閑話 ロニアの冒険譚 (54)
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「エギルは今回、連れて行かないよ」
と、シグリーズルばあさんは言い出した。
「小心者すぎて邪魔にしかならないからね」
ということで画家のエギルをアトリエに放置することに決めて、
「まずはティール・ギャラリーに顔を出してみようじゃないか」
と、ばあさんは言い出した。
「それじゃあ、おばさまも私と一緒にギャラリーに行かれるのですか?」
「私が?」
ばあさんは呆れ果てた様子で言い出した。
「私は顔がわれているから行かないよ。ギャラリーにはロニアお嬢様とナヌーク(熊)の野郎どもで連れ立って行ってもらうことになるからね」
「おばさま」
この時、ロニアはシグリーズルばあさんに向かって言い出した。
「オムクス相手に贋作の売買手続きは進めても良いのですよね?」
「いいよ〜、全く問題ないよ〜」
ばあさんはライフル銃に弾込めをしながら、
「出来るもんならやってみりゃいいよ〜」
と、言い出したのだった。
ロニアの家の倉庫には山積みとなった贋作があり、
「これは、贋作ですわ!」
ロニアが主張してきた証が積み上がっているような状態なのだ。
ギャラリーのオーナーであるティール・シハヌークを利用して隣国オムクスに贋作を売り捌き、オムクスの貴族は素敵な絵が手に入れられてハッピー!シハヌークはお金が手に入れられてラッキー!倉庫が空になってロニアはスッキリ!する予定で居るのだが、
「問題はこちらの取り分よね〜」
お金の部分をどうするかという点について、ロニアは頭を悩ませていた。
贋作ビジネスは金になる。
タダで手に入れた絵画を高額な商品として敵国に売りつける訳だが、これからスパイの幹部と顔を合わせることになったら、売上金のうちの何割をルオッカ男爵家が手にすることになるのかという話に言及することになるだろう。
ナヌークのおじさんたちと一緒にギャラリーへと移動をしたロニアは、
「シハヌークさん、今日、顔を合わせる幹部はオムクスのお金持ちとの太いコネクションがあるという話は聞いたけれど・・」
シハヌークの耳元に囁くようにして問いかけた。
「偽物だってことはバレていやしないわよね?」
小声であってもそんなことを問いかけられたので、シハヌークは真っ青になって飛び上がる。
「変なことを言わないで下さいよ!」
ここには絵画を運搬する予定でいる、厳つい北の民族の男たちも居るのだ。
「流石に『聖なる大地』を見たら度肝を抜かしていましたし、喜び跳ね飛びながら自分の倉庫に持って行ってしまったくらいですし」
「え?絵画を幹部に持って行かせちゃったの?」
「だって・・自分が持って行くって言い張るんですもの」
これが本物の『聖なる大地』であれば、ロニアもシハヌークもドキドキが止まらない状況に陥っていただろうけれど、結局、扱われているのは贋作なのだ。
「画廊で所有している倉庫に移動したことになるのよね?」
「それが変更になったんです」
シハヌークは真面目な顔で言い出した。
「絵画を高く売るには、お偉いさんの知人が友人が多い幹部に協力を仰ぐ必要があるじゃないですか?そこで僕はケティルさんという人に声を掛けさせて頂いたんですが、ケティルさんはこれだけの名画を取り扱うのだから、最も安全な場所で取引をするべきだと言い出しまして」
「えーっと、それじゃあ予定の倉庫には行かない感じなのね?」
シハヌークから幹部が集まる予定の倉庫の大体の場所を聞き出していたロニアは、幼馴染のオルヴォに説明しておいたのだが、
「別の場所で取引をするってことなのね〜!」
途中で取引現場が変更になってしまえば、オルヴォだけでなく憲兵隊の捜査に影響も出て来るのではないだろうか?
「これぞ小説的展開って奴かしら?」
ロニアはぶつぶつと呟きながら一番大柄なヨウンおじさんの方に視線を向けると、ヨウンおじさんは何の問題もないといった様子で小さく頷き返してきた。
シグリーズルばあさんによって呼び集められたナヌーク(熊)の男たちは十二人になるのだが、
「流石に皆さんを連れて行くのは無理なので」
と、シハヌークが言い出したので、ロニアはヨウンおじさんを含めた五人の男たちを幹部との顔合わせに連れて行くことにした。残ったおじさんの数は七人になるのだが、
「せっかく皆さんに集まって頂いたのに、全員連れて行けなくて申し訳ありません」
ティール・シハヌークはぺこりと頭を下げて、
「ギャラリーまでご足労頂いたお礼というわけでもないんですけど、これで帰りにお酒でも飲んで下さい」
おじさんたちの手の平の上に銀貨を載せていったのだ。
帝国出身のシハヌークは、イーストタウンで貴族相手に贋作を売り捌いているのだが、
「イーストタウンにも美味しいお酒のお店があるんですよ?もし良かったら教えましょうか?」
などと言って、北の民族のおじさん相手に綺麗な女の子がいるお店、美味しいお酒のお店などのレクチャーを始めている。
推理小説が大好きなロニアは、スパイが出て来る作品も好んで読んでいるのだが、
「スパイって本当に色々なのね〜」
無害そのものにしか見えないシハヌークを見ながら呟いていると、
「お嬢様」
ロニアの隣に立ったヨウンおじさんが真面目な顔をして言い出したのだ。
「お嬢様はとにかく俺の近くに居て欲しい」
「え?なんで?」
ロニアの問いかけにおじさんは眉を顰めて言い出した。
「お嬢様はそりゃあ沢山のスパイ小説を読んでいるのだろうが、現実は物語の世界とはかけ離れたものなのだから、お嬢様の望むような結末にはならないかもしれないってことをよくよく考えておいた方が良いと思う」
「んまぁあ!それじゃあ何もかも失敗するということなのかしら?」
「そういう訳じゃないんだが」
目の前に居る帝国出身のシハヌークは人品も良いし、無害そのものに見えるのだが、オムクスのスパイがそんな輩ばかりなわけがない。
用意された馬車に乗り込んだロニアと北の民族の男たちは、目隠しをしたまま二度ほど馬車を乗り換えて、最終的にはドブの腐ったような匂いが漂う倉庫街へと連れて来られることになったのだが、
「ゲコゲコゲコ、まさか、本当に?あのルオッカ男爵の小娘がこんな萎びた倉庫までやって来たってことなのか?」
ロニアと五人の男たちを出迎えたケティル・サンドヴィクはご機嫌となって、
「麗しき令嬢にご挨拶申し上げます」
と言って、ロニアの手の甲にキスを落としたのだった。
何処ともしれない場所にある倉庫の中で、ロニアはガマガエルのような容姿の男、ケティル・サンドヴィクと対面することになったのだが、
「貴方がシハヌークさんの上司となる方かしら?」
ピンと背を伸ばしたロニアはにっこりと笑って問いかける。
「セヴェリに『聖女の微笑み』の贋作を描かせていたみたいだけど、マドックス・パニュの作品に興味があるのかしら?」
普通の令嬢であれば目隠しをされ、誘拐をされるように見知らぬ倉庫まで連れて来られた時点で失神をしていてもおかしくないと思うのだが、
「男爵家には、マドックス・パニュの作品があるのだけれど」
ロニアは目が覚めるような美女という訳ではないのだが、円な瞳は人を惹きつけるようにキラキラと輝いて、
「幾らまでなら出せそうかしら?」
魅惑の微笑みがガマガエル顔の男に向けられたのだ。
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