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噛まれた

 ほっぺた抓って、夢か現実か確認する事ってありますか?

夢でも痛い事があると言う話です。


 この当時、私が住んでいた地域は、夜ともなると、車は数えるくらいしか通らない閑静な田舎町だった。

虫の音や蛙の声が、煩い時もあったが、概ね静かな田舎町の暮らしは、嫌いではなかった。

しかし、この日の夜は、バイクや車が往来する音が、深夜まで続いていた。

「こんな時間まで、車通りがあるなんて、何かあったかな?」

近くの国道で、事故があった時などは、迂回路として使われる事はあったが、こんな時間まで車が通るのは初めてだった。

今夜中には、解消してる事を願って、布団に入ったが、音だけでは無く家の中まで、容赦なく入って来るライトの光が、車が通る度に、幾重にも照らしては消えて行った。

「参ったな。これは眠れそうにない」

ボソッと口にした言葉が、聞こえたのかと思うくらいに、ピタリと爆音もライト光も消えて、何時も無かった様に、辺りは静寂に包まれた。

「あっ、静かになった。これで、ゆっくり眠れそうだな」

そう思ったのも束の間、窓から赤い光が幾つも、落ちていくのが見えた。

何事かと外に出てみると、背格好からして中学生くらいだろうか?その数人が、上の道路から火の玉を私の家に目掛けて、しかも素手で何発も、投げ込んでいるところだった。

「おい、お前ら、何やってる。火を投げるんじゃない。家に火が着いたらどうするんだ」

怒りの感情が湧き上がり、私は咄嗟に叫んでいた。

「お前達ちょっと、こっちに来い」

彼等を家の方へ来いと呼び付けると、道路から迂回して家に来るのでは無く、畑と民家の庭先で、三段に別れているとは言え、十数メートルはある高土手を、一段ずつ飛び跳ねる様にして降りて来た。


 中学生らしき者達は、全員で七人いた。

まるで、祭りの帰りなのかと思わせる狐面を、皆、顔に着けている。

不気味な雰囲気はあったが、家に火を放たれ、危うく火事になるかもしれない暴挙に、怒りが勝り、多少の事は気にならなかった。

家の前まで降りて来た狐面の七人は、悪怯れる事もなく、ただ黙ったまま立っている。

「お前達、何やっているか分かっているのか。人の家に火を着けようとしたんだぞ。もし火が着いて、俺たち家族が死んだら放火殺人だ。犯罪だぞ」

何を言っても、ただ立っているばかりの狐面の七人。

否、いつの間にか狐顔の七人に変わっていた。

そして左端に犬?これは『狐か』さっきまでいなかったはずの、その狐らしき動物が、私に向かって襲いかかって来た。

そして、あろう事か私の股間に噛みついて来たのだっだ。

「痛っ、痛たたたたたっ、こら離せ馬鹿狐がぁ」

何とか引き剥がそうとした時だった。


 「離せと言われて離す馬鹿がいると思うか」


 そう声が聞こえたところで、あまりの激痛に、飛び起きる様に目が覚めた。

「最悪だ。夢で噛まれたのに、すげぇ痛い、玉が痛えぇ」私はただ、のたうち回るしかなかった。

「くそ、何だったんだ…あの夢、何で痛いんだ」

噛まれたから、痛いのか?痛いから、噛まれた夢なのかは分からない。

一般的には、夢の中では、痛みは伴わないとされるが、痛い夢もあると言う事を、この時初めて知った。


 痛みが治まるまで、数分は掛かった。

外は白みかけ、夜明けが近い事を知らせていた。

時計を見ると四時四十分、出勤時間まで、三時間近くある。

快適な目覚めでは無かったが、改めて眠れそうにないので、少し間だけ散歩する事にした。

「あら、朝ちゃん今日は早いね」

隣の正恵まさえさん、御歳八十八歳だが元気そのもののお婆ちゃんだ。

「正恵さんこそ早いですね」

「何時もの事だよ。年寄りは朝が早いのさ」

そう言いながら、快活に笑う正恵さんに、昨夜の車の多さに、眠れなかった話をしてみると、以外な答えが帰って来た。

「何時もより、ちょっと多いとは思ったけど、煩いほどではなかったけどね。うちは寝るの早いから、気付かんだけかも知らんがね」

そう言うと、また笑った。


 少し歩いて、国道近くの神社が見えるところまで、やって来た。

鳥居の近くに、この辺りの神社の管理と禰宜を掛け持ちしている轟木とどろきさんが立っていたので、声をかけてみる事にした。

「こんな朝早く、どうしたんですか」

「おぉ、いいところに来た。これ見てよ。ここ道狭いでしょ。車がすれ違う時に、近く通って傾いたみたい何だよ」

見ると、そこには石造りの、それ程大きく無い祠が横たわっていた。

なるほど、敷石がめくれて地面が凹んだせいで、祠が倒れたようだ。

ここに住み始めて二年近くになるが、今までこんなところに祠あるなんて、気付きもしなかった。

「朔田さん、あの広い場所まで、動かすの手伝ってくれるかな。一人じゃ、どうにも重くてね」

地面が凹んでいるせいか、見た目以上に重く大人二人で、やっと動かす事が出来た。

「これは一人じゃ無理でしたね。この祠は、何を祀っているですか?」

「狐だよ」

「えっ、狐ですか」

昨夜の夢が思い起こされる。

「昔、この辺りに、悪さをする七匹の狐達がいてねぇ。当時の殿様が、家臣達に命じて狐退治を、したまでは良かったんだが、退治に参加した者が、次々と死んだとかで、狐の祟りだと、恐れられたものだから、その当時の宮司等が、ここに祠を建て祀った事で、祟りが鎮まったとされているんだよ」

「そんな、謂れのある祠なんですね」

「詳しい事は、百年ほど前の火事で、神社の資料や文献も焼けたから、もう誰も分からんけどね」


 倒れた狐の祠。


 討たれた七匹の狐。


 百年前の火事。


夢との類似点が多いが、たまたま重なっただけで、きっと、思い過ごしだと思うが、この祠が原因で、祀ってある狐が夢の中で噛み付いたのなら、とんでもないとばっちりだなと、馬鹿な考えも過ぎったが、すぐに打ち消した。

「この祠は、このままですか」

「あぁ、後で集落の暇な者に連絡して、土台修理したら元に戻すよ」

それを訊いて、胸を撫で降ろす自分がいた。

やはり、関係ないとは思っていても気にしているんだなと、笑ってしまう。

「そうですか」

「今では寂れた神社だけど、これでも千二百年の歴史ある由緒正しい神社なんだよ。朔田さん、時間あるなら参拝して行けばいいさ」

時計を見ると、そろそろ帰って準備しないと遅刻しそうな時間だった。

「今日、仕事なんで、また今度にしておきます」

そう言って狐の祠を後にした。


 今夜、夢に出てこない事を祈りながら…。

 

 夢と現実に類似点があると、関連性を疑いたくなりますが、ほとんど場合、思い込みですよね(笑)


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