閑話 ロニアの冒険譚 (57)
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絵画については鋭い洞察力と豊富な知識を兼ね備えているロニアは、
「素晴らしい絵画を提供できるかどうかという話になれば、誰もが期待で胸を膨らませるだろうし、自分の予想を遥かに超える金額が動き出すことを想像させることさえ出来れば、私の話に夢中になって聞き入ってしまうと思うもの!」
初手から天才画家マドックス・パニュの名前を出して、話題のパニュの作品を今すぐ持って来ると言い出しさえすれば、すぐにも現場からの離脱を図ることが出来るだろうと考えた。
パニュの名前さえ出せば誰もがその絵画を今すぐ見たいと考えるし、絵画を持ち出すためにロニア自らが一度、男爵家の倉庫に帰らなければならないのだと言えば、
「そうか、そうか、では今すぐその絵画を持って来てくれ!」
と言って、監視の者を何人もつけた状態で送り出してくれることだろう。
ここは敵国でも帝国でもなく、ラハティ王国なので、男爵家に戻ることさえ出来れば後は王様に声をかけて、オムクスのスパイを殲滅するために軍を動かして貰えば良いだろう。
出来ればオムクス相手に贋作商売が出来たら良かったのだが、
「これは駄目そうだな〜」
ガマガエル顔との対面を果たしたロニアは、即座にパニュの名前を出すことで自分が思っている方向に話を進めようと考えたのだが、敵はロニアよりも何枚も上手だったのは言うまでもない。
ロニアの腕を掴んだケティル・サンドヴィクは
「体を使って洗脳をしてやっても十分に面白い、なあ、そうだろう?」
と言って、ニタニタといやらしい笑みを浮かべている。
「か・・か・・体ですって〜!」
ロニアは倉庫を見回しながら、
「こ・・こ・・こんな場所で!こんな倉庫で!はあ?」
呆然としながら声を上げたので、
「ゲコゲコゲコゲコ!」
ケティルは可笑しくて仕方がないといった様子で笑い出した。
「お嬢さん、大丈夫だよ?ベッドは地下の特別室にあるからね!」
ガマガエルのような顔をしたケティルは、恐ろしい程長く見える自分の舌で、自分の口の周りをぺろぺろ舐めながら言い出した。
「地下にはコレクションが山のように並べられているのだが、令嬢もその一人にしてあげよう!」
「こ・・こ・・コレクションですって?」
「ケティルさんは自分の趣味で誘拐ビジネスに手を染めているんですよ」
人の良さそうな顔でシハヌークは地下へと通じる入り口を指差しながら言い出した。
「地下には誘拐した商品が陳列されているんですけどね、今まで誰にも侵されたことがない秘密の場所でもあるんです」
「陳列って・・」
それでは自分も陳列されることになるのだろうか?
「なにしろここは河川の汚染が進みすぎて匂いが酷い場所なんです。こんなところには誰も来たがらないですからねえ」
シハヌークは自分の鼻をハンカチで押さえながら言い出した。
「ターレス川の支流の一つがすぐ近くを流れているんですけど、汚物も遺体も何でも流れているような川なので、耐えられないほどの匂いになっているんです」
「だけどこの匂いのお陰で人を遠ざけることも出来るし、川を使って商品を運び出すことも出来るのさ」
「そんなことを言って、商品だけでなくお遊びで壊した人形を川に流しているのは貴方でしょう?」
全く悪びれる様子がないケティルに対して、シハヌークが不服そうに声をあげた。
「ここの支流からターレス川に遺体が流れ着いてしまうものだから、最近では憲兵の動きもうるさくなっているんですよ?」
「憲兵どもがいくらうるさくなろうが、奴らは完全なる無能揃いだから問題ない」
ケティルはゲコゲコ笑いながら言い出した。
「そもそも軍の上層部には鼻薬を嗅がせているからな、何処の国であっても上が腐ると下部組織の隅々まで腐り切ってしまうものなのさ」
先ほどからケティルとシハヌークは楽しそうに話しているのだが、五人の北の民族の男たちを捕まえられてしまったロニアは完全に詰んでいるような状態だ。
「それにしたって、本当に北の民族をここまで連れて来るとは驚いたよ」
