閑話 ロニアの冒険譚 ㊻
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ギャラリーを後にしたグスタフ・レミングが、乗合馬車に乗って移動するのを見送ったティール・シハヌークは、
「よし!よし!グスタフさんが席を外すなんてついているぞ!」
と、ガッツポーズを取りながら興奮の声を上げたのだった。
ラハティ王国にはオムクスのスパイが何人も潜入しているような状態なのだが、幹部と言われる人々が本日、会合を開くことになっている。
幹部の一人であるケティル・サンドビグへすぐに画廊へ来るようにと連絡を送ったシハヌークは、ロニア・ルオッカが置いていった贋作を店内で一番目立つ場所に展示する。
ロニアが置いて行ったのは、素人目に見ても『素晴らしい!』の一言しか出て来ないような贋作だ。これからティールはこの贋作を利用してたんまりと金を儲けようと考えているのだが、直属の上司であるグスタフを絡めるよりもケティル・サンドビグを利用した方が得策だと考えたのだった。
ケティルはでっぷりと太ったガマガエルのような男なのだが、従姉がオムクスの王族の寵愛を受けている愛妾ということもあって、金持ち貴族に顔が広いことでも有名なのだ。
「おう、おう、急に画廊に呼びつけるなんて、随分と珍しいことでもあるもんじゃないか」
ケティルは脂ぎった顔にコッテリとした笑みを浮かべながら現れると、
「しかも、グスタフ・レミング抜きで話を進めようと言うのだろう?」
何もかも見透かしたような事を言い出したのだ。流石はスパイの幹部を勤めているだけあって、独自の監視網を広げているのに違いない。
「ルオッカ男爵の娘が絵画を持ち込んだみたいだが、画家にルオッカ男爵の画廊に置かれた絵を盗ませるということにはしなかったみたいだな?」
ケティルはゲフゲフと喉を鳴らすと、
「一体どんな絵画を娘っ子は持ち込んだんだ?」
舐め回すような眼差しでシハヌークを見つめながら問いかける。
「令嬢が持ち込んだのはこちらの作品になります」
シハヌークは勿体ぶった様子でケティルの方を見ると、
「天才画家ジャメル・ピコリが描いた『聖なる大地』帝国の富豪サレー・アルハムダンが皇帝から買い取ったと言われる作品になるのですが・・」
何度も呼吸を整えながら、
「こちらにある物が本物になります」
シハヌークが断言すると、
「ゲコッ」
喉に何かが引っかかった様子で、ケティルは何度もひゃっくりを繰り返しながら、
「本物〜?」
心底驚きながらも、拭い切れない疑いの眼差しをシハヌークに向けたのだ。
「どうやら本物は盗み出されていたようなんです」
シハヌークは真面目な顔で言い出した。
「元々、皇帝は『聖なる大地』の偽物を三枚作っていたそうなのですが、富豪が購入したものはその偽物のうちの一枚ということになるようです」
「それで?なんで本物がここに登場することになるんだ?」
「皇帝は三枚の複製品の作成を天才贋作家に依頼したようなのですが、その時に本物と偽物が入れ替えられたみたいなんです」
帝国では皇帝を筆頭に、収集した作品を特別なギャラリーで展示するようなことを行うのだ。これだけの素晴らしい作品を自分は持っているのだと、大勢の人々に喧伝したいからこそ行われることなのだが、中には自分の所有する絵画に問題があったら困るからという理由で、あえて複製品を作って展示をする貴族も居る。帝国では複製品を作らせることは珍しいことではないのだが・・
「それじゃあ、イブリナ帝国の皇帝様は、オリジナルがレプリカに入れ替えられたのにも気付かずに富豪に絵画を売っちまったということなのか?」
「あえて複製品を売って、本物を自分の手元に置こうと考えたのかもしれませんが」
「その皇帝様が持っている本物が実は偽物になるし、盗まれた本物が流れ、流れて、今、ここにあるってことになるわけか?」
