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閑話  ロニアの冒険譚 ㊴

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 幼い時から絵画に囲まれるようにして成長したロニアは、多種多様な画家たちが作り出す、ドロドロとした痴情のもつれが絡み合うようなゴシップを浴びるようにして聞きながら育ったところがある。その為、生ぬるい話では納得できないのだ。


 同年代の令嬢たちがハッピーエンドの話に夢中になっている間に、恋愛→幸せな結婚→夫の浮気→愛人からの嫌がらせ→夫は殺すべきか、生かすべきか、どちらを選ぶべきか、それが問題だ。という展開にまで発展する物語に夢中になっていた為、世間一般の令嬢たちからは大きくかけ離れたところに喜びを見出していたのは間違いない。


 そんなロニアが最近好んで読むのが、スパイも出てくる推理小説であり、

『これが・・隣国のスパイ?』

 筋骨逞しい漆黒の髪の、中央国家として古い歴史があるアドレア公国の特徴でもある彫りが深い顔の男を前にして心の中で呟くと、

「はじめまして!グスタフ・レミング様!私、ロニア・ルオッカと申します〜!」

 笑顔を浮かべながらグスタフと握手をしたのだった。


 ラハティ王国内で絵画を自由に売り捌くことが出来ないルオッカ男爵家は隣国オムクスに新しい販路を開拓したいと考えている。まずはオムクス相手に贋作を売り飛ばして荒稼ぎをしようということになったのだが、とりあえず、ティール・シハヌークは直属の上司であるグスタフに、そのことを告げてはいないようだった。


「私も帝国には良く行くので、グスタフ様の噂を耳にすることもあったんですよ!まさかこんな場所でお会いすることになるとは思いもしませんでしたわ〜!」

「噂といっても碌な噂じゃないですよねえ?」

 グスタフは軽く肩をすくめながら、

「たとえば投資の話とか?」

 と、茶化すように言い出したため、ロニアも片手で自分の口元を押さえながら、

「オホホホッ!確かに投資に関する逸話も耳にしたことがございますわ〜!」

 と、誤魔化すように言い出した。


 帝国でアドレア公国出身の投資家といえば、人は好いんだけど投資に失敗してしまう可哀想な奴ということで有名なのだ。

 グスタフが絵画に関わることが今までなかった為、ロニアは噂の投資家をその目で見たことがなかったのだが、

「可愛らしいご令嬢と一緒にこれから仕事が出来るのかと思うと、今にも胸が弾け飛びそうです!」

 そう言ってロニアの手の甲にキスを落とすグスタフの姿を見下ろして、

『今まで投資に失敗していたのは、あえて、わざとそうした部分もありそうよね〜!』

 と、心の中で呟いた。


 ティールギャラリーで、今後、どういった絵画を隣国オムクスに売り捌いていくかという話をしていたところ、ラウタヴァーラ公爵家の結婚披露パーティーからグスタフが帰ってきた為、ロニアはグスタフから挨拶を受けることになったのだ。


 それにしても、今、ロニアの目の前に座るのは典型的な帝国人と、典型的なアドレア公国人にしか見えない。二人の男は、オムクスのスパイということになるため、

「質問なのですけれど、隣国オムクスは諜報部員を雇う時には他国の者のみを採用するとかそういった条件がありますのかしら?」

 二人に向かって堂々と、あっけらかんとロニアは質問をした。そのため、ロニアの後ろに立っていた画家のエギルはひきつけを起こして倒れそうになってしまったのだ。


「お・・お・・お嬢様・・あまりにも不躾ですし・・そのような質問は非常に失礼だと思うのですが?」

 エギルの動揺など何のそのといった様子で、ロニアは肩をすくめて見せた。

「私の後ろに立つ画家のエギルなのですけど、我が国の北に住み暮らす民族の出身で、私も幼い頃から北の民族の方々とは非常に親しくさせて頂いておりますの」


 ロニアは大きなため息を吐き出しながら言い出した。

「お二人もご存じのことと思いますけれど、昔から私たちラハティ人は容姿も違う北の民族のことを蔑視しておりますし、最近ではとある噂が原因で、突然クビを切られることも多いような状態なのです」


 ロニアは指をモジモジと動かしながら言い出した。

「今、現在、職もなくて困っている人が沢山いるような状態ですし、私も本当に心苦しく感じておりました。そうしたら、今日、私どもの絵画を隣国オムクスで売り捌く販路を確立出来るかもしれないというお話を頂くことになったじゃないですか!」


 そうして上目遣いとなったロニアは、二人を見上げながら言い出した。

「我が国からオムクスへ絵画を輸送する際、その輸送に北の民族を雇用したら良いのではないかと考えているのです。だけどここで一つ、大きな問題がございますでしょう?」

「大きな問題というと・・もしかして・・北の民族がオムクス人を酷く嫌う傾向にあることでしょうか?」


 グスタフの言葉にロニアは両手をパチンと鳴らして、はしゃいだ声で言い出した。

「そうなんです!北の民族の方ってオムクス人のことを嫌っているというか、信用ならないと考えているところがあるでしょう?」


 今から十年ほど前のこと、隣国オムクスは北の民族を扇動する形で武装蜂起を起こさせたことがあるのだ。両者の争いを大きくすることで内戦にまで持ち込み、憎っくきラハティ王国の国力を大きく削ぎ落とす作戦に出たのだが、結局、オムクスの策略は途中でバレることになり、北の民族による武装蜂起は頓挫することになったのだ。


「確かに、北の民族はオムクス人を見るだけで仲間内で情報を共有し、警戒するところがありますよね?」

「オムクス人なら警戒しますけど、お二人はオムクス人じゃないから警戒しない」


 ロニアはにっこりと笑うと言い出した。

「ここにいるエギルの家族や親類も、最近、職が見つからずに困り果てているような状況なのです。私としては絵画の運搬を任せるということで彼らを雇用したいと考えておりますの。生粋のオムクス人ではないシハヌーク様やグスタフ様のような方が商売相手であるならば、彼らもそれほど警戒することはないと思いますの」


「北の民族が我々オムクスの首都まで絵画を運搬したいと考えるのでしょうか?」

「それは無理なので、国境での引き渡しになると思うのですが・・」

 ロニアはグスタフに向かって顔を寄せると、小声となって囁いた。


「北の民族の何が素晴らしいかというと、彼らは騎馬民族なので道なき道も馬で進めてしまうところですのよ」

 国境まで続く主要道路を使わないということは、誰にも見つかることなく絵画を密輸出来るというわけで、

「しかもお値段もかなりお安め、私は絶対にお得だと思いますわ!」


 ロニアは前のめりとなった姿勢を戻すと、シハヌークが用意した紅茶に口をつけながら、

「エギルの親族はこの近くにも住んでおりますし、素性の確かさは私が保証いたしましょう。何なら今から呼んで軽い顔合わせも出来るかと思いますけれど」

 上目遣いとなってロニアはグスタフを見上げると、

「グスタフ様、どう致しましょうか?」

 と、問いかけたのだった。

 


殺人事件も頻発するサスペンスでお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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