閑話 ロニアの冒険譚 ㊿
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
皇帝のお気に入りの鑑定士になったロニアは、幼い時から狙われることが多かったのだが、
「武器をお嬢様が持つですって?」
「無理!無理!無理!」
「我々がお守りするので大丈夫ですよ!」
と、周りの人間から言われることが多かった。
ラハティ王国に戻って来てからも、
「俺が居るのになんでロニアが武器を持たなければならないんだ?お前は俺を信じていないのか?武器なんか持たなくても大丈夫に決まっているだろう!」
と、幼馴染のオルヴォに言われたし、
「「ラハティ王国のレディが武器を持っているなど聞いたことがない」」
と、父や祖父から言われることになったし、
「お前と同じように帝国を行き来しているカステヘルミ様だって武器なんか持ったことがないんだよ?」
と、母から言われてしまえば仕方がない。
今まで触ることすら出来なかったリボルバー銃を手の平の上に載せられて、
「うわ〜!」
ロニアの心の中には満開の花が咲き乱れ、あまりの嬉しさに頬がスモモ色に紅潮した。
女にだらしない画家のセヴェリが逃げ出したと聞いて、オルヴォと一緒にセヴェリ探しを始めたのがきっかけで、隣国オムクスのスパイの死体が瓶詰め状態で発見されたとか、隣国オムクスのスパイがセヴェリに贋作の作製を依頼していたとか。思ってもみないことが連続して起こり続けて、ロニアは興奮の毎日を送っていたのだが、
「遂に伝説の武器が我が手に!」
リボルバー銃を片手にあまりにロニアが大喜びするため、
「「「ばあさん、お嬢様に武器を渡して本当に良かったんですかね?」」」
「「「取り上げた方が良いんじゃないんですかね?」」」
シグリーズルばあさんの後ろに立つ人相の悪い男たちが、顔を真っ青にして訴えかけた。
「お前ら」
はしゃぎまくっているロニアを見ながら、
「あんなに喜んでいるのに取り上げたら可哀想だとは思わないのかね?」
と言って、シグリーズルばあさんが軽蔑するように睨みつけてきたので、
「「「え?お嬢様から武器を取り上げろと言った俺たちの方が薄情者みたいに言われるの?」」」
大男たちは、ばあさんの言っていることがおかしいのか、それとも自分たちの方が薄情者なのか、どちらが正しいのか悩み出したのだが、
「「「ばあさんが言う通りにしておけばとりあえずは良いってことさ!」」」
これ以上考えることを放棄したのだった。
十年前、高い税金をふっかけられることになった北の民族は危機に陥り、オムクスのスパイの甘言に乗っかる形で王国相手に武装蜂起をすることになったのだ。
ラハティ王国は鎮圧のために軍を派遣して来たのだが、ラハティ軍の内部で殺された死体から臓器が抜き取られることが頻発し、北の民族による蛮行だと考えた軍部は殲滅作戦に出るところだったのだ。
「あの時は当時最年少だったオリヴェル・ラウタヴァーラに上層部が丸投げしたから丸く納めることが出来ましたけど、今回もまた、責任者はラウタヴァーラの次男なのでしょう?」
この中では一番大男のヨウンおじさんがシグリーズルばあさんに尋ねると、ばあさんは顔をクチャクチャにしながら、
「そんな中で、十年前に我ら民族を滅亡に導こうとした男、ケティル・サンドヴィグが出て来たんだからね」
オムクスのスパイであるガマガエルのような容姿の男を思い浮かべながら、ばあさんは口をへの字に曲げた。
隣国オムクスという国は、ラハティ王国に対して揚げ足をとってやりたいと常日頃考えているような国なのだ。
十年前にも北の民族を利用して王国内に内戦を引き起こす形として、国力を削ぎ落とそうと考えていたし、王国軍が北の民族を殲滅するようなことにでもなれば、周辺諸国を扇動し、民族浄化を行うような野蛮な国としてレッテルを貼り付けようと企んだ。
当時、この計画を進めたのがケティル・サンドヴィグという男であることまでは分かっていたのだが、問題の男は十年前にまんまと姿を消していたのだが、
「まさか再び王国内に潜伏しているとは思いもしませんでしたよ」
ヨウンおじさんはそう答えて、ブルブルブルッと体を震わせたのだった。
「イーストタウンに胡散臭い絵を売りに出しているギャラリーが出来たとは思っていたのだが、そのギャラリーにロニアお嬢様が出向いて行った途端にケティル・サンドヴィグが現れたんだから」
シグリーズルばあさんはキッチンの隅に置かれた掃除道具入れの奥からクリケットバットのケースを引っ張り出しながら、
「絶対に殺してやろう」
恐ろしい笑みを浮かべながら言い出した。
取り出したクリケットのバットケースの中にはライフル銃が収められている。ばあさんが暗い瞳となってライフル銃を手にすると、
「絶対に殺すって誰を殺すのかしら?」
円な瞳をぱちぱちと瞬かせたロニア・ルオッカが、
「殺すにしても、簡単に殺したら駄目なんじゃないかしら〜!」
と、明るい声で言い出した。
「ケティルという男がオムクスの貴族に売り渡せば売り渡すほど、彼は大きな恨みを買うことになるのだもの。窮地に追い込まれるのは間違いないし、憎い男なら落ちるところまで落ちないと!」
と、お嬢様らしからぬことを言い出したので、集まった男たちはごくりと生唾を呑み込んだ。
シグリーズルばあさんは、持っていたライフル銃の銃床を肩の上に乗せ、トリガーを握る腕とは逆の足を半歩前に出し、前屈気味に構えながら、
「ロニアお嬢様、これはお嬢様がいつも読んでいる小説とは違う、現実の話ということになるのだがね?」
と、問いかけると、
「えええ?それじゃあ贋作は売買せずに、今から敵のアジトを急襲するって感じですかあ?」
まるで恐れる様子もなく、ロニアははしゃいだ声をあげたのだった。
こちらの作品〜一妻多夫を応援します編〜が6/2(月)にアース・スター様より出版することが決まりました!!初版本には絶対読んで欲しいショートストーリーが封入されておりますし!内容もてんこ盛り状態になっておりますのでお手にとって頂けたら嬉しいです!!時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!