閑話 ロニアの冒険譚 (51)
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「ばあさん!流石にお嬢様に対して銃を構えるのはまずいですって!」
シグリーズルの甥っ子であるヨウンおじさんは頭を抱えながら言い出した。
「ルオッカ男爵が知ったら、嘆き悲しむことになりますよ!」
「男爵が悲しむだって〜?」
ライフル銃を構えていたばあさんは、
「それにしたって、度胸が座ったお嬢さんだよ」
みんなが見守る中で銃口を下げたのだが、
「うちのお父様を心配する必要なんかありませんよ〜!」
ロニアは朗らかに言い出した。
「絵画を扱っていればいつだって騒動には巻き込まれるものですもの!」
ラハティ王国の国王陛下からの推薦を受けて帝国まで移動をすることになったロニアは、父や祖父について絵画の売買を手伝っていたのだが、
「これは・・贋作ですね!」
と、問答無用で偽物を見つけ出していたおかげで、皇帝陛下のお気に入りになったのだが、それと同時に方々中から恨みや妬みを買うことにもなったのだ。
今まで武器を持った大人たちにロニアは守られていたのだが、そろそろ自分の身は自分で守っても良いだろうと考え出すようなお年頃でもあり、
「おばさま!銃を私に与えてくれるのなら、その使い方を教えてくださらないと駄目ですよ!」
ロニアは目をキラキラさせながらシグリーズルばあさんを見つめて、
「それからナヌーク(熊)ってなんなのですか?まさか王都へ北部に住み暮らす白熊を解き放つとか、そういった話になるんですか?」
何の恐れもなく無邪気に問いかけている。
「ルオッカ家の血だね〜・・」
シグリーズルばあさんは大きなため息を吐き出した。
ロニアの曽祖父はグアラテム王の子孫が作り出した地下道を知るなり、
「文化遺産として残した方が良いだろう!」
と、ばあさんには全く理解が出来ないことを言い出して、地下道がある土地一帯を保護目的で買い上げてしまったような人物なのだ。
ラハティ人と北の民族では背の高さから体付き、外見からして違うこともあって差別をされることも多いし、恐れられることも多かったのだが、
「これは絶対に後世に残さなければならないものだから!この素晴らしい遺産を保存するために我がルオッカは尽力しようじゃないか!」
当時のルオッカ男爵の姿がシグリーズルばあさんの脳裏に思い浮かぶ。
あの時はまだ幼い少女だったシグリーズルが親と手を繋ぎながらロニアの曽祖父を見上げていたのだが、今は彼のひ孫であるロニアがまっすぐな目でシグリーズルを見つめている。
「我々北の民族は、ラハティ王国と隣国オムクスが北西部の国境地域で衝突を繰り返していた際には、現地に潜入をして北部地域に住まう原住民として活動をし、王国に有利になるように秘密裏に動いていたんだよ」
シグリーズルばあさんが二十歳の時には、国境を越えて潜入するオムクス軍の斥候を屠る役目を担っていたのだが、
「武器を扱う訓練を特別に受けている者たちのことを『ナヌーク』と呼ぶ。今では甥っ子のヨウンがナヌークのリーダーなのだが、元々は私が『ナヌーク』の頭だったのさ。北の民族にも人権を!と、活動をしてきたわけだが、こういった裏の仕事をしているからこそお目溢しをして貰っている部分も大いにあるというわけだ」
シグリーズルばあさんの説明を受けて、
「んまぁぁああああ!」
目を大きく見開いたロニアは、
「やっぱり事実は小説よりも奇なり!ということですわね〜!」
と、興奮の声をあげたのだった。
北の民族は昔から隣国オムクスに対して悪感情を抱いていたし、十年前にオムクスのスパイによって一族全体が罠に嵌められ、内戦一歩手前にまで追い込まれてからは、天敵のような扱いなのだ。
「今回、顔合わせの場にガマガエル男が出て来るのなら絶対に身柄を拘束したいし」
ばあさんはしわしわの指をポキポキ鳴らしながら言い出した。
「スパイの野郎どもも一網打尽で捕まえたいと考えているんだよ。だからこそ、お嬢様には危ない橋を渡らせることになるのだが・・」
ばあさんの家に集まった大男たちは口々に言い出した。
「「「ルオッカ男爵は泣いて心配するだろうし」」」
「「「オルヴォが絶対に許さないと思うんだが?」」」
「「「王国軍に任せる訳にはいかないのかね?」」」
「「「今日は公爵家の結婚式だから」」」
「「「間抜けな奴らはスパイを見逃すようなことしか出来ないだろう」」」
今現在、下町の娼婦を殺しているのは北の民族だという噂が広がっているおかげで、北の民族に対する差別や迫害が酷くなっているような状態だ。
隣国オムクスのスパイは王都に潜入を果たしているし、良からぬことを企んでいるのは間違いない。本日、ラウタヴァーラ公爵家の結婚式が行われたということもあって、軍部はそちらに人手が割かれているような状態なのだ。
「今日はカステヘルミ様の結婚式ということで参列しようかどうしようか迷いに迷っていたのですけれど、そっちの方には行かずにこっちに残って良かったですわ〜!」
画家のエギルのサポートをしていなければ敵国のスパイと顔合わせをすることもなかっただろうし、秘密の地下道を歩いて移動することもなかっただろう。シグリーズルばあさんから拳銃を直接渡されることもなかっただろう。
「カステヘルミ様とは帝国と王国を互いに行き来する仲でしたし、帝国では同じ年頃のラハティ人ということもあってとっても仲良くさせて頂いたんだけど、カステヘルミ様自身が、どうしようもなくくだらない結婚式になるのは目に見えているから、参加するだけ無駄だと言っていたのよね〜」
なにしろ新郎の男は自分の花嫁にウェディングドレスすら送っていないし、結婚前に挨拶一つしないし、プレゼント一つ贈らないような常識はずれの男だそうで、
「伯爵令嬢の私の相手ですらこんな調子なのですもの、ロニアの結婚相手が王命で決められることになったらどんな男性が選ばれるのかしら?」
と、カステヘルミから言われてロニアは心底ゾッとしたのだ。
「ロニアも結婚適齢期だし、私の結婚式になんて参加をしたら『ロニア嬢に相応しい男性を紹介するよ!』なんてことを言われて、どうしょうもないクソ男を紹介されることになるのは目に見えているものね!」
カステヘルミは嘆くように、
「貴女の意思に任せるけれど、私の結婚式、披露宴もだけれど、ロニアは参加をしない方が良いわよ!」
と、言っていたのだが、
「まさかカステヘルミ様の結婚式の裏で、こんなことになろうとは思いもしませんでしたわ!」
色々あり過ぎて、ロニアのワクワクは止まらないのだった。
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