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第3話 召喚士とメロンフラペチーノの夜

 読者の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしだろうか。私はこの王都フルマティにある七番町学園の高等部2年生にしてアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”の2期生メンバー、ジャコ・ギブン。今日も私の優雅なアイドル生活についてお話ししたい。


 アイドルをやるに当たってもっとも重要な仕事がコンサートツアーだ。私たちの場合は学生が多いので、夏休みの時期になると3大大陸横断ツアーなどの企画が組まれ、2ヶ月間ほどをコンサートとその練習で費やすことになる。振り入れと言って曲の振り付けを覚える作業があるのだがこれがなかなか大変だ。30曲ほどもある私たちの持ち歌のフォーメーションを自分のパートだけでも頭に入れとかなきゃならない。よってツアーが近付くと配信の無い日の放課後はすべてレッスンとリハーサルに費やさなければならないのだ。


リンコ「お疲れ〜」


 来月に迫ってきたツアーに向けての全体リハーサルが終わり、私のぶんの冷茶を差し出してくれたのは同じグループのリンコ先輩だ。


ジャコ「お疲れです」


リンコ「いよいよ来月からツアーだね。楽しみなんだ、あたしこの中央大陸から出たことないからさ」


ジャコ「私もです。中央大陸弁慶です」


リンコ「出た弁慶w 西方大陸行ったら美味しいもんいっぱい食べようぜ! 乳活だよ、乳活!」


 この先輩、自分はまあまあ乳あるのにマウントがしたいのか、いつも私を巻き込んで貧乳ネタに持ち込もうとする。あんたと私じゃ丘と地面くらい違うって! それに美味しいものを食べたら乳活になるという理論もよくわからない。乳より腹が出そうだが。


コマチ「二人ともおつかれで〜しゅ」


ジャコ「あ、コマチパイセン」




 コマチパイセンは生まれつき小柄なハーフリー族で、プロフィール上は17歳だが19歳説も根強い。小学生にしか見えないため合法ロリとして主に中年以上のおじさまたちに絶大な人気がある。呑気で飾らない人柄だし同学年なので私は親しみを込めてコマチパイセンと呼んでいる。


コマチ「気付いた? 今日はミキオPが何度も見に来てたよ〜」


 ミキオPというのは私たちイセカイ☆ベリーキュートのプロデューサーのひとりで、召喚士とのことだが異世界から転生してあっという間に伯爵にまでなったイケメン眼鏡だ。


ジャコ「ミキオPってフレンダ王女やオーガ=ナーガの皇太女、ジオエーツ連邦の女王と三股かけてるって聞きました」


コマチ「あー、かわら版情報? フレンダちゃんは以前うちの限定メンバーだったからよく話したけど、そんな感じなかったよ。フレンダちゃんが一方的にミキオPに恋してる感じ」


ジャコ「え、そうなんですか」


リンコ「フレンダちゃん顔は可愛いけど、めちゃめちゃ嫉妬深いからね! あたしが男ならあれは行かないなw」


ユキノ「何の話してるの…?」


 げ、絶対的エース様が我々下々の者に話しかけてくださった。普段はスンとしてて話に加わらないのに。


コマチ「ミキオPが来てたんだよ、今日」


ユキノ「そうなの、ふーん…」


 ユキノ様は言うまでもないがこのグループの絶対的エース、というかこのガターニアのトップアイドルだ。人形のように精緻な美貌で、スイッチオフの時は大して笑わない。私やリンコ先輩、コマチパイセンと同学年だがオーラがまったく違う。同じグループの中でも雲の上のような存在だ。


リンコ「ユキノはミキオPガチ恋勢だからね」


 リンコ先輩が私に囁いたが、音量は絞ってないのでユキノ様にまる聞こえだ。


ユキノ「ちょっと、やめてよリンコ。確かにかっこいいとは思うけど、そこまでじゃないし」


 エース様がそう言い訳しているがしっかり顔は赤らんでいる。いやこれはガチだな。いろんな国の王女やトップアイドルをメロメロにするミキオPとはどういう人なのだろう。


クロッサー「お疲れ〜」


 マネージャーが入ってきた。その後ろにはミキオPがいる。やはり来ていたか。普段と違う状況に一気に皆の表情がこわばる。


クロッサー「えー実は今日の全体リハは最初からミキオ先生に観て頂いてました。その上で総評を頂こうと思います。先生、どうぞ」


ミキオ「いや、なかなか良かった。時間の都合で時々しか観れなかったんたけど、みんなの熱意が伝わってきて圧倒されました。新曲ももうそろそろ届くと思うんで、このまま怪我に注意して頑張ってください」


