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帰りたい

 パラレルワールド的な夢と思って頂ければ、有り難いです。

 母に手を引かれ着いた場所は、地方の小さな駅舎だった。

入ってすぐ左手には切符売場、正面は改札口、右手には、四人掛けの長椅子が三脚と、小さな売店があった。

その売店のすぐ横に、透明なドームの中をオレンジジュースが噴水の様に噴き出している。

幼い私は、噴き出すオレンジジュースを、じっと見上げてた。

朝緒あさお、ジュース飲みたいのかい」

私が飲みたそうにしていると、母親がこっちを見て笑っていた。

私が一度、コクリと頷くと、母は大きめのガマ口から五十円を取り出し、縦型のコイン投入口へ五十円を入れた。

中央の取出し口に、紙コップがコトリと落ち、オレンジジュースが中へと注がれていく。

勢い良く注がれるオレンジジュースが、今にも溢れるのではと、心配しながら見ていたが、オレンジジュースは溢れる事無く、カップの縁の少し下で、ピタリと止まった。


 母は、知り合いなのか売店のおばさんと話をしている。

私は、三脚ある長椅子の売店に近い場所に座り、オレンジジュースを飲みながら、大人しく母親の話が終わるのを、待っていた。

朝緒あさおちゃん、お利口さんだね。今何歳だい」

売店のおばさんが、私に話掛けてきた。

まだ、指を器用に動かせない私は、どの指を出すべきか迷いながら、親指、人差し指、中指を立て「しゃんしゃい」と、舌足らずな言葉で、三歳である事を告げる。

「あぁそう、偉いね。ちゃんと言えたね。三歳になったの、じゃあ、はい、これあげる」

売店の、おばさんの掌には、ティッシュに包まれた飴玉が、三つ乗せられていた。

母親は、畏まって、お礼を言いなさいと私に促す。

私は「ありがと」と、お礼を言って、貰った飴玉を、口の中に入れようとするとが、母親に飴玉を食べるのを止められた。

「オレンジジュースと一緒に、飴玉食べると酸っぱくなるから、後でお食べ。飴玉はポケットの中にしまって、オレンジジュース飲み終わってから食べるんだよ」

折角の、美味しいオレンジジュースが、酸っぱくなるのは嫌なので、素直に母親の言葉に従い、飴玉をポケットの中にしまった。

「母ちゃん、切符買って来るから、ここで大人しく座って待っているんだよ」

私が大人しく座って、オレンジジュースを飲んでる間に、母は切符を買いに、駅員さんのいる窓口へと、歩いて行った。


 汽車の、到着時刻が近いだろう。

駅員が、ハサミをカチカチ鳴らしながら、駅事務所から、改札口へ出できた。

切符を渡すと、リズムよくパチパチと、切符に切れ目を入れていく。

母は私の手を引き、線路に降りると反対側の二番ホームに渡って行く。

この駅は、隣のホームに行くのに、線路上を横切って、歩いて行く田舎町の駅だった。


 二番ホームに到着すると、私と同じ歳くらいの、女の子がホームの椅子に座っている。

母親らしい人は、隣の人と話に夢中なのか、女の子は一人、退屈そうにしていた。

私と母は、女の子から少し離れた椅子に座って、汽車を待つ事にした。 


 私は、売店のおばさんに貰った飴玉を、口に頬張る。

千歳飴に似た味がする飴玉は、思いの外、大きく、少し手こずったが舐めているうちに、程良い大きさになったところで、噛み砕いてしまっていた。


 二個目を食べようと、ポケットから飴玉を取り出した時、丸い飴玉を落としてしまい、そのまま、線路の下まで転んで、落ちていった。

「あっ、飴玉」飴玉を追いかけた視線の先に、さっき渡って来た線路が、目に入る。

それと同時に、同じホームにいた女の子が、線路上にいるのが、目に入った。


 「間もなく、一番線に列車が到着致します」

駅員のアナウンスが流れる。

「線路に子供がいるぞ」怒声が響く。

何度も鳴る汽笛、車輪と線路が擦れる金属音、叫ぶ女性の声、慌てた様子で走って行く車掌、それをずっと見ている三歳の私。

「わぁっ」と叫んだ時、女の子が目の前に見えた。

二番ホームの上から、見ていたはずの私は、何故か、線路の上にいる。

「あれ、何でここにいるの」

女の子は、二番ホームに立っていた。

「ごめんね」

女の子は、はっきりと、私に向かって『ごめんね』と言った。

体が、場所が、入れ変わった?そんな事。

そして汽車は、すぐ目の前だった。


 目覚めたら、母親の膝の上に頭を乗せ、一番ホームの椅子に座っていた。

ポケットを探ると、三つあった飴玉は、一つになっていた。

「そっか、さっき食べたんだ」

一つは食べて、もう一つは落として…落として、線路の下に、女の子がいて、それから先が、思い出せない。

朝緒あさを、帰ろうか」

母親が、私の手を引き改札口を出る。

『何かが違う』少し、ほんの少しの違和感、母だけど、母じゃ無い気がしてならない。

以前は、あった黒子が一個無いような、目の間隔、口の大きさ、何かが違うような、違うはずなのに、分からない歯痒さに、泣きたくなって来た。

「母ちゃん、帰りたい。早くお家帰りたい」

泣き叫ぶしかなかった。

困惑する母は「はいはい、すぐ帰ろうね。帰ったら朝緒あさをの好きなカレーにしようね」

違うそうじゃ無い、そうじゃ無くて…苛立ちから、更に泣きながら母を、困らせた。


 そして、三歳の私は呟く。

「帰りたい。僕の場所はここじゃ無い」


 

 何が変わったか、お分かりでしょうか?

確かに、変わってます(笑)

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