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閑話  ロニアの冒険譚 ㉜

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ラウタヴァーラ公爵邸の結婚披露パーティーには内通者を何人も潜り込ませているのだが、彼らから送られてくる報告を受け取ったティール・シハヌークは、

「公爵邸の周りの警備網は厚いまま、軍部は王命によって決まった結婚を無事に終わらせることだけに終始しているということか」

 一人、ほくそ笑みながら、手にした紙片を蝋燭の炎で燃やしたのだった。


 現在、画廊のオーナーであるティール・シハヌークの父親は、イブリナ帝国の地方都市にある銀行を経営しているのだが、一時期、財政難に陥った際にオムクス人の富豪から支援を受けるようになり、以降、帝国とオムクスを結ぶパイプ役のようなものを担っている。


 妻として娶ったのは富豪の娘であるオムクス人であり、ティールは帝国人である父とオムクス人の母から生まれたのだった。十歳の時にオムクスへ渡って特殊な訓練を受けることになり、以降は帝国とオムクスを行き来しながら父が経営する銀行業務を手伝っている。


 そんなティールがたまたまオムクスを訪れた際に、

「ティール、君にはラハティ王国の首都で画廊を経営して欲しい」

 と、上司から言われた時にはしばらく言葉が出なかった。


「が・・画廊ですか?」

「そうだ、帝国では最近、絵画への投資が盛んなのだろう?」

「はあ、まあ、確かに高値で取引される美術品が多い関係で、先行投資をする人間は増えているような状態ですが」

「そうであるのならば、帝国人である君は絵画への造詣も深いだろう?」

「いいや〜」


 父が銀行を経営していることから、預かった資金を有力な投資先に投じて何倍にも膨らませるのがティールの役割でもあるのだが、

「絵画はちょっと〜」

 どんな絵を見ても同じに見えてしまうティールに絵画を扱う才能はゼロだと言っても良いだろう。


「帝国人である君が売れば、それだけでそれなりの品に見えるから」

「買収を仕掛けた画廊が複数の倉庫を所有していてね、その倉庫のうちの一つを我らのアジトにしておきたいんだ」

「だからこそ、帝国人である君に表の顔を引き受けて欲しい」


 帝国人である自分が帝国由来の絵画を売れば、馬鹿なラハティ貴族は我先にと飛びつくだろうと上司は言う。確かに、絵画に不案内な人間ほど簡単に飛びついて来たのだが、

「帝国で適当に買いつけて持って来た絵画も底をつきそうだ・・さて、どうしたものか・・」

 と、頭を悩ませていたところ、

「ラハティ人の画家に贋作を作らせれば良いんじゃないのかしら?」

 と、言い出したのが踊り子のサファイアだったのだ。


 貴族たちの情報を得るためにと画家の懐に入り込んだサファイアは、

「あの人だったら私にぞっこんだから、何でも言うことを聞いてくれるもの」

 と言って、セヴェリ・ペルトマという画家を紹介してくれたのだ。


有力貴族の家に出入りをする有名な画家だとは聞いていたのだが、セヴェリは肖像画専門だったのだ。これは上司から雷を落とされることになると覚悟を決めていたところで、セヴェリの友人であるエギル・コウマウクルが、

