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幽体離脱 その参

 黄泉の入口から、引き戻され三ヶ月が過ぎた。

その間、幽体離脱どころか金縛りにも罹らなくなっていた。

あれほど嫌だった金縛りも、いざ罹らなくなると、逆にどこか異常があるのかと、最初のうちは心配になったが、時間が経過たつに連れ、そんな事も思わなくなっていった。


歳をとって、代謝が悪くなった為か体重が、ここ数ヶ月で10kg近く増えてしまった。

これではいけないと、ランニングを始めたが、膝が痛くなり結局辞めてしまった。

それを嘲笑うかの様に体重は増えていく。

仰向けに寝るのが苦しくなり、いつの頃からか、うつ伏せに寝る事が多くなっていった。

そんなある日、寝苦しく暑い夜だった。

「暑い。眠れない」

そう呟きながら、うつ伏せの状態から、腕立て伏せをする様に、腕を伸ばして体を起こすと、僅かな違和感があった。

「あれ?何だこれ」

腰から上の上半身だけが、本体からだから、抜け出している。

「金縛り罹ってないよな」

金縛りを経由する事無く、幽体離脱する快挙を…。

否、快挙なのかも分からず、幽体離脱している自分に戸惑っていた。

「こんな事ってあるのか?今、その状況だからあるんだよな。でも何で幽体離脱した?」

寝苦しく、だだ起きようとしただけ、ただそれだけだった。

寝ている自分を確認しようと、辺りを見回すと前触れ無く、部屋から飛び出し外にいた。

「いつの間に外に」

いつもの様に、上に飛ぼうとしたが、何故か飛べなかった。

久しぶりの幽体離脱のせいか、少し勝手が違う様だ。

いつも、上にばかり気を取られていたが、下に行く事も出来るのでは…?

そんな考えが頭を過る。

「よし、地中に潜ろう」

勢い良く下へと進路を取り、ほんの数秒で地上に出た。

正確には、地上では無く、そこは周りに何も無い海の上、360°見渡す限り海しか無い場所だった。

つまりは、地球の反対側、南半球に出たのだろうと、勝手に解釈した。

「日本の反対側はブラジルじゃ無く、海って本当何だな」

そんな感想を呟きながら、海の上を飛ぼうとすると、そこから動く事が出来なかった。

「あれ、何で?」

次の瞬間、強烈な力で海へと引き摺り込まれる。

「わぁ、何だ」

それと同時に、呼吸が苦しくなった。

「い、息が…」

視界が赤く染まり地球の奥底へと沈んでいった。


 「ゴホッ、ゴホッ、ハァ、ハァ、ハァ」

うつ伏せで、寝ていたはずなのに、仰向けの状態で咳き込みながら目を覚醒ます。

渇ききった口腔内は、唾液で潤す前に、胃からの内容物で噎せてしまった。

息は荒く、鼻の奥に苦い物が入り、涙目になった。

心臓の鼓動が痛いくらいに速い。

「呼吸して無かった…のか。死にかけた?」

未だ落ち着かない心臓に、左手を掴む様に当て、呼吸を整える事、数分後…やっと、落ち着く事が出来た。

ゆっくりと、立ち上がると台所に向かいコップで二杯立て続けに水を煽る。

「幽体離脱って、まさか死にかけても体験するのか?」

最初の幽体離脱がフラッシュバックする。

「あの時も、死にかけてた」


 朝になり、会社に行けなくはなかったが、体調不良で病院に行くと連絡して、休む事にした。

一応、念の為である。


「その症状だと、睡眠時無呼吸症候群でしょう」

そうじゃ無いかとは思っていたが、面と向かって言われると自覚するしか無いと観念した。

「まずは、痩せましょう。血糖値も少し高い様なので、食事を見直すなりの何らかの対策は必要でしょうが、その他は異常は診られ無いので、横に寝るなりして気道を確保すれば、問題無いでしょう」

「そうですか。ありがとうございました」

「また、何か異常があった時は来て下さい」

医者は、そう言うと、目の前のノートパソコンのキーを叩きカルテを書き始めた事で、診察終了を告げたのだろうと、私は診察室を後にした。

そして、どういう訳か、この日を境に、幽体離脱をする事が無くなった。

多分、私の思うに、次に死にかけるまで幽体離脱をしないのではないか?

もしかしたら、次、幽体離脱する時は死ぬ時なのかもしれない…。



 

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