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 夢と現実が混同する事が、ありますか?

私は、良くありますzzz

 何日も、熱に浮かれた。

かかりつけの町医者も、匙を投げた。

私の両親、祖父母さえも諦めた。


「この子は、もう助からない」


 二週間、昼は一時的に熱は下がるが、夜になると、また熱が上がるを繰り返す。

そして、日に日に食事を受け付けなくなっていた。

「どうしよう。この子、飯も食わなくなったよ」

「医者が、この子の生きる力を信じるしかないって、原因が分からんって」

大人達が話している声が聞こえた。

「体が熱いし、動けない…やっぱり死ぬのかなぁ。いやだなぁ」

朦朧とする意識の中、そんな事を思いながら、また眠りへと落ちていく。


 目を開けると、人らしき者が立っていた。

「誰、母ちゃん?」幼い私は、目の前の浮いている様に佇むその人物に問うてみた。

「残念だが、母ではない。お前を救う者だ」

何を言っているのか、二歳の私には理解出来なかったが、悪い人では無いと感じていた。

「良いか、良く聞くのだ。家の前から木戸に向かって、焼酎と塩を撒く事、仏壇に線香を欠かさぬ事良いな」

それだけ言うと、その人は消えていった。

そう言われてはみたものの、高熱で動けず寝たきりの二歳児に、何が出来ると言うのだろう。

今の自分に出来るのは、こうやって大人しく寝ている事だけだった。


 どれくらい経っただろうか?目覚めると家には誰もいなかった。

「父ちゃん、母ちゃん何処」

この時、不思議と熱も引いて、起き上がる事が出来た。

誰もいないと分かると、急に寂しくなり、裸足のまま外に出てみる。

辺りは薄暗く成りかけていたが、父と母が外で何か撒いてるのが分かった。

父は、一斗の焼酎を抱えて、柄杓で汲み取ると長い木戸を歩きながら、焼酎を撒いている。

母は一升の塩を手に持って、一握りすると、塩を同じ様に、木戸に撒いている。

私は、父の元に行き訊いてみた。

「父ちゃん、何してる?」

しかし、私に気付かないのか?一心に念仏の様なものを唱えながら、焼酎を撒き続いていた。

仕方ないので、今度は母の元に行き、服の裾を引っ張ってみる。

「ねぇ、母ちゃん、それ何撒いている?」母も同じく塩を撒き続け、やはり私に気付かない様子だった。


 私は、父と母に気付いて貰うのを諦めて、家の方ヘ帰る事にした。

そして、そのまま祖父母がいる離れの家に行ってみる。

離れの側まで来ると、何やら声が聞こえてきた。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、どうか孫をお助け下さい。連れて行くなら、どうかこの年寄を連れて行って下さい」

祖父が必死に、仏様にお願いしているようだ。

祖母も、一緒になって拝んでいる。

「爺ちゃん、婆ちゃん、僕、熱下がったよ。もう大丈夫だよ」

必死の訴えも虚しく、やはり、父や母と同じで、祖父母にも気付いて貰え無かった。

そして、そのまま、意識が薄れていき、その場で気を失った。


 「それで、母ちゃんびっくりしてさぁ、朝緒あさをが起きたぁ。って大声で喜んだよ」

中一の春、熱を出して一週間ほど、学校を休んだのを切っ掛けに、あの時、何故?焼酎と塩を撒いたのかを、改めて訊いてみる事にした。

「そしたら、いきなり腹減ったって言ったんだよ。母ちゃん、可笑しいやら、嬉しいやらでね」

「それは、分かったから、焼酎と塩」

「それでね。何が食べたいって訊いたら、素麺って言うんだよ。爺ちゃんも素麺好きだったから、朝緒は爺ちゃんに似たのかね」

前置きが、長いのは何時もの事なので、更に焼酎と塩を、何故、撒いていたのか問い詰めた。

「焼酎と塩…覚えてないなぁ。でも何で、そんなもん撒くんだい?」

どうやら、本当に身に覚えが無いのか、逆に質問されてしまった。

「えっ、僕が声掛けても、全然気付かずに撒いていたよね?」

母曰く、全く知らないと言う事らしい。

「じゃあさぁ、爺ちゃんと婆ちゃんが、仏壇に向かって念仏唱えていたの覚えてる?」

「そんな事あったかなぁ?それより爺ちゃんは、朝緒が生まれる一年前に死んでるから、居るはず無いだろう。おかしな事、言う子だね」

そう母に言われ、記憶を遡ってみると、確かに祖父がいた記憶が無い。

だが、私の中の記憶は、祖父が生きてる事に書き換わっていた。


 あの出来事は、全て夢だったのだろうか?

夢と現実の、記憶の混乱…きっと、そうだったに違いない。

明日からは、学校に行けそうだし、今夜は、このまま眠る事にした。


 母は、私の元からいなくなると「あの事は、絶対に朝緒に知られちゃいけない。爺ちゃんは…」

最後は、旨く聴き取れ無かったが、母は間違い無く、そう呟いた。


 最後の母の呟きも、朝緒の夢…かも知れません(笑)

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