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閑話  ロニアの冒険譚 ㉕

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 下町の娼婦が殺された。

 軍人専門と呼ばれるような女性たちが無惨な遺体となって発見されることになり、そのうち、遺体の一部が抜き取られるようなことまで起こるようになったのだった。

 抜き取られたのは左右の腎臓であり、十年前に起こった北方民族による武力蜂起の記憶を呼び起こすような事態が持ち上がることになったのだ。


「娼婦の殺害を行っているのは王都に在住する北方民族ではないかという噂の出元を探ってみんだが・・」

 情報部に所属するヨアキム・エリアソンはうんざりとした様子で言い出した。

「軍部に所属する人間がわざと漏らしているのは間違いない」

「やっぱりそうか」

 事態の収拾を図るようにとアドルフ殿下から命じられることになったオリヴェル・ラウタヴァーラはしょぼつく自分の目を押さえながら言い出した。

「やっぱりそうだと思ったんだ」


 敵国オムクスはいつだってラハティ王国の転覆を図っているのだが、最近、彼らは可愛らしい女性を囲い込み、軍部から情報を引き抜くための餌として利用しているようなのだ。


 敵国が用意した餌に食いついてしまった軍人は上の階級から下の階級までかなりの数に登るのだが、これを隠蔽しようと動き出している人間が軍部の中に居るようなのだ。自分の出世の妨げとなるものは排除してしまおうと考えているようだし、

「問題は、娼婦を殺して歩いているのがオムクスのスパイだけでなく、自分の瑕疵が明るみにならないようにするためにと、一部の軍人が関与しているかもしれないということだ」

 軍部に所属する人間が殺人を犯しているのかもしれない。


 挙げ句の果てには『北の民族』の所為にして有耶無耶にしてしまおうと考える人間が身内に居るかもしれないという状況で、

「家にちっとも帰れていない」

 この事件の総指揮を任されたオリヴェルは真っ黒な隈を浮き上がらせながら、

「もうすぐ結婚だというのに、花嫁に挨拶一つ出来ていない」

 という、非常に深刻な事態に陥っているのだった。


「結婚式は延期には出来ないんだよな?」

 熊のような髭面の容姿のヨアキムから問いかけられたオリヴェルは言い出した。

「出来ることなら結婚式を延期したい、だけど、周りが絶対にそれを許さないんだ」

 ラハティ王国は隣国ルーレオからラウタヴァーラの港へ鉄道を通す予定でいる。鉄道の分岐となる領地を所有するカルコスキ伯爵家の娘とラウタヴァーラ公爵家の次男であるオリヴェルの結婚は王命によって決定することになったのだ。


 カルコスキ家の令嬢カステヘルミの結婚は、王家も様々な思惑を持って決めたのだが、カステヘルミの夫となるオリヴェルは、自分の結婚式が数日後に迫っているというのに未だに顔を見に行けていないような状態なのだ。


「結婚式については母上やユリアナが全て自分たちに任せて問題ない、披露宴についても公爵家として決して恥にはならないものを用意しているのだから任せておけと言うのだが、エリアソン中尉、結婚式とは花婿がこれほどノータッチの状態で進めても良いものなのだろうか?」


 決して良いものではないだろう。

 軍部に所属するオリヴェルが花嫁となるカステヘルミと今まで接点が全くないということをヨアキムは知っているし、ラウタヴァーラ公爵家の女たちが巷の噂通り碌でもない女たちだということを情報部に所属するヨアキムは知っている。


 公爵夫人や夫人の養い子であるユリアナ嬢には良い噂がないのだが、ラウタヴァーラ公爵家の男たちが夫人や養い子を溺愛しているのは有名な話しなのだ。そもそも、他人の家の嫁姑問題に一切、関わりたいとは思わないヨアキムは、

