閑話 ロニアの冒険譚 ㊷
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正午より聖堂でオリヴェルとカステヘルミの結婚式が行われることになり、フューゴ・リンデレフ大佐が祝辞を述べる予定でいたのだが、式が始まる寸前に大佐が遺体となって発見されることになったのだ。
王命によって決まった結婚式に瑕疵をつける訳にはいかないという理由もあり、大佐の死は伏せたままの状態で式は行われることになったのだが、周辺の情報を集めてみたところ、どうやら大佐と最後に会っていたのがオリヴェルの母の養い子でもあるユリアナだったようなのだ。
「目撃証言を集めた結果をご報告致しますが、聖堂で殺されたフューゴ・リンデレフ大佐と最後に会話をしていたのがユリアナ様に間違いないようなのです」
オリヴェル・ラウタヴァーラは、ベンジャミン・ラシムスの報告を聞いてうんざりした様子でため息を吐き出した。
「ベンジャミン、このまま披露宴を続けるつもりなんだよな?」
「上からはそのように命令を受けております」
「俺の結婚は軍部による作戦の一つなのか?王命によって決まった結婚だと思ったのだが?」
「うーん、そうですねえ・・」
ベンジャミンは眉を顰めて顔をクチャクチャにすると、
「自分でも何がなんやら分からない状況なんですよ」
と、心底うんざりした様子で言い出した。
「聖堂の入り口近くで、ユリアナ嬢とリンデレフ大佐が二人で話している姿が目撃されておりますし、大佐の方は酷く不機嫌な様子だったというのです」
ベンジャミンはメモをめくりながら言い出した。
「この様子は招待客が何人も目撃をしておりますし、大佐がご令嬢を促す形で聖堂の裏手へと移動されている姿を数名の神官たちが確認しております。痴情のもつれとするには大佐が高齢過ぎるので、一体どうしたのだろうと疑問に思った神官も居たようですが」
聖堂に招待客が集まり始めた頃、祝辞を述べるために参列するフューゴ・リンデルフ大佐とユリアナが対面することになったというのだが、大佐とユリアナが何処で知り合ったのかがオリヴェルには分からない。
「直接、ユリアナに尋ねてみるしかないようだな」
「そうですね。今のままではユリアナ様は最有力の容疑者となってしまうでしょうし、万が一にもユリアナ様が大佐を殺した犯罪者であれば、公爵家は拭い去りようのない汚名をかぶることになるでしょう」
敵国オムクスはラハティ王国が行う鉄道事業を頓挫させたいと企んでいるし、ラウタヴァーラ公爵家を破滅に追い込むことで事業の失敗を狙っているのに違いない。
「大佐と最後に言葉を交わしたのがユリアナだとするのなら、絶対にユリアナから直接話を聞かなければならない。披露宴を中止にして彼女を取調室に連行出来たら何の問題もないのだが?」
「アドルフ殿下は多くの貴族たちが招待される披露宴だけは無事に終わらせろと言明されております」
「くぅう〜!」
リンデレフ大佐が殺された。叩き上げの軍人である大佐には少年兵の頃から世話になっていたし、自分の親以上に尊敬していたこともあってオリヴェルは祝辞をお願いしていたのだが、まさかここで大佐が殺されることになるとは思いもしない。
「オリヴェル様、この披露宴にはオムクスのスパイだって潜り込んでいるでしょう?敵の尻尾を掴む絶好の機会なんですから、今は我慢ですよ!」
「我慢と言ったって、これは俺の結婚式なんだよなあ?」
大佐と最後に話をしたのがユリアナだとするのなら、オリヴェルはユリアナから直接話を聞かなければならないのだ。
披露宴パーティーの合間にユリアナを呼び出したオリヴェルは、個室で詳細を聞き出そうとしたのだが、
「え〜?何でそんなことを聞かれなくちゃならないんですか〜?」
と、彼女はほっぺたを膨らませて不貞腐れた表情を浮かべたのだった。
「大佐ってあのおじいちゃんのことでしょう?祝辞も述べずに居なくなっちゃったみたいだけど、そんなおじいちゃんの話を何故、私がしなければならないのですか?」
