閑話 ロニアの冒険譚 ㊵
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
文芸復興の波が帝国を中心にして広がり、価値ある絵画に対して惜しみなく大金を投じる好事家が増えてきた。高額で絵画が売買されるようになると、売買の仲介に当たる画廊では絵画の運搬に頭を悩ませるようになっていく。
運搬中に強奪をしようと考える輩も増えて来るのは当たり前のこととして、ただ、ただ盗んだ物を売って金にしてやろうと考える者もいれば、盗んだ絵画の複製品を作って金を儲けようと企む者も大勢いる。
王家から帝国の絵画の仕入れを任されているルオッカ男爵家では、高位の貴族たちが驚くほどの護衛の者たちをつけて絵画の運搬を行なっているのだが、それでも絵画を狙って襲撃をかけてくる輩は多いのだ。時には偽物を仕立てて出発させることもあるし、秘密裏に地元住民の力を借りて運び出すなんてことも多いのだ。
とにかく金になる絵画事業、絵を運ぶのがどれだけ大変なことになるのか、ロニアは力説を続けていたのだが、遂にオムクスのスパイであるグスタフ・レミングが、
「そうか、それでは北の民族との顔合わせを許可しよう」
うんざりとした様子で言い出したのだった。
仕事を待っている北の民族と話を付けておきたいからという理由で、ロニアとエギルはティールギャラリーを後にすることにしたのだが、
「お嬢様!無茶なことをするのはおやめください!」
もはや何と形容したら良いのかも分からないような不気味な顔色へと変色したエギルが、滝のような脂汗をかきながら言い出した。
「用意した絵を置いて来るだけだって言っていたじゃないですか!ルオッカ家は私の要望を受けて絵画を五点だけ用意したっていう話をするだけだって言っていたじゃないですか!」
「そうなのよ、確かに最初はエギルと一緒に絵画を置いて来るだけの話だったのよ」
今日はラウタヴァーラ公爵家の結婚式であり、ロニアの友人でもあるカステヘルミが公爵家の次男と結婚をする日でもあったのだが、式の最中から思いもよらないことが連続で起こり続けることになり、現場を指揮する予定だったミカエル少尉も公爵家の方に捜査要員として取られて帰って来られなくなってしまったのだ。
ミカエル少尉の部下として働いていたオルヴォは、
「どうせスパイの幹部に会うのは夜になってからだから、とりあえず現場の指揮をお前に任せても問題ないだろう」
という無茶振りをされ、監視を進めるミカエルの部下たちを取りまとめようとしたところ、
「絵画を夕方までに持って来るように」
という伝言を持ったシグリーズルばあさんがロニアの画廊に現れることになったのだ。
無茶振りをされて激しく胃が痛み出しているオルヴォが、
「王太子殿下が保証をするから、何も心配せずに絵画を用意するように」
という伝言を持って来たため、
「それじゃあどんな絵画を用意してもうちが損をするということはないわけねえ〜!」
と、ロニアははしゃいだ声をあげていたのだが、
「夕方までに絵画を用意しろですって?」
という舐め切ったスパイからの指示を聞くに至って、
「なんでうちがそんな要求に応えなくちゃならないわけ?こちらを舐めるのもいい加減にしろと思うのは仕方がないことよね?」
ロニアは完全に激怒した。
そもそも、男爵家がパトロンとなって育てている大事な画家に手を出されたことでも怒り心頭だったというのに、無茶すぎる相手の要求にブチギレ状態となったロニアは、
「だったら相手が満足する物を用意してやろうじゃないのよ!」
と言い出して、虎の子の贋作を(親には黙って勝手に)持ち出すことを決意した。
本来なら贋作をティール・ギャラリーに置いて立ち去る予定だったのだが、
「あなたがルオッカ男爵のご令嬢ですか?はじめまして〜!」
と、挨拶をしてきたティール・シハヌークを一目見たロニアは『この男なら転がせる!』と咄嗟に判断し、その場で勧誘を始めることにしたのだ。
オムクスへ持ち込む為の絵画は出来る限り用意したという体裁を作る為に、ロニアはティールギャラリーへと赴いたのだが、次から次へとロニアが思ってもみない方向へ話を展開させていくため、エギル・コウマルクルは途中で気持ちが悪くなり過ぎて、昼に食べた物を吐き出しそうになっていたのだ。
見かけは盗賊、心は子ウサギのようなハートを持つエギルが一旦、ロニアと共に自分のアトリエへと戻ることになったのだが、待ち構えていたオルヴォ・マネキンは慌てた様子で、
「エギル!大丈夫か!今にも死にそうな顔をしているぞ!」
と、言い出した。
すると、ゆり椅子に座って目を閉じていたシグリーズルばあさんがパッと目を見開いて、
「どうだった?あいつら信じている様子だったかね?」
椅子から立ち上がりながら問いかける。
「我ら北の民族が職にあぶれて困り果てているというのを信じ込んでいる様子だったかね?」
「それはもちろん信じている様子でしたけれど・・」
ロニアは腰をくねくねさせながら言い出した。
「結局、職にあぶれた北の民族の男たちが用意した絵画を国境まで運んで行くという話なのだけれど、エギルに任せずに私の方でしちゃいました!」
オルヴォとシグリーズルばあさんが驚きを隠しきれない様子で目を見開いたのだが、そんなことは気にもしていない様子でロニアは胸を張る。
「だって!エギルになんか任せておけなかったのですもの!」
「待て、待て、ロニア、お前は持ち込んだ絵画について質問を受けるようだったら、それに答えるためにギャラリーに向かったのであって、絵画の搬送の交渉をする予定じゃなかっただろう?」
「そうなんだけど〜」
盗賊のような怖い顔をしているエギルは、人なら二、三人は殺しているような威圧感のある風貌の持ち主でもあるのだが、とにかく小心者過ぎて、生気が失われていくような状態だったのだ。
そんなエギルだけが幹部と顔を合わせるというのは荷が重すぎるということで、国境までの絵画の輸送を北の民族に任せたらどうかという話を進めて、幹部との顔合わせに部族の人間も何人かついて行けるようにしてみようという話になってはいたのだが、
「幹部との会合には私も顔を出させて頂くことにしたのよ!」
ロニアが投下した爆弾発言を受けて、オルヴォはその場でひっくり返って転びそうになっていた。
「ちょっと待て、一体、何を言っているんだ?」
オルヴォの怒りと動揺なんて何のその、ロニアはニコニコと笑いながら、
「贋作ってきちんとやればお金になるのだもの!オムクスのスパイが飛びつかない訳がないのよね!」
と、言い出すと、
「つまりティール・シハヌークという画廊のオーナーは、思った通りにミイラ取りがミイラになったってことだね?」
そう問いながら、シグリーズルばあさんはニタリと笑ったのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスでお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!