「大丈夫、大丈夫。公爵夫人が大丈夫だというのだから、大丈夫だということになるのだろう!」

 と、適当なことを言い出した。


「実は今日、お前の結婚式の日にちをずらせるかどうかを確認したくて来たんだが、やはり公爵家の結婚式となると難しいよな」

「難しいんだろうな!」

「実はな、ミカエルの手持ちの駒が面白い情報を手に入れて来たんだが・・」


 現在、オムクスのスパイは多方面に侵入を果たしているような状態のため、スパイ探しにオリヴェルは奔走しているような状態なのだが、情報部は情報部で、独自に捜査を進めているところがある。

「前にもイースト地区にあるティールギャラリーという画廊の話をしたとは思うんだが、そのギャラリーのオーナー、ティール・シハヌークという奴なんだが、こちらが差し向けた画家に自分の仲間を紹介すると言い出しているらしい」

 オリヴェルも北の民族出身の画家、エギル・コウマクルの話を事前に聞いてはいたのだが、

「その紹介すると言い出した日にちが、どうやら、ラウタヴァーラ中尉の結婚式当日となりそうなんだ」

 その言葉を聞いて、オリヴェルの胃が激しく痛み出してきた。


「確か画廊のオーナーはオムクスのスパイだったんだよな?」

「資金源にするために贋作を我が国の貴族たちに売り捌いて、現在、大金を荒稼ぎしているような状態だよ」

「それで、その泳がせていたスパイが幹部と接触するということなのか?」

「恐らくそうだ」

「俺の結婚式の日に?」

「そうだ」


 オリヴェルの胃は、もはや悶絶するほど痛み出す。

「結婚式はやっぱり延期にして・・」

「公爵家の結婚式だろう?無理だろう!」

「だがしかし、そんな大事な日に結婚式だって?」

「大丈夫! 大丈夫!」


 熊のような容姿の男、ヨアキム・エリアソンは胸を張って言い出した。

「動き出すのは日も暮れきった夜になってからだろうし、ラウタヴァーラ中尉が率先して表に出てまで働くこともないのだから、結婚式の支障にはならないだろう」

「それは、本当のことですか?」

「大丈夫、大丈夫」


 実際の現場は流動的なものなので、当日、どうなることかなんてヨアキムにも分からないのだが、

「俺の姪っ子リューディアちゃんの親友でもあるカステヘルミ嬢の結婚式だよ? 捜査のために邪魔をするような野暮なことをするわけがない!」

 と、ヨアキムは豪語した。


「うちの姪っ子ちゃんなんだけど、君のとこの結婚式にブライズメイド(花嫁の付き添い人)として参加するって言うんだよね? 公爵家の人間が万が一にもうちのリューディアちゃんに意地悪しないように見守ってくれると助かるな!」

「うちの人間が中尉の姪っ子殿に意地悪をするわけがないですよ!」

 オリヴェルは憤慨した様子で声を荒げたのだが、意味ありげな眼差しでオリヴェルを見つめたヨアキムは、

「そうとも言えないんだよね〜」

 と、口の中でつぶやいた。


 王命で決定した結婚式で何か問題となるような行動に出るような人間はまず居ないだろうと思うのだが、公爵夫人も、その夫人の養い子も、ヨアキムの理解の範疇を超えるところがあるため、

「そうは言っても! 世の中!何があるか分からないでしょう!」

 だからこそ姪っ子をよろしくと最後まで言いながら、ヨアキム・エリアソン中尉は帰って行ったのだった。



殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!

モチベーションの維持にも繋がります。

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令和7年6/2 (月)より『貴婦人たちの噂話は今日も楽しい』アース・スターより出版します!!

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番外編『夫婦としての二人の関係』では結婚後なんやかんやあった後の二人の最終着地点を描いており、結婚後のなんやかんやの部分は

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追加で楽しめるようになっておりますので是非とも初版本を買って頂きたいです!!『貴婦人たちの噂話は今日も楽しい』 6/2 に発売しますのでお手に取って頂けたら幸いですm(_ _)m
““6/2に発売です!!”"
― 新着の感想 ―
わくわくが止まらない展開です! 更新を毎回楽しみにしています!! ぜひぜひ無責任おじさんヨキアムさんが徹底的に痛い目にあって、意中の相手を横からかっさらわれますように!!
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