閑話 ロニアの冒険譚 ㊸
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オリヴェル・ラウタヴァーラは頭が完全に混乱をしていた。
今日は自分の結婚式であるはずなのに、式を挙げる直前で尊敬するリンデレフ大佐の遺体が聖堂の裏手にある林の中から発見されたのだ。
本来であればここで結婚式は中止にするべきだったのに、
「今日はティール・ギャラリーに潜り込ませた画家が、オムクスの幹部との接触をする予定だから」
とか、
「大佐はオムクスのスパイに殺されたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ここで中止にしては敵が誰なのか分からなくなるのではないのか?」
とか、
「これは王命によって決められた結婚式だから」
とか、
「敵の尻尾を掴む為にも、このまま披露宴まで続行した方が良いだろう」
と言われることになり、中止することなく披露宴まで続けられることになったのだ。
その間に、ティール・ギャラリーに絵画を運び込むことになったロニア・ルオッカ令嬢が、敵のスパイと接触することになったのだが、
「なんだって、グスタフ・レミングという公国人の男がオムクスのスパイで?あろうことか、この披露宴に参加をしていただって?」
オルヴォ・マネキンから報告を受けたオリヴェルが軽い目眩を起こしていると、部下のベンジャミンが招待客のリストを抱えて戻って来るなり言い出した。
「パウラ夫人の友人がパートナーとして連れて来ていたみたいですね。ほら、最近未亡人になったエクランド子爵夫人ですよ!」
「母上の友人がパートナーとして連れて来ただって?」
隣国オムクスは可愛らしい女性を使って軍部に属する男たちから情報を抜き出そうとして居たのだが、どうやら彼らが使うのは女性だけではなく、顔立ちの良い男性も含まれるようだ。
「ギャラリーのオーナーであるティール・シハヌークの直属の上司が、中尉の披露宴にも参加をしたグスタフ・レミングという男のようなんです」
「君は披露宴に参加をやたらと強調するようだな?」
思わずオリヴェルが非難めいた視線を送ると、オルヴォ・マネキンは顔を青ざめさせた。
予想通り、オムクスのスパイは披露宴に参加をしていたのだ。しかも公爵夫人の友人がパートナーをしていたことが明るみとなれば、大きな問題になるのは間違いない。
「ユリアナ様といい、パウラ夫人といい、オリヴェル様、災難ですね〜!」
「ベンジャミン、うるさいぞ」
沈痛な面持ちで自分の眉間を押さえながら、
「それで、これが俺の結婚披露宴ということになるんだよな?」
と、オリヴェルは誰にともなく質問をする。
「今日が俺の結婚式だとして、俺の花嫁は一体何処に行ってしまったのだろうか?」
「早々にお部屋に戻られたみたいですよ」
本日行われた結婚式ほど花嫁を侮辱するような結婚式はないだろう。
聖堂で行われた神聖なる式の最中、花婿は他のことに気を取られ過ぎて花嫁への誓いのキスすらまともに行っていないし、公爵邸の庭園で行われた披露宴では花嫁をそっちのけの状態で、公爵家に居候をしている令嬢を側近くに置き続けて居たのだ。
この結婚は王命によって決まった結婚となるのだが、王によって決定された花嫁カステヘルミではなく、ユリアナを自分の妻にしたいと思っていたようにも見えるし、
「皆さーん!私は王が決めた令嬢ではなく!こちらの令嬢と結婚したかったんですよ!王命で決まったから仕方なく式を挙げてはおりますが、本当の本当に!不本意なんですー!」
と、招待客の皆さんに言葉ではなく態度で主張しているようなものだった。式や披露宴に参加した人々も、
「「「「あら!この結婚は上手く行かないわ〜!」」」」
と、思ったに違いない。
あからさまな侮辱を受けた花嫁の気分が悪くなるのもわかるし、早めに披露宴会場から引っ込んだ気持ちも良く分かる。花嫁の親族に至っては披露宴の途中でみんな席を立っているし、式だけ参加をして披露宴には足も向けなかった者も居るということをベンジャミンは知っている。
だけど、そんなことを言っても仕方がないことなので、
「オリヴェル様、この際、晩餐会は中止しては如何ですか?」
結婚式と披露宴は中止には出来なかったが、晩餐会については特に上から命令を受けているわけでもないため、ベンジャミンは自分の上司に進言をすることにしたのだが、
「中止にした方がいいです!というか、中止にしてください!」
と、真っ青な顔をしたオルヴォ・マネキンが言い出したのだ。
「ティール・ギャラリーの倉庫にスパイの幹部が集まるということで画家のエギルがそこで顔繋ぎを行う予定だったのですが、そこにロニアが同席をすると言うのです!」
「えーっと、それは、アドルフ殿下から絵画の保証をするという話を受けて、令嬢自身が用意した絵画をティール・ギャラリーに持って行ってしまったから?」
ベンジャミンに向かって、オルヴォは壊れた人形のように何度も頷きながら言い出した。
「そうなんです!そうなんです!しかもロニアは『神に祈る手』という王宮にも長年飾られていた贋作を持って行っていて、本物だと主張した上で敵国に売りつけると宣言しているんです!」
「「贋作を本物と偽って敵国に売りつけるだって?」」
オリヴェルとベンジャミンに同時に尋ねられたオルヴォは、二人に向かって前のめりになりながら言い出した。
「そうなんです!ティール・ギャラリーはラハティの貴族相手に、帝国の路上で売っているレベルの偽物を馬鹿みたいな高額をふっかけて売り捌いていました。本物の仕事というものはそんなものではないとロニアが突然息まき始めまして、結果、自分のところの画廊の奥深くに埋もれていた贋作まで引っ張り出して来て、オムクス相手に贋作ビジネスをやるとか何とか言い出して!」
オルヴォは真っ青な顔をしながら、
「ティール・ギャラリーに運び込んだのは贋作ですし、殿下が保証をするのだから何の問題もないんだと言い切っていて止められないんですよ!」
必死になって訴えているのだが、オリヴェルとベンジャミンは困惑を隠せない。
「殿下が絵画の保証をすると言っているのに、なんで贋作なんだ?そこは本物で良いだろう?」
「向こうが贋作でビジネスをしているんだから、こっちだって贋作でビジネスをすると言っているんです。目には目を、歯には歯を、グアラテム王方式を採用するって言っています」
「相手はそれを本物だと思っているんだよな?」
「ギャラリーのオーナーであるティール・シハヌークは、持ち込まれた物が贋作だと知っているそうです」
「「なんでそんなことに?」」
「オーナーをこちら側に取り込む意図があるというのと、贋作ビジネスはとってもお金になるからだとも言っています」
画廊のオーナーはオムクスに贋作を売ることに一枚噛むことで、大金を懐に入れようと考えているということ。直属の上司であるグスタフ・レミングは贋作であるということには気が付いていないこと。
オムクスとの国境まで絵画(贋作)を運ぶことになるが、北の民族の男たちに搬送させるつもりであること。最近、ある噂が原因で職を失うことになった北の民族の男たちはそれで金を手に入れられるし、オムクス側としては安全に国境まで絵画を運ぶことが出来るということで、互いにウィンウィンだということ。
「ということで、スパイの幹部との顔合わせには画家以外にも北の民族の男たちを連れて行くつもりだし、そこでシグリーズルばあさんが一発、あいつらに泡を吹かせてやると宣言しているんです」
そこでオリヴェルとベンジャミンは互いに顔を見合わせると、うんざりした様子で同時に大きなため息を吐き出したのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスでお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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