閑話 ロニアの冒険譚 (52)
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「「駄目だよ」」
「「駄目、駄目、駄目だって」」
「「駄目だよ、ロニア」」
いつだって誰もがロニアに駄目だと言っていたのだが、
「いいよ〜」
と、シグリーズルばあさんは言い出した。
「利き腕側とは反対側の足を後ろに引いて、半身になるように肩を前に出す!」
ばあさんは拳銃を構えるロニアの肩の高さを調整しながら、
「そう!そう!射撃報告に向かって利き腕を伸ばし、もう一方の手は利き手に添えるようにしてグリップを握り込むんだよ。自分の想像以上に発射時の反動は大きなものだから、腹の底にグッと力を入れて、体のバランスが崩れないようにするんだ」
拳銃の握り方を懇切丁寧に教えてくれたのだが、
「「「「「ああ〜―」」」」」
ナヌーク(熊)の男たちは揃って頭を抱え出した。
「レディに拳銃はまずいですって!」
「怪我したらどうするんですか?」
「素人が拳銃を撃つと脱臼することだってあるんですよ?」
「だったらお前らがお嬢様のことを守ってやんな!」
シグリーズルばあさんは腰に手を当ててぷりぷり怒りながら言い出した。
「お嬢ちゃんが拳銃を使わなくても問題ないように、お前たちが守ってやりゃあ良いんだから!」
「そりゃあそうなんですけどね?」
「お嬢様が我々と一緒にスパイと顔合わせって、本当にそんなことを進めて大丈夫なんでしょうかね?」
大丈夫かどうかは、上司に確認しに行ったオルヴォがまだ帰って来てないので分からないのだが、
「ケティル・サンドビグが出て来た時点で我々の案件になったということじゃないかね」
と、シグリーズルばあさんは嘯いた。
「とにかくお嬢様が贋作事業を勧めたものだから、画廊のオーナーはガマガエル男を呼び寄せた。ガマガエル男はオムクスの貴族に太いパイプを持っているから、それが理由で誘い込んだというところだろうが、我々はそのガマガエルをとっ捕まえたいと考えている」
シグリーズルばあさんは真面目な顔で、
「やめるなら今だよ?どうする?」
と、問いかけたのだが、
「やめるわけがないですよ〜!」
ロニアはコロコロ笑いながら言い出した。
「今まで色々ありましたけど、こういう展開は初めてですもの!絶対に!絶対に!途中で離脱なんか致しませんわ!」
「「「お嬢ちゃんの癖に覚悟だけは凄いわ」」」
「「「こんなんで、今まで良く無事でいられたなあ」」」
男たちは呆れた声をあげたのだが、ロニアは全く気にしていなかった。
ロニアがシグリーズルばあさんと硬い握手を交わしている頃、地下道に潜り込んでいたオルヴォは画家のエギルのアトリエがあるアパートに到着することになったのだが、
「ロニアとばあさんが居ないのは何故なんだ?」
と、アトリエの中を見回しながら、エギルに問いかけていた。
「オルヴォさん、遅い!遅い!遅いですよ〜!」
オルヴォを出迎えたエギルは、その場で地団駄を踏みながら言い出した。
「画廊のオーナーは贋作をオムクスの貴族相手に売り捌くために、従姉が王族の愛妾となって可愛がられているケティル・サンドビグに声を掛けたみたいなんですよ!」
「ケティル・サンドビグだって?」
ケティルはラハティ王国では特別指名手配をされている男であり、報奨金まで掛けられているような男なのだが、
「ケティルが王国に潜伏していたってことか?」
オルヴォの問いかけにエギルは何度も頷きながら答えたのだった。
「監視していた者の報告によると、ケティルは車を使ってギャラリーまでやって来たそうです」
「車だって?本当に?」
「本当です!ラハティ王国で車を持っているのは王族か軍部のお偉いさんか、高位身分の貴族だけですよね?」
「本当の本当に?奴は車に乗っていたと言うのか?」
ラハティ王国では車は輸入車しか走っていない。購入する数が限られているということもあって、ラハティでは王家が車の斡旋をする形になっているし、所有者は限られていることにもなるのだが・・
「馬車で到着しているんだったら、ここまで我々も騒ぎません。憎っくきガマガエルがここラハティで車に乗っているんですよ?これってどういうことなんですか?」
オルヴォの胃が激しく痛み出してきた。
オムクスのスパイだった踊り子のサファイアが殺され、瓶詰めとなって発見されることになったのだが、この犯行を行ったのが王国軍に所属する人間かもしれないという目撃証言が出て来ていたのだ。
そして今日、ラウタヴァーラ公爵家の結婚式でフューゴ・リンデレフ大佐が殺された。
「我々はルオッカ男爵を信じていますし、男爵を信じているからこそ、貴方のことも信用しているのです」
エギルは真面目な顔でオルヴォを見下ろしながら、
「だけど他の人は、信用出来ません」
と、きっぱりと言い切ってしまったのだ。
特別指名手配されているケティル・サンドビグが車に乗って現れたということは、彼が王国軍の上層部と繋がっている可能性が大きいことを示唆している。犯罪者に車を貸し与えている者が軍部の中に存在しているし、その人物は敵国オムクスと繋がっている可能性は非常に大きい。
「王国軍のことを信用出来ないと言うのは構わない」
オルヴォは俯いたまま言い出した。
「だけど、信用出来ない王国軍に代わって、ロニア・ルオッカを利用すると言うのはおかしな話なんじゃないのか?」
「オルヴォさん・・」
見た目は盗賊、心は子ウサギ状態のエギルは、大きな体を小さく縮こませながら言い出した。
「我々だって、ロニアお嬢様を利用する気なんてさらさら無かったんですよ」
ロニアが普通のお嬢様だったら、誰が味方かも分からない状況に驚き慌てて『今すぐお父様のところに帰ります!』と、半泣き状態で言い出すのだろうが、
「お嬢様は、とにかくやる気に満ちているんです!」
エギルは必死になって訴えた。
「とにかく!オルヴォさんは帰って来るのが遅すぎたんです!」
「なんだって?」
「私たちだってオルヴォさんが帰って来るのをずっと待っていたんですよ!だけど、貴方は上司に報告に行ったまま、全然帰って来なかったじゃないですか!」
確かに、オルヴォは戻って来るのが遅くなってしまったのだ。
「ティール・ギャラリーにケティル・サンドヴィクがやって来た、それも車に乗ってわざわざ奴はやって来たんですよ?シグリーズルばあさんが黙っていられるわけがないじゃないですか?」
シグリーズルは国境の守護神と呼ばれるほどの女傑であり、秘密裏にラハティ王国の国王陛下と交渉を行い、蔑まれるだけだった北の民族の権利を勝ち取るための協議を開いた人でもある。そんなばあさんがそんな報告を受けて、おとなしく待っているわけがない。
シグリーズルたちはすでに、ガマカエル男ケティルを捕まえるために、独自に動き出しているのだから。
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