ガマガエルのような顔でジロリと睨みつけられたシハヌークは、満足そうに笑みを浮かべながら、
「ルオッカ男爵はたまたま本物を購入してしまったわけですが、皇帝が富豪に偽物を売ったという話が出回った後のことだったので『ラハティ王国に本物があります!』と、主張するわけにもいかず、帝国とは争い事を起こしたくないと王家が考えた結果、この『聖なる大地』は画廊の倉庫で保管しておくことになったのだそうです」
「その保管をお命じになったものを、お嬢ちゃんがわざわざここまで持って来たという事なのかね」
ケティルは唸り声を上げながら問いかける。
「それで、グスタフは?あいつは何と言ったんだ?」
「グスタフ様は、ラハティ王国でお蔵入りになっている絵画なんだから本国に持ち帰っても何の問題もないだろうと言っております」
現在、ラハティ王国は帝国絵画の販売を王家が独占しているような状況なのだ。帝国から輸入をしていても売り捌けない作品が男爵の倉庫には積み上がっているような状態であり、男爵としても困り果てている。
「男爵が所有する絵画をオムクスに売り捌くことはグスタフ様も了承なさっているのですが、ケティル様はケティル様で、ご友人相手に絵画を斡旋をしたいのではないかと思ったのですが・・」
シハヌークはニコニコ笑いながら言い出した。
「これは上司のグスタフ様を抜きにした上での話になりますが、ケティル様はどうなさいます?絵画を友人に斡旋したいのかどうかという話になるのですが?」
ケティルはでっぷりと太ったガマガエルのような男なのだが、従姉がオムクスの王族の寵愛を受けている愛妾ということもあって、金持ち貴族に顔が広いことでも有名なのだ。
真面目な顔でケティルはシハヌークの顔をまじまじと見つめると、
「ゲコゲコゲコ!」
と、笑いながら瞳を細めた。
「そういったお蔵入りの絵画をルオッカ男爵は我々に売りつけたい。だけどなあ、その売りつけられた絵画が偽物だなんてことになったら、俺の首が飛ぶことになるんだが」
ケティル・サンドヴィクの言葉を聞いて、ティール・シハヌークの頭の中は高速で回転していくことになったのだが、
「ルオッカ男爵は贋作を扱わないことでも有名ですし」
シハヌークは胸を張って言い切った。
「男爵家の令嬢が、本物を自分の国で売り捌くことが出来ないから隣国で売り捌きたいと言っているんですよ」
偽物か本物かなんて、ズブの素人であるシハヌークには分からないし、目の前にいるケティルにだって分からないだろう。そんな状況で、ロニア・ルオッカが(建前上)本物だと主張しているのだから、本物だと断言したところで何も間違っていやしないのだ。
「ストックしておいたはずの帝国絵画がオムクス本国に流れているなんて、ラハティ王国側は思いもしないでしょう。敵の裏をかくことが出来るのですから、本国では腹を抱えながら笑って喜ぶ方々が大勢いらっしゃるのではないしょうか?」
シハヌークはケティルの耳元に口を寄せながら、囁くように言い出した。
「僕もお小遣いが欲しいんですが、ケティル様だって欲しいんじゃないんですか?」
ガマガエル顔が一瞬だけ硬直したものの、すぐに口元に笑みが浮かぶ。
「ラハティ王国の絵画担当は僕ですし、ルオッカ男爵令嬢とは僕自身が話を進めているような状況ですし。輸送に北の民族を使えば、こっそりケティル様にお渡しする分も運べるっていう寸法ですが」
「北の民族だって〜?」
ケティルはあからさまに呆れた表情を浮かべたのだが、シハヌークから、職にあぶれた北の民族を安値で安全に利用することが出来るのだという話を聞いたところで、
「ガハハハッ!あいつらは本当に馬鹿な民族だよなあ〜!」
大笑いをした上で、
「良い案じゃないか、絵画の売買先については俺に任せろ!」
と答えて、自分の胸をドンと拳で叩いたのだった。
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