「贋作を作るというのなら、セヴェリに任せるよりも私に任せた方が良いでしょう」

 と、言い出したのだ。渡りに船とはこのことで、今日か明日にでも画廊を閉めてしまおうかと考えていたティールはホッと安堵のため息を吐き出すことになったのだ。


 北の民族出身であるエギルという画家は、ラハティ王家に対して並々ならぬ恨みがあるようであり、

「王国に仇なすことが出来るのなら、何でもやりたいと思っています」

 と言って、盗賊のような顔に不気味な笑みを浮かべるほどの恨みや怒りを抱えているようなのだが、

「信用が出来ないな」

 と、直属の上司であるグスタフ・レミングは言うのだった。

「北の民族は、我らオムクスに対して並々ならぬ警戒心を持っているだろう?」

 ラハティの王都に住む北の民族たちが、互いに連絡を取り合いながら王都に住むオムクス人に対して異様なまでの警戒感を抱いているというのは有名な話だ。


「そんな北の民族出身の男が、我らに協力をしたいだって?」

「ですがグスタフさん、例の画家は両親が出稼ぎ組で、早い段階から王都に移住をして来たって言うんです。十年前の騒動についても気にしている様子はないんです」


 今から十年前、オムクスはラハティの北端に住み暮らす部族を誘導して武装蜂起を起こそうと企んだのだが、部族によるクーデターは頓挫することになったのだ。


「ラハティ人の北の部族による差別意識に悩まされていたところに来ての、最近のラハティ王国軍の行いに心底うんざりしていると言うんです。帝国に何度も行き来していることから知識も豊富ですし、我が国の利益になると思うのですが?」


 疑い深いグスタフは、何日も画家の監視を続けた後に、

「幹部に会わせてやっても良いだろう」

 と、言い出した。

「その代わり、ラウタヴァーラ公爵の結婚式と同日に顔合わせを決行することにしよう」

「えーっと、なんで結婚式と同じ日にするんですか?」


 現在、画廊のオーナーを任されているティールが公爵家の結婚式に呼ばれることはないし、画家のエギルだって招待されることはないだろう。

「お前は相変わらずの馬鹿だなあ」

 グスタフ・レミングは心底うんざりとした様子で言い出した。

「北の民族出身の画家がラハティ王家の手の者だったら、王国軍は必ず、顔合わせの場に襲撃を仕掛けてくるだろう」

「襲撃されたら困ります」

「だからこそ、結婚式の日に合わせるんだ。結婚式当日は軍部も動きが鈍くなるだろうし、敵の動きが読みやすくなるだろう?」


 ラハティ王家は自分の国に潜り込んだオムクスのスパイを早急に摘発したいと考えている。王太子直々にこの任務を任されているのがオリヴェル・ラウタヴァーラ、この度、カステヘルミ嬢と結婚をする公爵家の次男だ。


「当日の朝には画家のところに使いをやって、オムクスの貴族が涎を垂らして喜びそうな絵画を二十点用意しろと命じろ。そして正午を過ぎたあたりで、絵画は夕方までに用意しろと追加で指示を出すんだ」


 疑い深いグスタフは相次ぐ形で指示を出し、画家の身辺の監視を決して怠るようなことはしなかった。今のところ王国軍に目立った動きはなく、披露宴パーティーへの参加を見合わせることにしたアドルフ王太子は王宮の中へと引っ込んでしまった。


 披露宴会場では爆発物が発見されたことから警備が増強されることになり、邸宅の外は物々しい様相を呈している。

「あの盗賊みたいな画家は純粋に、ラハティ王家に恨みを抱いているのだろう」

 ティール・シハヌークとしてはそうだと信じたいところがある。

 だからこそ、このまま何事もなく顔合わせを済ませて、画廊の仕事はエギルにバトンタッチしたいとまで考えているのだが、


「シハヌーク様、エギル・コウマウクル様がルオッカ男爵令嬢と共にいらっしゃいました」

 扉の向こうから声をかけられたティールは慌てて立ち上がったために、机の角に自分の足を強かに打ち付けてしまった。


「絵画は?絵画は用意出来たのか?」

 痛む足を引き摺りながら扉を開けると、ティールの部下は少し驚いた様子で言い出した。

「ええ、絵画は結局十五点しか用意出来なかったということですが、そのうちの五点ほどは帝国で購入した作品だとのことです」

「そうか・・十五点か・・」

 グスタフからこの短期間で二十点を用意したら怪しいと思えと言われていたティールは、

「そうか、十五点だったのか・・」

 思わず安堵のため息を吐き出したのだった。



殺人事件も頻発するサスペンスとなり、最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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