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第16話 魔法少女イン・マイ・ドリーム(後編)

 読者の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしだろうか。私はこの王都フルマティにある七番町学園の高等部2年生にしてアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”の2期生メンバー、ジャコ・ギブン。今日も私の優雅なアイドル生活についてお話ししたい。


 イセカイ☆ベリーキュート夏の三大大陸横断コンサートツアーのさなか、私は異世界ニホンでガールズ騎士(ナイト)ピュアリーナの一員として悪のマルゴルドカンパニーと戦いながら神器の欠片である88のアンジェリークチャームを集める夢を見ていた。3日めの今夜は第3話ということになる。夢に入った時、私は既に変身していた。強大な敵を前にして次々と名乗りを挙げていくメンバーたち。次は私の番だ。


ジャコ「運命のプリマ! ピュアブラック!」


 ふっふっふ、言ってやったぞ。このフレーズは昼間の移動中に必死に考えたのだ。言った後でリーダーの方を見たらまあいいでしょうみたいな顔をしている。運命もよくわからないが陰気よりはましだ。


 今回の敵はひし形のチャームが怪物化したロンバスチャームゴースト。これが結構強くて私たちの通常攻撃では歯が立たない。 


チズル「新しい武器を使うのよ! ハイヒールサーベル!」


 昨日獲得した新しいチャーム、ティアドロップチャームをリーダーが取り出して前方にかざすと空中に出現したガラスの靴、それを手に取ってチャームを装着し変形させるとヒールの部分が伸びてサーベルのような形状になった。へー、よくできているなぁ。感心しながら私もすぐに「ハイヒールサーベル!」と呼ぶと目の前にガラスの靴が出現する。よく見るとガラスではなく透明なプラスチックとかいう素材のようだ。私は慣れない手でその靴を変形させようとしたが、どうにも勝手がわからない。何かのボタンを押さないとこの可動のロックが外れないのか? それとも思いっきりやったらいけるのか? 迷ってる時間はない。ええい、やってまえ。私は力を込めて靴の本体からサーベルの柄になる部分を折り曲げたら「バキッ」という結構大きな音がして壊れてしまった。え、プラスチックってこんなに脆いの?


リーダー「何してんの、ブラック!」


ジャコ「すっすみません! いやでもそんなに力入れてないんですけど…」


 私のハイヒールサーベルは柄の部分が外れてぷらぷらになってしまっている。仕方がないので私は皆の邪魔にならないようにはけたが、他の7人による新しい武器を使っての必殺技“ピュアリーナ・グランピルエット”は存外に強力で、今回の敵であるロンバスチャームゴーストはあっさり倒されていた。


 しゅうしゅうと音を立てて小さなひし形のチャームに戻っていくゴースト。リーダーはそれを拾い上げると私に向かってこう言った。


チズル「仕方ない。ブラック、謝りに行くよ」


ジャコ「えっ…? どこにですか」


チズル「スポンサーさん」


 私の夢ながら展開が読めないな。スポンサーって何だ? あのハイヒールの剣と何か関係があるのか?




 私たちはなぜかそこから徒歩圏内にあるスポンサー企業を訪れた。ニホン語でバンダ…何とかと書いてあるこの建物に入り該当の部署に行くと、スポンサーの担当者が不機嫌そうに対応した。


チズル「この度はうちの者が粗相をしまして…ほらジャコも謝って」


ジャコ「すみませんでした」


スポンサー「うちがあなたがたに衣装や武器を提供し、その商品を使ってあなたがたがカッコ良く悪者を倒す、これであなたがたと我々オモチャ会社との良い関係性が築けているわけでね。それを販促期間が始まったばかりというのにあっさり壊されちゃっては…」


チズル「心からお詫び申し上げます」


スポンサー「今回は仕方ないですけど、そのぶん次回はもう少し尺長めにこのサーベルを使ってくださいよ」


 スポンサーさんは新しいハイヒールサーベルをくれた。夢の中なのに夢のない話だなぁ。私はうんざりしたけど、まあどうせ夢の中の話だからいいや。そろそろ起きよう。私は自分の力で強引に瞼を開き、現実世界で目覚めた。