 結構な好評価を頂き、皆に安堵の表情がみえる。この人はダメな時ははっきり言うからな。


ミキオ「ああ、それと君、ジャコだっけ。このあと予定ある?」


 なぜか突然指名されてキョドる私。


ジャコ「あ。え、私ですか? いや無いです」


ミキオ「じゃ悪いがちょっとおれと付き合ってくれるか」


 ザワつくメンバーたち。おれと付き合ってくれるかって、どういう意味だ。まさかそのままの意味じゃないだろうな。


ジャコ「え、え、え、私と」


ミキオ「そう」


ユキノ「…失礼します」


 エース様がうつむきながら中座しレッスン場を出ていった。泣いていたようにも見える。盛大にザワつくメンバーたち。え、何この展開。私がエース様に不快な思いをさせたの? ミキオPは何だあいつみたいな顔してるけど、気付けよ! あんたが私ごとき下位人気メンをお誘いするから怒っちゃったんだよ!


ミキオ「まあよくわからんが、ジャコは15分後に召喚するから着替えて待っていてくれ。おれからは以上だ。解散」




 15分後、私服に着替えた私は魔法召喚されるという人生初の経験をした。見慣れない場所だが一体ここはどこなのだろう。


ジャコ「あの、ここは…」


ミキオ「ああ、日本のスタバという喫茶店だ。王都の喫茶店ではパパラッチがうるさいし、事務所でもいいんだが内容的にあいつらに聞かれたくないのでな。メニュー読めないだろうからオーダーももうしておいた。メロンフラペチーノだ。良かったら飲んで」


 上品でダークな内装、そして何かを炒ったような香ばしい香り。ここが異世界ニホンなのか、憧れのニホンにあっさりと来てしまった。なんかことごとく綺麗で丁寧。店内にゴミひとつ落ちてない。壁一面全部ガラスでその向こうの道路には馬のない馬車が行き交ってる。夢みたい。泣きそう。メロンフラペチーノもとんでもなく美味しい。


ミキオ「どうした、体調悪いの?」


ジャコ「あ、いえ、ここがニホンかぁって…」


 しかしそれよりもこの男だ。最上級召喚士とはなんと凶悪なのだろう。この男に目をつけられたらどこにいても抵抗できず呼び出されてしまう。なんて傲慢で尊大な男。あらためて間近で見るとすごく端正な顔立ちだ。眼力はあるが目元は涼しく、束ねたロングの髪も男の人の割には綺麗でまっすぐだ。身長も意外と高くて筋肉もついている。眼鏡はホワイトシルバーのハーフリムでよく似合ってる。肌もつやつやで女の人みたい。なのに性格は自信満々で俺様系。これはモテるわ。フレンダ王女やユキノ先輩じゃなくてもコロッといくよ。


ミキオ「そうか。日本はどう? 想像と違った?」


ジャコ「想像以上でした。街中がキラキラしてます。女の子たちもみんな凄い綺麗」


ミキオ「何言ってんだ、君だって相当綺麗だぞ」


 え? え? 何言ってんだこのイケメン眼鏡。もしかして私を口説いてるのか? ヤバいヤバい、心臓がバクバクしてきた。絶対的エースのユキノ様を差し置いてこんな低級アイドル口説いてどうするんだ。本当に口説いてるんだとしたら私なんて簡単に堕ちるぞ。


ミキオ「君たちはおれがオーディションしたんだ。汚い子をイセキューに入れるわけがない。君もちゃんとキラキラしてるからもっと自信を持て」


 あ、そういう意味か。まあそうだけど、同じキラキラでもユキノ様やカレンが夜空の星屑だとしたら私はドブ川の油膜だ。較べられるものじゃないよ。でも嬉しいこと言ってくれるなあ。やっぱりモテる男は違う。自分がいい女になった気分だ。


ジャコ「あの、聞かれたくないこととはいったい…」


ミキオ「それなんだが…」


 ミキオPは“マジックボックス”という収納魔法を使って何もない空間からクシャクシャになった紙を取り出した。げ、それは私が描いて捨てたオレンジボーイのBL漫画のネームではないか。


ジャコ「ひっ、ひいっ!」


ミキオ「ああ大丈夫。おれは漫画好きでこういうのは見慣れてるから。いまおれはシンハッタ大公に頼まれて漫画を描ける人材を探しているんだ。これは寮母さんがゴミ箱から見つけてマネージャー氏に報告したものだが、これ君が描いたんだろ? 隠さなくていい。なかなかの才能だ。君、雑誌に連載しないか。おれが監修する」


 え、私と付き合ってくれってのはそのことだったのか。だったら最初から皆の前で漫画の話なんだがと言ってくれれば…いや言えないか、こんな内容だしな。


ジャコ「え、ちょっと待ってください、私の漫画を連載!?」


ミキオ「そうだ。来月新雑誌を発刊する。君に連載を任せたい」


 こうしてその後、私はシンハッタ大公国で発行される新雑誌・週刊マングダムにBL漫画の連載を持つことになるのだがそれはもう少し後の話である。



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