閑話 ロニアの冒険譚 ㉓
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ロニアは今回の事件に隣国オムクスが絡んでいるという事実を知ってからというもの、
「オムクスは知らぬ間に近くまで近付いてくるものだから気をつけろ」
と、幼馴染のオルヴォに言われていた。
「今回、画廊を拠点としているのなら、ルオッカ男爵やお前自身、そしてお前の家族が狙われることだって十分にあるんだ」
だからこそ、自分の家族への注意喚起は十分に行うようにと言われていたのだが、
「ええ〜!オムクスったら、うちの上司に目を付けていたっていうことですかあ!画廊を開いているって言うから我が家が狙われるかと思ったのに!まさか、まさか、うちの部長が狙われるだなんて!自分の想像もしない方向に展開していくところが、まるで推理小説みたいだわ!」
と、ロニアが思わず興奮の声をあげると、
「やっぱり敵は帝国の絵画を狙っているということでしょうかね・・」
と、驚くほどに長いまつ毛を伏せながらミカエルが言い出した。
「そりゃ新興の画廊に帝国絵画、それも上級を仕入れるのは難しいですもの!」
ロニアは大きく頷きながら答えた。
「現在、帝国を中心として芸術と学術の革新運動が広がっているのですが、帝国で名画と認められた作品を手に入れるのは王侯貴族であっても難しいような状況ですもの。良質な作品というものは周辺諸国に買い漁られているような状況ですから、北の端にあるような我が国が手に入れるためには、鉄の天才と言われるイザベル夫人の伝手でもないと不可能です」
「それは、帝国の銀行家が仲介として絡んでも難しいものなのですかね?」
ミカエルの質問に、ロニアは鼻で笑って答えたのだった。
「確かにイブリナ帝国には富豪として有名な銀行家がいますけど、その方の名前はティラ・シハヌク、シハヌク財団の財務を取り扱っている貴族出身の方になりますわね」
「ティール・シハヌークとティラ・シハヌク・・」
ミカエルが形のよい眉を顰めるので、
「オムクス人はとかく名前を伸ばす傾向にあると聞いたことがあります」
と、ロニアは答えて笑みを浮かべた。
「名前を伸ばして発音した方が聞き心地が良いのか、舌触りが良いのか、そういう傾向にあると聞いたことがあります」
自分の娘がオムクス人のスパイに騙されているという衝撃な話題が置いてけぼりになっていることに気が付いた上司のヤコブ・ヘランデルが挙動不審になっていると、ミカエルがハハハッと笑い声を漏らした。
「ヘランデルさん、美術部はヘランデルさんよりもロニア・ルオッカ嬢が上に立って取りまとめた方が良いのかも知れませんねえ」
と、言い出したので、上司の顔があっという間に真紫色に変色していく。
「いえ、美術部の部長はヘランデル様が良いと思います!」
ロニアの発言に一瞬だけホッとした様子を見せたものの、
「じゃなかったら、私よりもベテランの方がよろしいかと!」
と、ロニアが言い出したので、ヤコブ・ヘランデルの顔が土気色に変色していった。
「とにかく、オムクスとしては帝国からわが国に運ばれて来る予定の絵画を、是非とも盗みたいと考えているのでしょう。ここで人事の移動をするとうっかりオムクスのスパイを招き入れることになるかも知れません!」
挙手したロニアは胸を張って主張をした。
「小説などでもそうではないですか。何でそんな場面で人事を変えるのだ、敵が入り込んでしまったではないかという展開が良くありますでしょう?あえて窮地に陥る展開というものだと思うのですけど、今回の場合はうちの上司を利用して、敵を誘い出すようにした方が有効な手だと思うのですが?」
「ええ〜!僕を利用するだって〜?」
「そうですよ、大事な娘さんを助けたいのなら、父親として身を挺して活躍しないと!」
ロニアはうっとりとしながら言い出した。
「良くある展開では、自分の子供に興味を持たない父親が何の対策もせずに居たせいで、国家に損害を与えた上に、自分の子供も死なせてしまうではないですか?そういう展開を防ぐためにも、ご自身で汗水流して働かないと!」
「令嬢は随分ハードな推理小説を愛読しているようだな」
「ロニアくんが推理小説愛読者だとは知ってはいましたが、ここまでとは知りませんでしたよ」
ミカエルは半ば呆れ返りながらヤコブ・ヘランデルと視線を交わした後に、
「だがしかし、令嬢の言うことにも一理あると言えるでしょう」
と言って不気味な笑みを浮かべたのだった。
「ヘランデルさん、まずは娘さんに対して、貴女が現在交際している相手はオムクス人のスパイなのではないかと告げた上で、その交際相手を娘さんから紹介して貰った上でこう言うのです。オムクスへ亡命したいから手助けしてくれないかとね」
「「ええー〜!」」
ロニアと上司が共に驚きの声をあげると、ミカエルは針のような鋭さを感じる瞳を二人に向けて言い出した。
「理由は、美術部の部長としての給料に不満があるとか、絵画を購入するための費用を捻出するためにどうやら美術部門の給料をカットされそうだとか、現状に不満があるということを説明するのです」
「だったら、他国の流行に追いつくためには質の高い美術の専門家が必要なのだとオムクス側にアピールしても良いかも知れませんね!だってオムクスは、流行から取り残されていることに危機感を抱いているでしょうからね!」
現在、帝国の勢いに引きずられる形で、数多の美術品を取り揃えることに躍起になっている王侯貴族が山のように居る。どうしても中心部から外れた場所にある国は置いてきぼりを喰らってしまうし、後からどう頑張ったところで詐欺に引っ掛かるか、上質の美術品を前に諦めることを繰り返すかのどちらかになるだろう。
「えっと・・僕がオムクスに亡命をすると見せかけたとして、その後、すぐに連行されるなんてことになっては困るんですが・・」
「「そんなことになるわけがありません!」」
二人で同時に同じことを言い出したため、ロニアとミカエルは二人で咳払いを繰り返すと、レディファーストなのか、ミカエルが先を譲ってきた。
「部長、敵が欲しいのは帝国から運ばれて来る美術品ですから、その美術品を盗むまでは部長を拉致してオムクスまで連れて行くなんてことはしませんよ」
「ぼ・・僕の安全は保証されるんですよね?」
「たぶん?」
ミカエルは意地悪そうに言った後、
「貴方の娘さんがこれ以上、変な男に引っかからない限りは、身の安全を保証いたしますよ!」
と、笑いながら言い出したのだが、そんなミカエルを美術部部長ヤコブ・ヘランデルはじっとりとした疑いの眼差しで見つめたのだった。
私事ではあるのですが、近々引越しをしなければならない状態で、それは酷い風邪をひきまして、全身の関節痛、頭痛、咳、喉が痛くて痛くて・・辛い!!と寝込んでしまい、更新もままならず、引越し準備もままならず・・一週間から十日ほど不定期更新になるかと思うのですが・・懲りずにお待ち頂ければ幸いです。゜(>д<)゜。みなさま春の風邪にはお気をつけて!結構キツイです!!
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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