 モーニングルーティンを終え、朝食に向かう。早起きしたせいかまだリーダーひとりしか来ていないようだ。私は自分の分のプレートを取ってリーダーの対面に座った。


ジャコ「あの、さっきはすみませんでした」


チズル「何? 心当たりないんだけど、何かしたの?」


ジャコ「いや、ハイヒールサーベル壊しちゃって…あ、いや、ごめんなさい、夢の中の話でした…」


チズル「また夢の話?! もうその夢早く切り上げちゃってもっと楽しい夢見なよ。あとわたしを嫌な役で登場させるのやめて」


ジャコ「できれば私もそうしたいんですけど…」





 その日の夜。昨日と同じカッシャーザ王国内のクズラナム市でコンサートを行ない、同市内のホテルに1泊していた。なるべくならもうピュアリーナシリーズの夢は見たくないが、こればっかりは自分でコントロールできない。眠らなければいいのだがコンサートツアーをやっている以上翌日に疲れを残すわけにはいかない。モッチーとカレンの部屋で夜中までずっとおしゃべりしていた私は自分の部屋に帰るとあっさり眠りに落ちた。


 夢の中に入ると、私はどこかの神殿みたいなところに来ていた。やはり今夜の夢もピュアリーナ世界のようだ。イセキューいやピュアリーナメンバー全員がセーラー服で立ち、肥え太った老女と対峙している。うちの学校の校長先生に似ているな。どうやらあれがこの神殿の主ということか。


チズル「大神官さま、アンジェリークチャーム88個確かに獲得しました」


 え?! もう88個集めたの?? 最終回?? 一気に飛んだな。でもそれならそれで良かった…やっとこの長い夢も終わるか…。


大神官「ご苦労様でした」


 大神官はアンジェリークチャーム88個が詰まった皮袋を無遠慮にばしっと掴むと、不敵な笑みを浮かべ哄笑した。私たちが戸惑っていると、大神官は顔面の皮を剥がし太ってはいるがそれなりに若い顔に変貌した。


リンコ「あっ!」


チズル「あなたはいったい?!」


マルゴルド「ぬっふっふっふ、ぬかったわね! お初にお目にかかるわ。私はマルゴルドカンパニーのC.E.O、クイン=マルゴルド!」

挿絵(By みてみん)

 あっ、なんてことだ! 敵のマルゴルドカンパニーの親玉が大神官に化けているとは…しかしあいつ、元イセキューで黄金令嬢メンバーだったマルコさんにそっくりだな。いや私の夢だから配役したのも私なんだろうけど。


チズル「冗談じゃないわ!」


 閃くようなスピードダッシュでマルゴルドの元へ跳躍し、ハイヒールサーベルで斬りつけるリーダーことピュアレッド。クイン=マルゴルドは巨体を折り曲げて躱したが、皮袋は斬られ大量のチャームがこぼれ落ちた。


マルゴルド「あ! あ! あ!」


チズル「みんな、チャームを拾って!」


マルゴルド「お、おのれ、貴様ら!」


 私たちは落ちたチャームを焦って拾った。それぞれの変身用のスターチャームも含めて半分くらいは拾い取り戻せたが残り半分はクイン=マルゴルドの恐るべき吸引力で体内に取り込まれてしまった。


マルゴルド「私の実体は邪悪なる精霊。こうなれば私自身がチャームゴーストとなってこのニホンを滅ぼしてくれるわ!」


 これからの行動を説明して窓の外から飛び出していくクイン=マルゴルド。わかりやすくていい。


チズル「そうはいかないわ! チェンジ、リアルミー!」


 私たちはすぐに変身し、彼女を追って飛んだ。だがその行く手を遮る人影があった。


リンコ「あっ、ジレオン!」


 その目の前に現れたのはダークウィザード・ジレオンという男だ。戦闘力は高いが敵か味方かわからないキャラで、常にフードを目深に被っている。敵のカンパニーとつるんだりもするくせに時々私を助けてくれたりする謎の存在だ。私の夢だから見てない場面でも知っているのだ。


ジャコ「何の用ですか?」


 だがジレオンは何も答えない。


チズル「先に行ってるね! ブラック、話つけといて!」


 ジレオンのことは私に任せ、ピュアリーナのメンバーたちは飛んで行ってしまった。空中でふたりきりになる私とジレオン。


ジャコ「…あの、たまに私のこと助けてくれるの何なんですか?」


 ジレオンは少し間をとってからフードを上げた。え! こ、この顔ってオレンジボーイ(※ジャコの握手会に現れ、ジャコが一瞬で恋に堕ちてしまった美少年。第2話参照)じゃん…!


