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閑話  ロニアの冒険譚 ㉖

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「怖いです! 本当に怖いんです!」

 盗賊にしか見えない容姿をしている北の民族出身の宗教画家、エギル・コウマウクルがロニアのスカートに縋り付きながら言い出した。


「最初にお嬢様は、セヴェリの付き添い程度だから大丈夫! 大丈夫! と、仰っておりましたけど、結局、自分が前面に立って話を進めることになってしまったじゃないですか! 話が違いますよ!」

「うーん」


「確かにお嬢様のおかげで! 私は皇帝陛下に気に入られることになり! 帝国の画壇に受け入れられることになりましたが! ですがそれとこれとは話が違います!」

「うーん」


「当日、私は体調を崩しますので、ティールギャラリーにはセヴェリを行かせましょう!」

「うーん」

「そうしましょう! ねえ! だってそもそも! 私は全く関係なかったわけですし!」

「うーん、だけどセヴェリがねえ・・」


 ロニアが振り返ったその先には、すっかり意気消沈をしたセヴェリ・ペルトマがメソメソ泣き続けていたのだった。


 女にだらしがない画家のセヴェリだったのだが、仮初ではない本気の恋をしてしまったのだ。その恋の相手となる踊り子のサファイアは、オペラ座からもさほど離れていない場所にあるアパートから大瓶に詰め込まれた状態で遺体となって発見された。


 冬が長いラハティ王国では収穫した果物を水煮にして瓶詰めにして、床下に収納するようなことを行うのだが、その果物を詰めていた大瓶にサファイアの遺体が遺棄されていたのだ。


 当初、殺されたサファイアの腹違いの姉か、オムクスのスパイが犯行に及んだものと考えていたのだが、

「最近、ピアさんのアパートを間借りしているサファイアさんの恋人は見たことがありますよ。確か、軍人さんでしたよね?」

 という近隣住民からの発言から、捜査が進展することになる。


 フルート奏者であり、帝国まで長期の演奏旅行に出かけていたピア・オリンのアパートは、ピアの従姉妹だという二人の女性が間借りをしていた。

 一人は輝くような金髪のほっそりとした美人であり、もう一人は赤毛の色気たっぷりの女性であり、

「私たちは腹違いの姉妹なんです」

 と本人たちが言っていたものだから、容姿はそれほど似ていなかったとしても大して気にすることもなかったらしい。


 姉のエリーナは近所のメゾンで働いているらしく、服の繕いなどは気軽に引き受けてくれるほど気さくな女性だったのだが、妹のサファイアの方は愛想も悪く、近隣住民との交流はあまりなかったという。


 そんなサファイアが頻回に家に招き入れていたのが、

「間違いなく、王国軍の軍人さんですよ!」

 と、隣に住むマダムは言うのだ。

「そういえばあの軍人さんが来るようになってから、姉のエリーナさんは昼間にしか姿を見せなくなったんですよ。妹のサファイアさんは踊り子をやっているとかで、度々、ファンと思われる人が訪れてはいたんですがね?まさかそのサファイアさんが殺されていたなんて思いもしませんでしたよ!」

 画家のセヴェリ・ペルトマは、何度かピア・オリン所有のアパートを訪れていたのだが、

「あの人はファンの方でしょう?」

 という認識をされていたらしい。


 サファイアを愛したが為にオムクスのスパイから脅迫までされているというのに、肝心のサファイアは他に恋人を作っていた。今まで散々、女性を泣かして来たというのに、自分が浮気される番になって心傷付き、再起不能になってしまったセヴェリは今でもメソメソ泣いている。


 そんなセヴェリに代わってエギル・コウマウクルがティールギャラリーに出入りをするようになったのだ。見かけは盗賊状態のエギルなのだが、

「この怖い顔を利用して今までやって来ましたけれど! これ以上は無理ですよ! 無理!」

 ギャラリーを訪れた初日からエギルはこんなことを言っているのだが、自分の役割はしっかりと果たしているようで、スパイの幹部と顔合わせをするところまで話を進めることができたのだ。


「分かったわ! そのスパイの幹部に会うっていう当日には、私自身が近くで待機しているから、何かあったら私を頼ってくれたら良いのよ!」

 推理小説愛好家のロニアとしては、スパイ、スパイ、スパイ、小説のような文言に心は弾んでくるし、出来たらそのオムクスのスパイとやらを、一目で良いから見てみたいとすら考えている。


「幹部と会うのはいつ頃になりそうなんだっけ?」

「それがですねえ・・」

 言われた日にちに覚えがあると思ったら、今まで世話になったカステヘルミ・カルコスキ嬢の結婚式の日ではないか。


「まあ! その日は結婚式に行こうかどうしようか迷っていたのだけれど!」

 絵画の買い付けのため、北の民族出身の画家エギルを皇帝相手に売り込むため、帝国と王国を行き来していたロニアは、蒸気機関車の開発で王国と帝国を行き来しているカステヘルミとは親交が深い。


「くだらない結婚式だからわざわざ来なくても良いわよ」

 と、カステヘルミ自身から言われていたのだが、

「来なくても良いとあれだけ断言されていたのだし、私は結婚式には行かずにエギルのために近くで待機しておいてあげる!」

 友人の結婚式はあっさりと予定から捨て去ったロニアは、当日、見かけとは反対に小心過ぎるエギルのサポートに立つことになったのだった。


 スパイに会うのは夜とは聞いてはいたものの、その日は朝早くからシグリーズルばあさんの所へ押しかけることにしたロニアなのだが、

「ロニアさん! 大変ですよ!」

 まだ昼前だというのに、真っ青な顔をしたエギルがシグリーズルの家に飛び込んで来たのだ。


「先ほどシハヌークさんの使いの者が私のアパートを訪れたんですけど!あらゆる伝手を使ってでも良いから、オムクスの貴族が飛び付きそうな絵画を二十点、今日中に手に入れて来いって言われたんですよ!」

「えーっと・・」

「私がルオッカ男爵の庇護を受けているというのはあちら側でもすでに知っているようで、ルオッカ男爵のところから絵画を盗んで持って来いみたいなことまで言われたんです!」


 ロニアが無言のまま隣を見ると、朝からロニアに付き添ってシグリーズル女史の家までやって来ていたオルヴォ・マネキンが、

「ちょっと、それは上の人間に聞いてみてから対応しないとまずいかなあ〜」

 と、言い出したのだった。

 


殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

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