから』と言って、私を置いて行ってしまったの!そうしたらすぐにオルヴォが助けに来てくれて!お父様!これこそが小説的展開というものですわ!私、感動です!」
ロニアが言うところの小説的展開という奴でオルヴォに助けられたものだから、二人の仲が知らぬ間に進展していたということになるのだろうか?
「ああー〜」
男爵は頭を抱えて項垂れていると、
「敵のスパイの愛妾になるところだったのか?本当の本当に間に合ってよかったー!」
遠慮がなくなったオルヴォは親の目の前だというのに、小柄なロニアをギュウギュウ抱きしめている。
そろそろオルヴォに怒りの鉄拳を振り下ろそうかと男爵が考えていると、
「男爵、倉庫の中に積み上がった贋作の山は燃やしてください!」
と、オルヴォは涙ながらに訴えて来たのだ。
「ギャラリーのオーナーである帝国人のスパイがチョロすぎると判断したロニアが、オムクスへの贋作売買にオーナーを利用しようと考えたんですよ!」
「だ・だ・だって!邪魔だったんだもの!お金に代えられるのならちょうど良いじゃない!」
「今まで偽物を掴まされる人たちの悲劇と悲しみと怒りを目の当たりにし続けて来たというのに贋作ビジネスを始めるだなんて!ロニアは男爵も承知の上だと豪語していたんですよ!」
「敵のスパイを唆すにはうちの名前を使った方が良いのに決まっているじゃない!」
「暴走ですよ!暴走!これは大変だと上司に報告に走ったんですが、戻って来たら時すでに遅し。残っているのは画家のエギルだけで、ロニアはばあさんと一緒に出掛けて行っちゃったって言うんですよ!そういえば男爵!シグリーズルばあさんはロニアに武器まで渡していたんです!」
「それは仕方がないでしょう!敵地に潜入するんだから武器は必要よ!」
「僕が車まで避難をさせたんですけど、僕を敵国のスパイだと勘違いしたロニアは拳銃をそれは上手に構えて、僕に照準を当てて来たんですよ!これ、どう思います?」
「ロニアー〜」
ここでルオッカ男爵の頭の中の血管がプチリと音をたてて切れたのだ。
「お父さんは散々、淑女は武器を持つものじゃないと言っておいたはずなんだけどな〜」
「だって・・だって・・敵地に行かなくちゃいけなかったし!」
「淑女は敵地に行かないよねえ?」
「そうだよ!ロニア!普通は敵地になんか自ら出掛けて行かないよ!だというのにロニアったら、軍部の上の方々に向かって『お前らは本気でスパイを捕まえる気があったのかって!』って説教をしていたんですよ!信じられます?」
「ロニア・・お前ときたら!」
「うるさいわね、淑女は上官に説教をしないと言いたいのでしょ?でもね、言っちゃうわよ!あいつらの適当な仕事ぶりを見ていたら説教だってしちゃうわよ!」
「ロニアー〜!」
その後、明け方になるまでロニアが説教を受けることになったのは言うまでもない。もちろん、オルヴォも道連れとなって説教を受けることになり、翌朝には男爵の声はガラガラになっていたという。
その後、敵のアジトの地下から誘拐された女性たちが発見され、ケティル・サンドヴィクの悪行が暴かれる形となったのだが、肝心のスパイの幹部はシグリーズルばあさんが連れ去った後だったので情報を集めるために夜も眠れず、花嫁の元に行くことも出来ぬままオリヴェル・ラウタヴァーラは初夜を終えることになるのだった。
最低な結婚式を終えることになった花嫁カステヘルミは家族、親族が集まる晩餐会は体調不良を理由に欠席をし、寝室の鍵という鍵をガッチリ閉めた状態で安眠を貪ることになったのだ。
良くある物語では、
「お前を愛することはない!」
と、わざわざ告げる必要もないことを花婿が初夜に告げに来ることもあるようなので予防線を張ることにしたのだが、その夜は花婿が現れて扉をノックすることもなく過ぎていくことになったのだった。
オリヴェルの直属の部下であるベンジャミンは、
「花嫁となったカステヘルミ様はロニア嬢と友人関係にあるというし、長年、帝国と王国を行き来した同士だというし・・」
花嫁となったカステヘルミが世間一般の貴族令嬢からはかけ離れた性格の持ち主ではないかという疑念が頭に浮かぶことになったのだが、
「これ以上、上司を煩わせることもないよなあ・・」
と言って、花嫁の性格については言及をするのをやめることにした。
その後、オリヴェルは自分の花嫁を放置し続けることになってとんでもない事態に追い込まれることになるのだが、
「カステヘルミ様はロニア嬢ほど破天荒ではないだろう」
というベンジャミンの思い込みによって、オリヴェルの試練は回避出来ない方向へ進んでいくことになるのだった。
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