閑話 ロニアの冒険譚 ㉚
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敵国オムクスは常に我が国を転覆させようと企んでいる。敵は我が国が国家をあげて進めている鉄道事業を阻止したいと考えているのは間違いない事実であり、女を使って軍部に揺さぶりをかけるなど、やりたい放題と言っても良いような状況だと言えるだろう。
捜査、捜査で夜も眠れないという中で結婚、何故、今なんだ?
事情を話して延期すれば良いではないか?式の終わりに軍部の代表として祝辞を上げる予定だったリンデレフ大佐が殺されたんだぞ?だったらこんな結婚式!中止にしてしまえ!披露宴は中止にしろ!と、オリヴェルは考えていたのだが、周りの考えは違うらしい。
結婚を披露するパーティーは開催する予定のまま、新郎は花嫁と共に馬車で移動することになったのだが、
「エリアソン中尉、何故、ユリアナ嬢の身柄を拘束しないのですか?もしかしたら、彼女こそ敵国のスパイなのかもしれませんよ?」
という、聞き捨てならない言葉が祭殿の柱の影から聞こえて来たのだった。
「ミカエルくん、君だって公爵家の特殊な事情は十分に理解しているでしょう?」
ヨアキム・エリアソンはうんざりとした様子で言い出した。
「大佐が殺される前に、ピンクブロンドのストレートヘアの女性と何かを深刻そうに話しているようだったという証言が複数取れているのは分かる。今日の結婚式に参列しているレディのなかでピンクのストレートヘアが公爵家の養い子であるユリアナ嬢だけだということも理解している。先ほど、肝心のユリアナ嬢に大佐と何を話したのか尋ねてみたが『道を尋ねられたの〜』の一点張りだったんだから、これ以上、令嬢を追求することは難しい」
「ユリアナ嬢は公爵家の養子になったというわけじゃないんですよね?」
「戸籍上はな、だけど公爵家の人間に溺愛されているのは有名な話じゃないか」
「中尉、ユリアナがどうしたんですか?」
二人の会話は聞き捨てに出来るようなものでは決してなかった為、柱の影に隠れた二人の元に足を進めていくと、部下のベンジャミンが、
「オリヴェル様、花嫁を待たせることになりますよ?」
と、言い出した。これから花嫁と花婿は同じ馬車に乗って公爵邸まで移動することが決まっているのだ。
「待たせることになっても仕方がないだろう?」
オリヴェルはキッパリはっきり言い出した。
「だから俺があれほど、この結婚は延期にした方が良いと言ったのに」
「ラウタヴァーラ中尉!」
ヨアキムはうんざりとした様子でため息を吐き出した。
「妹扱いで公爵邸にのさばっている御令嬢だけど、キッパリはっきり言うと、敵国に狙われているんだよ」
「敵国に狙われているですって?」
「そりゃそうだよ。だって彼女、あまりにも迂闊すぎるところがあるでしょう」
「確かに御令嬢は、若い男に目がないですね」
部下のベンジャミンがしれっとした顔で言うと、ヨアキム・エリアソンは胸を張って言い出した。
「だからこそ!ユリアナ嬢にはミカエルくんを張り付けようと考えているのだよ!うちの一番のイケメンだからね!ミカエルくんだったら簡単にユリアナ嬢の心を掴むだろう!」
「ヨアキムさん、自分にはリューディアというきちんとした婚約者が居るのですが?」
「リューディアは大丈夫だから!」
ヨアキムはミカエルの背中をバシバシ叩きながら言い出した。
「うちのかわいい姪っ子ちゃんは生まれながらの軍属出身の子爵家の人間だよ?幼い時から俺が手塩にかけて育てているんだから、君の任務については十分に理解しているよ!」
情報部に勤めるミカエルはヨアキムの姪っ子リューディアの婚約者なのだが、情報部で一流と認められなければ結婚にまでは進められないと言われている。そのため、普段は至って生真面目そのものなのだが、任務となれば甘々のハチミツのような男に変身するミカエルなのだ。
「我が国の鉄道事業を頓挫させたいと考えるオムクスは、鉄道の終着駅を勝ち取ったラウタヴァーラ公爵家に目を付けているのは間違いない。そのラウタヴァーラ公爵家を崩すことを考えた場合、まずは俺だったら公爵家の養い子であるユリアナ嬢に目をつけるだろう」
ヨアキムの言葉を引き継ぐような形で、ミカエルが言い出した。
「大佐の殺害現場の周辺を調査していたところ、大佐は殺される前にユリアナ嬢と接触をしていたのです。それが令嬢の言う通り、たまたま偶然顔を合わせただけなのか、それとも故意によるものなのか分かりませんが、今は御令嬢から目を離さない方が良いでしょう」
「そうであれば、ユリアナの身柄を拘束して調書を取る形にして」
「公爵家が許すはずが無いだろう?」
「御令嬢が殺したという証拠があれば別ですけどね?」
今回、ハニートラップにひっかかる形で情報を引き渡した軍人は数多く、懲罰を与えるのは必須と言い続けていたのが叩き上げの軍人であるリンデレフ大佐だったのだ。その大佐が殺された。しかも大佐は殺される前に、ユリアナと接触をしていたというのだ。
「御令嬢が大佐を殺したとは思わない。ただし、今のこの状況でユリアナ嬢を放置するのは得策ではないとこちらは考えている」
「それでミカエル・グドナソン少尉をつけるということですか?」
「そうだ」
熊のような顔のヨアキムは歯を剥き出しにして、威嚇するように瞳を細めながら言い出した。
「もしかしたら披露宴会場で、敵がユリアナ嬢に接触する可能性もあるからな。何度も言うが、終着駅を勝ち取ったラウタヴァーラ公爵家を潰せるのなら、敵国はお前の結婚だって利用するだろうし、男にだらしないお前のところの令嬢も利用するだろう」
ヨアキムは肩をすくめながら言い出した。
「披露宴パーティーでユリアナ嬢が敵国と通じていたなんてことが堂々と発表されることにでもなったらどうする?そういうことだって十分にあり得ると俺は言っているんだよ!」
そうなったら公爵家のメンツは丸潰れ。
港まで進めるために建設を急いでいた鉄道工事も頓挫することになるだろう。
「そう・・であれば、俺もパーティーではユリアナを注視しておきましょう」
オリヴェルは苦虫を噛んだような表情を浮かべながら言い出した。
「監視の目は多いに越したことはないでしょう」
「ですが、本当に監視する程度で大丈夫なんですか?」
部下であるベンジャミンは心底心配そうに言い出したのだが、
「流石はラウタヴァーラ中尉!」
ヨアキムがベンジャミンの言葉にかぶせるように言い出した。
「無事に披露宴パーティーが終われば、王命で決められた結婚を公爵家は遂行したことになるんだ!パーティーが終わるのは夕方だからそれまで互いに頑張ろう!」
「確かに!王命で決められた披露宴なのですから!不測の事態に陥らないように気をつけます!」
そう宣言をしたオリヴェルは、パーティーの最中は、敵国のスパイがユリアナに接触することがないか、敵国の間諜によってパーティーが壊されることがないかと視線を走らせ続けることになったため、花嫁であるカステヘルミのことは完全にそっちのけの状態に陥ることになったのだ。
そんなオリヴェルの姿を見ていた招待客たちは、
「この結婚は絶対にうまくいかないな」
と、皆んなが一様に思ったのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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