閑話 ロニアの冒険譚 ㊽
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「おじいさま!この絵は偽物ですわよ!」
ロニアが祖父に向かって胸を張って言い出したのは八歳の時のことであり、
「おじいさま!この絵も偽物じゃないですか?」
王宮に飾られた絵を指差しながらロニアが主張したのは、三日後に九歳の誕生日を迎えようという日のことだった。
気さくな王様はすぐ様、謁見の場を用意して、
「ロニア・ルオッカ嬢、君は帝国に行って、沢山の本物をその目で見ることで頭の中に膨大な情報をストックしておく必要があるみたいだね?」
まだ幼いロニアに向かってそんなことを言い出したのだった。
絵画の目利きで王様の目に留まることになったルオッカ男爵家には、山のような絵画が倉庫に収められていたのだが、
「この世には星の数ほど画家が存在するし、その星の数ほどいる画家が自分の作品を作り出して後世に残しているわけだ。星の数ほどある画家の全てを覚えるのは大変だが、帝国に自ら赴き、流行の絵画、流行の画家、これから流行を作り出すであろうものを君は選び出し、その小さな脳みその中に刻み込んで来る必要があるんだよ」
ロニアの頭の中の情報を増やしていく為には、男爵家や王家が収集した絵画だけでは到底たりないと考えた王様は、ロニアに向かって帝国で学ぶようにと言い出したのだ。
画家という生き物は、それが王国であろうが、帝国であろうが、ゴシップに塗れて生きているようなものなので、まずはスキャンダラスな話を皮切りにしてロニアは王様が望む多くの情報をその小さな脳みその中に詰め込んでいったのだが、
「あ・・!これは贋作です!」
「あら!これも贋作ですね!」
「まあ!これほど精巧な贋作は久しぶりに見ました!ピエール・ヴァディムによるものじゃないかしら!」
帝国に移動してからも、ロニアは容赦無く偽物を言い当て続けることになったのだ。
プライドの高い貴族からしたら、自分たちが満を持して購入した作品が偽物であると指摘されるのは大きな屈辱となるし、しかもそれを指摘したのが年端もいかない田舎国出身の少女だったこともあって、
「信じられないわ!」
「頭に来る!」
「帝国の土を二度と踏めないようにしてやるわよ!」
ロニアは多くの恨みを買うことになったのだが、
「ロニア・ルオッカには手を出さない方が良いですよ?」
皇宮に勤める役人の一人が、囁くように言い出した。
「あの小さな御令嬢は皇帝陛下のお気に入りなのですよ。皆さまの元まで贋作が入り込むということは、皇宮にまで入り込んで来ることがあるわけで、それを端から調べて歩いているのが、皆様が恨みに思っているあの少女なのです」
今現在、皇帝自身が旗振りをする形で文芸復興に力を入れている。そんな状況だからこそ、悪い奴らが偽物を使って金を儲けようと企んでくるし、そこにストップをかけているのが年端もいかないロニアなのだ。
「偽物であれば仕方がない」
そうして、ロニアが偽物を見抜き続けていると、
「ロニア嬢、良かったら君が持って帰ってくれやしないかね?」
と、皇帝陛下がロニアに向かって、偽物はお前に与えると言い出した。
皇宮に紛れ込むほどの贋作であれば、幼いロニアの学びに役立つこともあるだろうと考えたのだが、与えられたものはあくまでも偽物なのだ。皇帝陛下から下賜された贋作はルオッカ男爵の倉庫に運び込まれて山積みにされることになったのだが、
「邪魔〜!本当の本当に邪魔だわ〜!」
天井近くにまで積み上がった偽物の絵画を見上げて、ロニアは激しい怒りを感じていた。
帝国から王国まで輸送する費用もかかれば、場所も取る。捨てるわけにもいかない贋作たちを前にして頭を抱えていたのだが、
「イースト地区に最近出来たギャラリーで、贋作を売り捌いているですって?」
売買する贋作の作製を画家のセヴェリが頼まれることになったという話を聞いて、
「もしかして・・商機が遂にやって来たのかもしれないわ!」
ロニアの心は弾み続けることになったのだ。
ラハティ王国や周辺諸国に贋作を売りつけるのは国際問題に発展してしまいそうだが、隣国オムクス相手であれば問題ない。そもそもあちらが先にラハティ貴族に対して、レベルの低い贋作を売りつけていたのだ。
常日頃、隣国オムクスに対しては国王陛下も腹を立てているところがあったので、ここで贋作事業を展開してオムクス相手にギャフンと言わせるのも良いだろう。
絵画については素人同然のシハヌークを利用して、売って、売って、売りまくってやろうとロニアは考えていたのだが、
「いや、ダメだ。そんなことをしたら駄目だ」
と、堅苦しいことを幼馴染のオルヴォが言い出した。
オルヴォが何を心配しているのかがよく分からないが、倉庫に山積みされた絵画が減っていくことになるし、国王陛下だって喜ぶだろうし、オムクスは素晴らしい絵画を購入出来て鼻高々となるだろう。
「みんながハッピーになるっていうのに、何でオルヴォは駄目だって言うのかしら?まさかお父様やお祖父様に事前に連絡が入れられていないから?商機を見出したら絶対に逃すなと常日頃からお二人が言っているのを知っているくせに、オルヴォには我が家の精神が理解出来ていないってことなのかしら?」
「「ああー〜」」
エギルとシグリーズルばあさんは、互いに目と目を見合わせる。
偽物を本物と信じて購入する時には互いにハッピー状態であっても、それが偽物だと判明した後では、購入者側は売りつけた相手に対して激しい憎悪を燃やすようになるだろう。隣国オムクスからロニアが個人的に恨みを買うようなことをオルヴォが恐れているのは間違いないことなのだが、
「帰っても来ない男のことを考えても仕方がないことだね」
玄関先へと移動をしたシグリーズルばあさんは、何かのメモ用紙を受け取って戻って来ると、絵画の間に挟まれるようにして立っているロニアとエギルを交互に見ながら言い出した。
「ギャラリーを見張っていた同士から報告が来たんだけど、グスタフ・レミングという男がギャラリーから出て行った後に、ケティル・サンドヴィクが現れたみたいなんだ」
「おばさま?ケティルって誰なんですか?」
「十年前、我々同胞を破滅へと導こうとした男なのだがね」
「それってまずいんじゃ・・」
動揺を隠せない様子のエギルの方を見ると、
「ナヌーク(熊)を動かすことにしたから安心しな」
そう言いながら、ばあさんはアトリエに置かれたゆり椅子を横にずらすようにして移動していく。
エギルのアトリエにはゆり椅子が置かれているのだが、その下に敷かれていたカーペットを移動させると地下道へと繋がる小さな入り口が現れたのだった。
「私は一旦、自分の家に戻るけど、ロニアお嬢様はどうする?」
シグリーズルは小さな引き戸を引っ張り上げながる。
「うちまで一緒に来るならナヌーク(熊)との顔合わせをしてあげるけど」
そんなことを言い出したので、ロニアは突然目の前に現れた竪穴の深さを目で測りながら、
「ナヌークが何なのかさっぱり分からないけれど、ギャングの抗争から逃げ出す時の抜け穴みたい!まさに小説的展開だわ!」
と、興奮の声を上げたのだった。
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