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閑話  ロニアの冒険譚 ㉘

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 帝国を発端とした芸術の革新運動が波及して来るまで、ラハティ王国の貴族が邸宅に飾る絵といえば宗教画か、風景画程度のものであり、時には家族の絵を飾るような貴族も中には居たが、肖像画というよりも日常の風景を描きだしているようなもの、家族への愛情から飾っているようなものだった。


 他国との交流も多いラハティ王国でこのような状況なのだから、隣国オムクスだって同じようなものだっただろう。ただし、帝国の流行が大陸全土にまで広がっている今の状況では、敵国オムクスでも絵画の購入に必死になる貴族も増えているのだろう。


「エギル、貴方は今から自分のアトリエに戻って、出来損ないの作品を見繕って用意しておきなさい」

 ロニアは背中にまで届く髪を髪紐で一つに括りながら言い出した。

「今までの相手の反応から見るに、オムクス側には絵画に精通した人間は居ないと思うの。だからこそ、用意する絵画二十点のうちの半分はエギルが製作した駄作を用意しましょう」


「ええ〜っと、本当にそんなものを用意して大丈夫なんですかね?」

 見た目は盗賊、ハートは子うさぎ状態のエギルが自分の両手を揉みながら問いかけると、

「だってあなた!帝国民相手に売りつけようとして失敗した派手なだけの駄作がかなりの数残っているじゃない!」

 ロニアは容赦無くエギルの子うさぎハートを削り取るようなことを言い出した。


 北の民族に伝わる伝承、神話を作品にしているエギルは、帝国の皇帝に気に入られる為に、一時期はやたらと派手な作品を制作していたのだが、小手先だけの派手な作品に帝国の皇帝はおろか下っ端貴族ですら興味を持つことはなかった。


 帝国で求められるのは精密で緻密な計算であり、そこにエギルのご先祖さまだと言われているグアラテム王の伝説を匂わせなければ意味がなかった。

 だからこそ帝国ではゴミ屑同然の絵をエギルは大量に抱えているのだが、これを敵国オムクスに譲り渡すとして、どうやって説明を加えれば良いのか?実はエギル、小心ゆえに、自分の作品を売り込もうとした途端に口下手になってしまうのだ。


 幼馴染のオルヴォは、敵のスパイが突如として絵画を二十点を用意しろと命じてきたことに対して、敵の思惑がどういったものであるのかばかりを気にしていたけれど、画廊経営に関わり続けてきたロニアとしては、

「どういった絵画を敵のスパイに売りつけてやろうかしら?」

 ということで、頭の中がクルクル回り続けているような状態だった。


 自分の家で経営している画廊に戻ったロニアが、あの絵画が良いか、いやいやこっちの絵画が良いかと悩んでいたところ、上司への報告から戻って来たオルヴォが真っ青な顔で言い出した。

「絵画の損害費用については王家が保証すると言っている!」

「それはラッキー!」

 王家が金額の保証をしてくれるのなら、選ぶ絵画の範囲が広がるではないか!ロニアがウキウキ顔となって振り返ると、オルヴォの顔が青から白に変色をしている。


「まあ!オルヴォ!一体どうしちゃったのよ!」

「ああ・・ロニア・・ロニア・・」


 自分の頭を抱えるオルヴォをロニアが椅子に座らせると、オルヴォは頭を抱えて俯きながら、絞り出すような声で言い出したのだった。

「結婚式が大変なことになってしまったんだ!」

「え?結婚式?」

 本日、行われる結婚式といえば、

「まさか!カステヘルミ様の結婚式のことを言っているの?」

 今回、画家のエギルを精神的にサポートするため、カステヘルミの結婚式への参加を見送ることにしたロニアだったのだが、その参加を見送った結婚式で何かの問題が起こったようなのだ。


「一体何があったの?カステヘルミ様は無事なのよね?」

「花嫁や結婚式に招待された家族、親族、招待客に支障はない」

「それじゃあ!一体何があったのよ!」

「結婚式の会場で、リンデレフ大佐が殺されたんだ!」

「ええ!まさか!痴情のもつれって奴なの?」


 王国と帝国を行き来しているカステヘルミには帝国の第五皇子(十二歳)から結婚を迫られた以外の浮いた話はなかったはずなのだが・・まさか・・花婿が大佐と恋人関係にあったとか・・秘めた二人の恋のその先に・・殺人事件が勃発してしまったということなのか?


「ロニア、とにかく今、お前が考えていることは見当違いだということは間違いない」

「大佐と中尉の秘密の恋は関係ないの?」

「違うと思う!」


 違うだろう、多分違う、軍部では女性ではなく男性を愛する人も多いと話には聞いたことがあるけれど、多分違う。多分違うとは思うけれど・・


「そうじゃなくて!現場の指揮をする予定のミカエル・グドナソン少尉が結婚式の披露宴パーティに参加することになってしまったんだ!」


 思考が迷走するのを中断するように、オルヴォは自分の腿を拳で叩きながら言い出した。

「ヨアキム・エリアソン中尉の姪っ子殿が危ないかもしれないということで!婚約者である少尉が公爵家の披露宴パーティーに潜入することになってしまったんだ!」


 ロニアには少尉とか中尉とか、中尉の姪っ子などと言われても、誰が誰だか分からないのだが、

「仕方がないから少尉が戻って来るまで現場の指揮はお前に任せるとか言われちゃって!そんなの困る!困る!困る!」

 どうやらオルヴォは上司からめちゃ振りをされたのだろう。


「でもオルヴォ、公爵家の披露宴パーティーは夕刻には終わることになるし、エギルがオムクスのスパイの幹部と顔を合わせるのは夜も遅くなってからでしょう?」

 帝国やその周辺諸国ではお金持ちほど結婚式は夜に行うものなのだが、ラハティ王国ではお金持ちほど昼間に式を挙げるし、披露宴パーティーも日がのぼっている間に行うのだ。


「今の時点で現場の指揮をオルヴォが任されたけれど、夜はまだまだ先なのだから、その間にやることって、持って行く絵画を選ぶくらいのものじゃないの?」

「そうじゃない!そうじゃないんだよ!」

 俯いたオルヴォが椅子に座りながら自分の髪の毛を掻き回していると、

「あの〜、お嬢様〜」

 と、画廊の従業員でもある年寄りのカレヴィが声をかけてきたのだった。

「お客様がいらっしゃっています」


「「お客様?」」

 オムクスのスパイの元まで持っていく絵画を選ばなければならないということで、画廊は閉めていたのだが、

「はあ・・ここまで来るのに乗合馬車を二つも三つも乗り換えて大変だったわ」

 薄桃色のショールを羽織ったシグリーズルばあさんがカレヴィの後ろから現れると、

「エギルからの伝言なんだがの、日が暮れる前に絵画を取りに来るから用意しておくようにとあちらさんから言われることになったそうなのだわ」

 と、言い出した。


「「え?夕刻?」」

 ロニアとオルヴォは互いに顔と顔を見合わせると、

「「本当に夕刻?」」

 と、シグリーズルに向かって唾を飛ばす勢いで問いかけたのだった。


殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

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