この時、ユリアナはオリヴェルから、
「王命で決められた結婚なんて関係ない、本当に愛しているのはユリアナなんだ!」
という愛の告白をされるのではないかと想像していたのだが、
「リンデレフ大佐とお前は一体、何を話していたんだ?」
と、問われて一気に興醒めしてしまったのだ。
不貞腐れるユリアナに対して苛立ちを隠しもしないオリヴェルが、
「リンデレフ大佐が殺されたんだ!」
と、言い出したところで、
「だから何?そんなの私には関係ないですよね?」
と、ユリアナは不満そうに言い返す。
パウラ夫人の許しもあって自由気ままに遊んでいるユリアナは、顔立ちの良い男にはとことん目がない令嬢なのだ。
最近、参加をした仮面舞踏会ではウブな男を一人ひっかけることに成功し、自分の信奉者として仕込んでいるところだったのだ。すると彼の祖父だと名乗る男から聖殿の前で声をかけられ、二度と孫には近づくなと聖堂の裏で説教を受けることになったのだ。
「あの嫌なジジイ、天罰が降ったのね!」
と、ユリアナは小さな声で呟いたのだが、その言葉はオリヴェルにはもちろん届いていない。祝辞を述べる予定の爺さんが殺されたとしても説教を受けている間はお付きの侍女も一緒に居た為、自分の身の潔白を証明することは出来るだろうとユリアナは確信していたのだ。
面白くもない結婚式で、自分が脇役として扱われるなんて納得がいかないと考えていたユリアナは、
「まさか、オリヴェルお兄様は私が大佐を殺したと思っているの?酷い!酷過ぎる!」
と、興奮した声をあげ、泣いているような素振りを見せながら、新郎であるオリヴェルを翻弄するだけ翻弄することに成功した。
おかげでユリアナは花嫁よりも一緒にオリヴェルと過ごすことになったし、自分が花嫁に代わって親族たちへの挨拶をすることが出来たのだ。結局、最終的には、
「ユリアナ、お前が大佐を殺した犯人ということで牢屋に収監しても良いということだよな?」
と、オリヴェルから脅されることになり、洗いざらい白状することになったのだが、悲嘆の花嫁の姿がパーティー会場から消えていたことにユリアナは心から満足することになったのだった。
ユリアナに付き添っていた侍女の証言を確認することでユリアナは大佐から文句を言われただけだということが判明するのだが、その頃にはすっかり花嫁は放置され、花嫁の親族も、新郎が改めて挨拶をする前にパーティー会場から帰っているような状態だった。
「まずい、これは本当にまずい・・」
問題児であるユリアナは顔だけは滅法良いと評判のミカエル・グドナソンに押し付けて自分の花嫁をさあ探そうとなったところで、
「オリヴェル様、聖堂で大佐が殺されたという情報が、どうやら新聞社にリークされたようです!」
と、ベンジャミン・ラシムスが慌てた様子で報告に来たのだ。
王命で決まった結婚式、そこで祝辞を述べる予定だった大佐が秘密裏に殺された。しかも公爵家の結婚式の直前に犯行が行われた事件とあって公爵邸の前には記者たちが集まり始めているという。
「まずい!まずい!まずい!これは本当にまずいことになったぞ!」
何とか記者たちを追い出し、各新聞社には王家から圧力をかけてもらうことで合意し、とりあえず新婦と共に晩餐会の挨拶だけはしなければならないとオリヴェルが冷や汗をかきながら考えていると、
「中尉!中尉!」
ミカエルの部下として働いているオルヴォ・マチネンが現れて、
「大変なことになっているんです!」
と、慌てた様子で言い出したのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスでお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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