グアラテム王の遺産が何なのか突き止めようと考えていたケティルは、最初から北の民族に目を付けていたのだが、王都に住んでいる北の民族たちは結束力が硬すぎたため付け入る隙が見当たらずにいたらしい。
元々、北の民族と呼ばれる人々はオムクス人に対して並々ならぬ警戒心を持っているし、一人でもオムクス人を見つければ何処に滞在しているのかとか、どういった活動をしているのかなど、一族総出となって調べ上げるというのだ。
「画家のエギルという男がノコノコ画廊までやって来ているという話を聞いて、そいつをまずは捕まえて拷問にでもかけようかと思っていたんだが・・」
「そんなことをグスタフさんが許すわけがないですよ!」
「そうなんだよな、贋作で儲けを産んでいるんだから手を出すなと直接俺も言われたんだよなあ」
ロニアは画家のセヴェリの代わりにエギル・コウマルクルをティール・ギャラリーに送り込んだのだが、危うくエギルは拷問をされるところだったらしい。
「俺も今までは外国人スパイを使うことに抵抗感があったりしたんだが、こうやってお前やグスタフと仕事をしていると考え自体が変わってくるもんだ」
オムクス人に対しては激しい嫌悪感を示すものの、オムクス人には見えないシハヌークやグスタフ相手では、気を許してしまう民族なのだ。
「本当に、北の民族をここまで誘き寄せられたのも、お前のおかげって奴だな!」
ケティルはそう言ってグイッとロニアを引き寄せると、その長い舌でべろりとロニアの頬を舐めたのだ。
「シハヌークのお陰でこうやって皇帝のお気に入りを手に入れられたんだからな!お前らには感謝しなければならないってもんだ!」
「ひぃいいいい!」
「ああ!可愛い!可愛い!」
ニタニタ笑うケティルの顔を至近距離から眺めることになったロニアが気を失いそうになっていると、
「ケティルさん!絶対に殺しちゃダメですよ!殺しちゃったらルオッカ男爵だって脅迫出来なくなっちゃうんですから!」
と、シハヌークが怒りながら言い出した。
ロニアは帝国出身のスパイであるシハヌークのことを、人が良さそうなポンコツだと考えていたのだが、腐っても隣国オムクスのスパイをやっているような男なのだ。贋作ビジネスを成功させよう!と、意気投合していたのに、これからロニアがガマガエル男の餌食になろうとしているのに一切の罪悪感を感じていない様子なのだ。
「はあ・・誰かこれは夢だと言って・・」
「夢じゃないよ?お嬢ちゃん。これからお嬢ちゃんは俺と楽しい〜ことをやるんだからな!」
「・・・」
ロニアがいよいよ本気で失神をしそうになっていると、
「「「こいつら武器を持っています!」」」
「「「気を付けろ!」」」
ケティルの部下たちが慌てた様子で騒ぎ出す。
振り返って見ればヨウンおじさんたちが縄を引きちぎり、スパイ相手に暴れ出しているのだが『バンッ バンッ バンッ』と、天井に向かって拳銃を三発撃ったところであっさり制圧をされている。
ケティルに腕を掴まれたままのロニアは、床に叩きつけられるおじさんたちを見つめながら震える声で言い出した。
「普通だったら・・普通だったら・・ここで助けに来るんじゃないのかしら?」
おじさんたちが銃口を突きつけられているのを見て、ロニアは思わず大声をあげた。
「オルヴォー!」
ロニアは精一杯の声で叫んだ。
「おじさんたちが殺されてしまうわー!」
ロニアは声の限りに叫び声を上げたのだが、
「オルヴォー!居るんでしょう!居るんだったら早く出てきてちょうだい!小説的展開なら!今が登場の場面よー!」
ポカンと口を開けた男たちはロニアの方を一斉に見ると、
「「「「「あははっははは!」」」」」
呆れた様子で笑い出したのだった。
「ここがどれだけ秘密の場所かってことはさっき説明したと思ったんだがね?」
ケティルはロニアの耳元で囁いた。
「何かの物語じゃあるまいし、誰かがお嬢ちゃんを助けに来るなんてことはありえない」
「そ・・そんなあ・・」
力が抜けたロニアは、その場で尻餅をついてしまったのだ。
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