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閑話  ロニアの冒険譚 ㊲

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 帝国人でありながら、オムクスのスパイとして活動するティール・シハヌークは投資家として活動をしながらオムクスに利するような情報操作を行い続けて来たのだが、取り扱うのは土地や個人事業だったりするため、絵画への投資は門外漢なのだ。


「絵画を取り扱うなんて僕には無理です!」

 と、当初からシハヌークは主張していたのだが、

「大丈夫、大丈夫」

「帝国の絵画は帝国人が売った方が、信憑性が断然上がるから」

 と、言われることになり、嫌々、ギャラリーのオーナーになってしまったのだ。


 幸いなことに、シハヌークと同じようにラハティの貴族も絵画については何も分かっていないような状態だったため、贋作の売買は順調に行われることになったのだ。

「今は売れていたとしても・・そろそろ・・本格的にまずいんじゃないのか?」

 と、最近になってシハヌークの勘が囁いてきた。そろそろ潮時なのではないかという考えが離れず、シハヌークの頭の中では警鐘が鳴り続けていたのだ


 このまま帝国由来の絵画(贋作)を売り続けるにしても、そろそろ誰かが、

「え?そんなものを高額を支払って購入しているの?」

 と、鼻で笑いながら言い出すのではないだろうか?


 帝国出身のシハヌークは絵画については全くよく分からないのだが、帝国のギャラリーで観た本物と、自分のギャラリーで飾られている偽物が完全に別物だということは理解している。

「もう、明日にでも画廊は閉めよう!」

 と、シハヌークはいつでも考えているのだが、

「ラハティ人が本物を理解出来るわけもないんだから!まだいける!まだいける!」

 と、自分よりも遥かに格上の人たちがそう言い続けている。


「ラハティの貴族に本物か偽物の真偽など出来るわけがないからな!」

 と、いつだってシハヌークは上司から言われているのだが、

「オムクスの貴族に本物か偽物かなんて調べる経験と技術があるわけないでしょう?」

 贋作の天才ピエール・ヴァディムが作製した『聖なる大地』を引っ提げて現れたロニア・ルオッカは馬鹿にするようにシハヌークを見ながら言い出したのだった。


「エギルからオムクスの貴族が泣いて喜ぶような作品を用意しろと言われたのだけれど、であるのなら、イブリナ帝国の皇帝が贋作の天才ピエール・ヴァディムに描かせた三枚の『聖なる大地』のうちの一枚、これで十分だと思うし、それ以外にも・・」

 ロニアは用意して来たもう一枚の絵画をシハヌークに見せながら言い出した。

「素人同然の貴族には小ぶりの絵画の方が、手が出しやすいかしら?これはアンドレイ・デュラの『神に祈る手』なのだけれど」

 たて三十センチ、横二十センチの小ぶりのキャンパスには、神に祈る五人の手が描かれている。男性、女性、老人、成人、子供の手が祈りを捧げる姿で描かれているのだが・・

「本物は小都市の一年分の収益額と同等の額で取引されるほどのものよ?」

「それじゃあ、その絵は本物?」

「ではなく、精密に描かれた偽物よ?」

 ロニアはニコニコ笑いながら言い出した。


「贋作を使って商売をするのなら、このレベルを用意しなさいと私は言いたいのよ。わかる?」

 絵画については素人丸出しのシハヌークだけれど、ティールギャラリーで展示されている贋作とロニアが持って来た贋作が、月とスッポンほどにかけ離れたものであるということは理解出来る。


「うちから無理やり強奪してでも持ち出して来いと言っているみたいだから、ルオッカ男爵の名にかけて!それなりのものを用意したのよ!」 

 それがたとえ贋作だとしても、素人目で見てもロニアが用意した絵画は素晴らしいものなのだ。


「帝国から本物を輸入するのは、やっぱり物凄く難しいんですよね?」

 絵画については全くの素人であるシハヌークは、目の前でふんぞりかえるようにして胸を張っているロニアに問いかけた。


「だって、ラハティで有名なルオッカ男爵でさえ、贋作を利用しているということですもんね?」

「あのねえ・・」

 ロニアは大きなため息を吐き出した。

「我が家は贋作なんて取り扱わないけれど、そんな我が家にも贋作というものは流れ込んでくるのよ。今流行の絵画を帝国由来とみんなが言っているけれど、そもそも200年ほど前に大陸の中央で枢機卿たちが多額の資金を投じて宗教画を描かせたものが始まりなのよ。帝国で蒐集家が好んで購入しているのが中央国家で花開いた神秘主義的絵画であり、その数が希少なのは言うまでもないわよね?」


 文芸復興の流行を作り出したのはイブリナ帝国であり、才能ある画家のパトロンとなって歴史に残る作品を作り出すことに力を入れている貴族もいれば、大陸中央の名画を手に入れようと躍起になっている貴族もいるというわけで、

「一流の作品を手に入れるのは非常に難しいのは言うまでもないからこそ、贋作が横行しているの。わかる?」

 と、ロニアは言い出した。


「手に入れるのは非常に難しいから、ご令嬢は贋作を持って来たということですかね?」

「贋作は贋作でも、一流の贋作よ?」

『神に祈る手』は使用人によって偽物に入れ替えられているのにも気付かずに、何年にもわたってラハティの王宮の壁を彩っていたものなのだ。

「これほど素晴らしい作品なのだもの、オムクス人に本物か偽物かだなんて分かるわけがないじゃない?」


 ラハティ貴族には分かるわけもないと決めつけて、今まで贋作を売り捌いてきたシハヌークはその場で頭を抱えてしまったのだった。

「オムクス人には分かるわけがない。だけどこれが偽物だとバレてしまったらどうするんですか?」

「絵画に関しては一流と言われるルオッカ男爵も騙されたもの、とでも言えば良いのではないかしら?そもそもなのだけれど、貴方さえこれが偽物なのだと言わなければ、誰だって本物だと信じ込むわよ〜!」

「信じ込むわよ〜と言われましても!『聖なる大地』は帝国の富豪が購入したということは誰もが知っている話ですし!」

「こっちが実は本物だって言えば、よだれを垂らして喜ぶわよ!」


 シハヌークはエギルに対して、オムクスの貴族が喜ぶような作品を用意しろと無茶振りをするようなことを行った。何故、そんなことをしたのかといえば、ラハティ王国が裏で糸を引いてエギルを操っているかどうかを確認するためであり、画家のエギルの周囲には監視の目をつけているような状態だったのだ。


 エギル・コウマルクルのパトロンがルオッカ男爵だというのは有名な話であるし、ここでエギルを使ってルオッカ男爵が所有している絵画を盗み出させることが出来れば、面白いことになるだろうと上司のグスタフ・レミングが言っていたのだが、

「まさか・・オムクスに贋作を送り込む話になるなんて!」

 シハヌークは、ミイラ取りがミイラになったような気分に陥ってしまったのだ。


殺人事件も頻発するサスペンスとなります。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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