閑話 ロニアの冒険譚 ㉔
ようやっと復帰しました! 間が空いてしまいましたが懲りずにお付き合い頂ければ幸いです!!
今現在、世界の流行の発信地と言っても過言ではないのが大陸の南方に位置するイブリナ帝国であり、各国は帝国が発信する流行について行こうと必死になっているところがある。大陸の北方に位置するラハティ王国は、独自の路線で皇帝相手にアピールし続けているところがあった。
ただし、王国と帝国はあまりにも距離が遠かった。だからこそ輸入量にも制限がされることになるため、帝国が作る乗用車や美術品に関してはラハティの王家が一括して管理しているし、そのことに貴族たちが不満を感じないように、別の流行を王家が主導となって発信しているところでもある。
現在、多くの貴族が帝国の美術品を求めているわけだが、高位身分の貴族ですら満足に手に入れることが出来ない。そのような状態だからこそ、王家は、帝国貴族が家族の肖像画を描かせるという文化的習慣をラハティ王国に取り入れることにしたのだった。
肖像画であれば自国の画家だけでこと足りるし、製作に時間がかかることになるから帝国の美術品から目を逸す時間稼ぎにもなるだろう。こうして領地の風景画か宗教画ばかりを飾っていた王国の貴族たちは、自分たちの肖像画を描かせることに夢中になっていったのだが、そんな中、オーナーが帝国の銀行家だという画廊が密かに話題に上がるようになっていた。
「シハヌークさんが揃えた画家はあまりにも質が悪すぎますよ」
北方民族出身である画家のエギル・コウマクルは帝国の銀行家、ティール・シハヌークに向かって大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「こんな作品を帝国の画家の作品だと売りつけるのは無理があります、画風が完全に違いますからね」
帝国と王国を行き来しているエギルが嘆くように言うと、画廊のオーナーであるシハヌークは悪びれる様子もなく言うのだった。
「ラハティ王国の貴族がこの程度の絵画でも大金を払うと言うのだから、我々がとやかく言う必要もないだろう。そもそも贋作を売るのは一時的なもので、大金を荒稼ぎしたらこの画廊は潰す予定だから何の問題もないのだよ」
浅黒い肌のティール・シハヌークは帝国人にしか見えない容貌をしているのだが、彼はオムクスのスパイである。
元々、シハヌークは画家として脚光を浴びているセヴェリ・ペルトマに目を付け、彼が作製した絵(贋作)を画廊で売るつもりであったのだが、このセヴェリがあんまりにポンコツ過ぎて使えないことが最近になって判明したのだった。
贋作製作については全く力を発揮出来なかったセヴェリが友人の画家だと言って紹介して来たのが北の民族出身の画家エギルであり、彼は帝国と王国を行き来した経験があるだけに、誰よりも手際良く贋作を作製していったのだった。
踊り子のサファイアを殺したことで作戦に齟齬が生じるかと心配したのだが、女にだらしないセヴェリはあっといまにサファイアのことなんて忘れて他の女に夢中となり、あろうことか新たに夢中になった女優にこっぴどく振られたが為に、現在、酒浸りとなってしまっている。そのセヴェリの代わりにエギルが素晴らしい働きを見せているから問題ないのだが、早晩、画家のセヴェリは殺した方が良いだろう。
褐色の肌のオーナーは女性と見紛うような不思議な美しさを持つ男で、まつ毛も長く、スラリと背が高い男だったため、その容姿を使って貴婦人たちに帝国の作品と偽った贋作を売りつけてはいたのだが、
「どうやったら質の良い贋作が手に入れられるのだろうか?」
という大きな悩みを持っていた。そしてその悩みを解決したのが画家のエギルであり、
「シハヌークさん、僕もそろそろ国を転覆するために大きな仕事をしたいと思っているのですが?」
盗賊のような見た目のエギル・コウマルクルは、暗い瞳となってシハヌークに訴えるのだった。
元々、ラハティ王国がある場所には北の民族と言われる人々が住み暮らしていたのだが、これを北端に追いやって王国を建国したのが今のラハティの王家ということになる。ラハティ王家に北の民族は迫害された歴史があるため、エギルはラハティ人に対して強い怒りと嫌悪感を持っている。
特に最近、下町で起こっている殺人について、王国の軍部の人間が、
「愚かな北の民族が行っている暴挙に違いない!」
と、主張している関係で、北の民族に対する差別意識はより強力なものに変化しているのだった。だからこそ、
「私はラハティ王国を転覆させたいのです、勝手なことを言われ続けるのはうんざりなんですよ」
と、エギルは怒りを押し隠した様子で淡々と言うのだった。
「エギルくんの怒りは良くわかりますとも」
今現在、下町で起こっている殺人の半数ほどはオムクスのスパイによるものなのだが、そんなことは知らないエギルはすっかりラハティ王国軍に対して強い嫌悪を抱くようになってしまっている。
十年前の事件がきっかけで、北の民族はオムクス人に対して強い警戒心を持っているのだが、エギルの場合はオムクス人に対する警戒心よりもラハティ王家への怒りの方が大きいようだ。だからこそ、王家を転覆させられるのなら如何様にも協力をすると言っているし、今後も素晴らしい駒となって働いてくれることだろう。
「そうだね、エギルくんには幹部を紹介しましょうか?」
エギル・コウマクルが贋作を作製するようになって、画廊の絵画は飛ぶように売れている。高額で売買される贋作を作製するエギルについては他のスパイも興味を持っているところではあったのだ。
「近々、倉庫の棚卸しがあるので、その日はエギルくんに手伝って貰いましょうか?」
シハヌークが買い取った画廊が所有する複数の倉庫のうちの一つはオムクスのスパイのアジトになっている。
「今度の木曜日の夜、私のお友達を紹介しますので、エギルくんには予定を空けておいてもらわないとね」
「今度の木曜日ですね」
一瞬、瞳を細めたエギルは言い出した。
「承知いたしました、それでは木曜日に直接、アジトに向かう方が良いですか?」
「アジトなんて言い方はやめてくれよ」
シハヌークはコロコロと笑う。
「棚卸しをする予定の倉庫は当日、私自らが案内してやろう」
「楽しみです」
盗賊のような顔のエギルは細くて小さな目を糸のように細めるとより残忍な顔になるのだが、
「本当の本当に、楽しみです」
そう言ってエギルは何とも言えないような笑みを浮かべたのだった。
活動報告にも書いているのですが、とにかく酷い目にあいました。
ようやっと活動再開となりましたが、懲りずに最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!
モチベーションの維持にも繋がります。
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