閑話 ロニアの冒険譚 (53)
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ティール・シハヌークはやる気に満ちていた。
ロニア・ルオッカが持ち込んだのが贋作だとしても、偽物だと言い出さなければ分からないほどの素晴らしい出来なのだ。これを本国相手に売り付けることについては、若干の罪悪感は感じるものの、
「絵画の目利きで有名なルオッカ男爵と太いパイプを持つことになるんだから!絶対に本国だって喜ぶはずだぞー!」
シハヌークはこの贋作ビジネスが成功するという確信を持っていた。
お偉いオムクスの貴族たちは素晴らしい絵画が手に入って大喜びだろうし、絵画の売買で巨額が動くことになるのだからシハヌークの懐だって潤うはずだ。
そもそも生粋のオムクス人ではないシハヌークには、本国のスパイと同等の忠誠心があるわけでもないので、
「みんなが幸せになればそれで良いんじゃないのかな!」
本国相手に売りまくるつもりでいる。
「それで?この後にロニア・ルオッカとの顔合わせが計画されているというわけか?」
ギャラリーに呼び出されることになったケティル・サンドヴィクは、舌なめずりをしながら目を細めていた。
「であるのなら、今日の会合に幹部全員を集めるのはナシだ。とりあえずは俺のお仲間たちを揃えておくことにしよう」
今現在、鉄道事業を成功させようと企むラハティ王国を阻止するために、オムクス本国は複数の幹部をラハティ王国に潜入させている。
ラハティ王国が転覆するように仕向けるため、幹部たちはそれぞれ得意分野を活かして活動をしているところなのだが、その進捗状況を確認しあうための会合が本日、開かれる予定だったのだが、
「帝国絵画をルオッカ男爵経由で本国へ密輸出来ると言うのだから、まずは事業が失敗しないように仲間内だけで話を煮詰めておこうじゃないか」
と、ケティル・サンドヴィクが言い出したのだ。
オムクスから複数の幹部が入り込んでいるということは、スパイの中でそれぞれの派閥が出来上がっているということを意味している。
ラハティ王国のように新しい技術を次々開発するようなことは出来ないオムクスでは、スパイを使って外貨を稼ぎ、その稼いだ外貨を本国の資金に転用するようなことを行なっている。
アドレア公国人のグスタフ・レミングは、各国の新規事業に投資家として参入すると見せかけて、集められた資金を根こそぎ奪うようにして本国へ送金するようなことをしているし、ガマガエルのような男ケティルであれば、賭博と奴隷の売買で大金を荒稼ぎしているのだ。
帝国人とオムクス人のクォーターであるシハヌークは、外国人スパイを取りまとめるグスタフ・レミングの下で働いているのだが、本国からのスパイと外国出身のスパイとでは出世のスピードに違いが出てくることになる。そのため、より多くの金を稼ぎたいと考えるシハヌークとしては、派閥内での移動を画策しているところでもあったのだ。
「アドレア公国人であるグスタフ様の出世もいずれは頭打ちになるのは目に見えているし、そろそろついて行く相手を考え直していかなければならないなあ」
と考えていたところで、ロニアが贋作ビジネスを提げて現れることになったのだ。
「グスタフ様にオムクスの金持ちとの伝手がケティル様ほどないのは明らかだし、手に入れた絵画を早急に売買するのは鉄則だとグスタフ様ご自身が言っていたのだもの。今は肝心のグスタフ様が席を外している状態なのだから、一番身近な幹部であるケティルさんに僕が相談をしたところで何の問題もないだろう!」
ということでシハヌークはケティル・サンドヴィグに相談を持ちかけたのだが、このケティルという男、賭博場で大金を荒稼ぎしているのは勿論のこと、ターゲットにした貴族からは金も名誉も権力までも搾り取り、本国のコマとして動くように差配する、非常に有能な男なのだ。ただし、誘拐した女たちを奴隷扱いで売買するという趣味があり、今回、娼婦として王都に潜り込ませた女たちの中には、ケティルが誘拐してきた女たちも混ざっているような状況なのだ。
悪いことなら何でもするケティルは、ラハティの貴族から高級車をふんだくった猛者であり、
「俺に任せておけば何の問題もない、お前はグスタフじゃなく俺を選んだのだからな!決して後悔はさせないぞ!」
ケティルはシハヌークの肩を叩いてゲコゲコと笑い出したのだ。
「とりあえず、ご令嬢との顔合わせは俺の手持ちの倉庫で行おうじゃないか」
現在、賭博の他に密輸にも力を入れているケティルは、本国も知らない倉庫を幾つも所有しているのだが、
「誘拐した女たちを保管している倉庫で顔合わせですか・・」
指定された場所を聞いて、シハヌークは何だかいやぁな気持ちになったのだ。
「そこが今、一番安全な場所だと言えるだろう」
ケティルはニタニタ笑いながら言い出した。
「お嬢ちゃんは、北の民族の男どもに絵画を我が国まで運搬させると言っているんだろう?」
「ええ、彼らは地図にも載らない秘密の道を詳しく知っているので、オムクスまで絵画を安全に輸送してくれるだろうと言うのです」
「それで今日、俺の倉庫で、北の民族たちとの顔合わせをするということか?」
ケティル・サンドヴィクが思案していたのはいっときのことで、
「それじゃあ、絵画の方は俺が車で先に運んでおくわ」
と言って、ギャラリーに飾られていた絵画を車に運び込んでしまったのだった。
ケティルが持ち去ったのが本物であったならシハヌークも気が気でなかっただろうが、あくまでも取り扱っているのは贋作なのだ。
「偽物だとバレることはないだろう」
絵画については全くの素人であるシハヌークはそう断じて、店の片付けをしていると、約束の30分前にロニア・ルオッカが屈強な男たちを連れてギャラリーを訪れたのだ。
細身で背が高いラハティ人と比べて、北の民族は背が低くて体が横に広がって見えるほどに逞しい。
「えーっと、ずいぶんとゴツイ人達を連れて来たんですねえ」
見るからに恐ろしい顔立ちをした男たちを眺めて、シハヌークは呆れたような声をあげたのだが、
「絵画を隣国まで運ぶのなら、これくらい逞しい男たちじゃないと!」
と、ロニアは答えて、コロコロと笑い出す。
誰も彼もが人相が悪い男なのだが、その中に見慣れた盗賊顔が居なかったため、
「あれ?エギルさんはどちらに居るのですか?」
と、シハヌークが尋ねると、
「エギルは体調を崩してしまったみたいなの」
と、ロニアが憂いの眼差しを向けながら言い出した。
「アトリエに戻ってから、エギルは買っておいたシナモンロールを食べたんだけど、それが悪くなっていたみたいなの」
今現在、トイレから出られない状態なのだとロニアは説明したのだが、
「確かに・・最近、だいぶ暖かくなってきましたからねえ」
と、ティール・シハヌークはちっとも疑うことなく、ロニアの言葉を信じ込んでしまったのだった。
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