閑話 ロニアの冒険譚 ㉒
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イブリナ帝国の皇帝は大陸統一を果たした唯一の王であるグアラテム王の大ファンなのだが、近年になって、グアラテム王の子孫は北の地へと移動を果たし、ラハティ王国がある地を治めていたという歴史が明らかとなった。
北辺の地に追いやられた北の民族こそがグアラテム王の血を引く子孫たちであり、ラハティの王宮の敷地内から発掘された石板にはその歴史が記されているという。
今回、ハーク夫妻の協力もあって、ラハティ王国にとって有利な取引が行われることになった。帝国でも貴重とされる複数の絵画が王国まで運ばれることになり、恐らくその絵画に隣国オムクスが目を付けているのだろう。
「なんだか推理小説のような展開になってきましたわ!」
ロニアが思わず興奮の声を上げていると、ロニアの直属の上司であるヤコブ・ヘランデルが薄くなってきた自分の髪の毛を撫でながら言い出した。
「推理小説的展開かどうかは別として、隣国オムクスは本当に、我が国にやって来る美術品を盗み出そうと考えているのだろうか?」
「たぶん?」
ロニアは小首を傾げながら言い出した。
「セヴェリ・ペルトマに贋作の依頼をしているっていうことは、運ばれて来た本物の美術品と偽物をコッソリと入れ替えてしまおうかと考えているのかな?と、思ったのですけれど?」
「ティールギャラリーがオムクスのアジトかもしれないって、それも本当のことなのかね?」
ヤコブは眉を顰めながら言い出した。
「私は銀行家のティール・シハヌークさんと直接挨拶もしたし、サロンでの展示会の招待も受けているんだが、彼は間違いなく、オムクス人ではなかったんだがね」
「オムクス人じゃなくても、オムクスのスパイとして活動しているとか?分かりませんけど」
ロニアは小首を傾げながら微笑を浮かべた。
「私は父について何度も帝国に赴いていますが、今までティール・シハヌークなんて銀行家の名前を聞いたことがないのです。それにサロンでの展示会とやらの招待状、我がルオッカ家には届いていないようなのですもの」
王家のアドバイザーとして認められたルオッカ男爵を呼ばないのは、帝国から持ち込んだ美術品をコッソリと売ろうとしているからだとヤコブ・ヘランデルは考えていたのだが、そこにオムクスの名前が出て来ると、どうにも胡散臭く感じてしまう。
「今回行われるサロンでは少数の展示になるそうだし、まずはラハティの貴族に顔を売ろうと考えて企画されたものだと聞いてはいたんだが」
「部長、なんだったら部下として、私も一緒に展示会まで行きましょうか?」
「君が?」
ヤコブはマジマジとロニアの顔を見上げると、
「え〜!嫌だー〜!」
と、心底嫌そうに言い出したのだった。
残酷な女性の死体が発見されているという中で、そこに画廊が絡んでいるかもしれないという事実に気が付いたオルヴォは、
「画廊が関係しているのなら、ルオッカ男爵やロニア自身に、敵は何かしらのアクションをかけて来るかもしれないから、ティール画廊絡みで何かがあれば、すぐに俺のところに連絡をしてくれ!」
と、言っていたので、ロニアは憲兵隊の駐屯所に使いの者を送ることにしたのだが、
「いや、すみません〜。オルヴォくんは今、外に出ていて対応が出来ないので自分が話を聞きに来ました〜」
と、金茶の髪の毛のやたらと顔立ちが麗しい男が、ロニアの職場までやって来たのだった。
王宮の敷地内には国王軍の駐屯所も設けられているため、軍部に勤めるミカエル・グドナソンとロニアの職場は目と鼻の先にあると言っても良いくらい近い場所にあるのだが、
「ああ〜、女性に人気と噂の方がわざわざ来るとは思いませんでした〜」
ロニアは憲兵隊の駐屯所でミカエルと顔を合わせてはいるのだが、萌葱荘に帰った際に、金茶の髪の毛のやたらと顔立ちが整った将校と顔を合わせたという話をしたところ、
「それ!ミカエル様じゃない!」
「それは!ミカエル様でしょう!」
友人たちは、はしゃいだように声を上げていたのだった。
とにかくやたらと女にモテるし、女遊びが激しくて仕方がないというミカエル・グドナソンが美術品を取り扱う部署までやって来ることになったので、
「な・・な・・なんで軍部の人が!」
ロニアの直属の上司であるヤコブ・ヘランデルは慌てて執務机に手を付いて立ち上がったところ、
「あっ痛―っ!」
机の角に足を強かに打ち付けたらしい。
慌てれば慌てるほど、何か疾しいことでもあるのかと勘ぐりたくなるほど上司は挙動不審となっているのだが、
「ヘランデルさん・・貴方・・」
小柄な上司を鋭い眼差しで見下ろしたミカエルは、
「娘さんが最近、ワインを運んでくる丁稚と恋人関係にあるみたいですね?」
と、にっこり笑いながら言い出したのだった。
ロニアは憲兵隊の駐屯所にいるオルヴォに対して、上司がティール・ギャラリーが企画する展示会の招待を受けているということを言伝てしたし、上司と一緒に展示会に参加しようかと思うのだけれど、どうしたら良いだろうかというお伺いのメッセージを送ったのだが、ミカエルは思いもよらないことを言い出すし、
「娘にまた恋人が出来たんですか!」
髪の毛が最近、めっきり薄くなった上司は青紫色の顔をしながら脂汗を流している。
「ヘランデルさんの娘さんは随分と男の趣味が良いらしい。前回はギャンブル狂だったようですし、その前は酒乱だったみたいですし?」
「なんでそのことを知っているんですか?」
上司は驚き慌ててミカエル・グドナソンに問いかけているけれど、ヤコブ・ヘランデルの娘の男の趣味が悪いということは、職場の人間なら誰でも知っているようなことだった。
ギャンブル狂いの男と別れさせる時には、それなりの手切れ金を払うことになっていたし、酒乱の男と別れさせる際には、上司の髪の毛が半分くらい消失するほどの苦労があったはずだった。
「え?今度はワインを運んでくる丁稚?ワインを運んでくる丁稚って・・」
北の民族はオムクス人に対して並々ならぬ警戒感を抱いているし、オムクス人を王都で見かけたとなれば、彼らがどういう生活形態を取っているのか観察を繰り返し、自分たちは決して接触することがないように配慮をしているとシグリーズルばあさんが言っていたのだが、
「あ・・もしかして・・そのワインの丁稚というのがオムクスのスパイだったとか?」
思わずロニアが言葉を漏らすと、女たらしとして有名なミカエル・グドナソンは、何とも言えない笑みを浮かべたのだった。
殺人事件も頻発するサスペンスとなり、隔日更新でお送りさせていただきます。最後までお付き合い頂ければ幸いです!お時間あれば時代小説『一鬼 〜僕と先生のはじめの物語〜』もご興味あればどうぞ!
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