ジレオン「あの…おれ、ジャコちゃんのこと好きで」


 え、ちょっと待って! 何なのこの夢。展開が予想外過ぎてついて行けないよ。夢の中のオレンジボーイ…じゃなかったダークウィザードのジレオンはキラキラしてて眩しいほどだ。前髪がまっすぐでサラサラツヤツヤ。肌が綺麗で女の子みたい。石鹸のいい匂いがする。

挿絵(By みてみん)

ジレオン「だから推していいっすか?」


 頬を赤く染めながらそう言うジレオン。完全にデジャヴ。あの握手会の時のリピートだ。こ、こんなの卑怯でしょ…私は声が上ずって考えてもいないことを言ってしまう。


ジャコ「え、あの…お、お願いします…じゃなくて! ちょっと待ってよ、私のこと好きだったらなんであれから握手会に来てくれなくなったの?! ずっと推したらいいじゃん! ていうかキミ彼女いるんでしょ? お姉さんのノリから聞いたよ?!」


 せつなそうな顔になるジレオン。冷静に考えたらオレンジボーイのことをジレオンに言うのは理不尽なような気もするが、私はもうこれが夢だか現実だかわからなくなっている。顔が熱くなって涙がぽろぽろ溢れてきた。


ジャコ「彼女いるのにさ、私の心をもてあそぶのやめてよ! あれから凄い苦しくてキミのことふっ切るのに必死だったのに、なんで今更私の前に出てくるの?!」


 夢の中だからか、理性で感情をコントロールできず泣きわめく私。ジレオンは悲しそうな表情だったが、やがて決意したようにくるっと踵を返して私に背を向けた。


ジレオン「会えて良かった」


 私の記憶に残るオレンジボーイの言葉以上のことを言わず、地面を蹴って異次元に消えていくジレオン。なんだよこれ。いくら私の夢でも酷いよ。最近やっと彼のことを忘れかけていたのに思い出させるなんて…もうマルゴルドカンパニーなんてどうでもいいけど、いま起きても寝覚めは最悪なだけだ。私は涙をぬぐいながらピュアリーナたちの行った方向に飛んでいくと、そこには巨大化したクイン=マルゴルドの姿があった。


ジャコ「え、なんですかこの状況…」


チズル「クイン=マルゴルドがアンジェリークチャームのエネルギーを使って巨大化したのよ。わたしたちの攻撃は効かないわ!」


 見ればみんなのハイヒールサーベルが折れている。もうオモチャ会社の販促期間が終わったから壊れてもいいのだろう。


ジャコ「じゃどうすればいいんですか」


チズル「わたしたちの全エネルギーを結集させてぶつけるしかない!」


 全エネルギーかあ。かったるいな。面倒くさいからもう起きちゃおうかな。いやでも今起きたらまた翌日にこの場面から続きそうな気もするな…私が思案していると後ろから声をかけられた。


ターニャ「ガールズ騎士(ナイト)ピュアリーナのみんな、待たせてゴメン! もう大丈夫だよ!」


 え、これ瑠璃色マーメイド(※アイドルグループ)とその一番人気のターニャ・ヴェー・カリントンだ。私たちと同じようなバレリーナの格好をしているけど、もしかして…。


ターニャ「自己紹介するね! わたしは“ピュアリーナ♪マーメイド”のピュアファンサだよ! 隣の地方のピュアリーナなの。一緒に戦おう!」


 私たち以外にもピュアリーナがいたのか…! まさかの展開に驚いていると、右の方からキラメキララ(※アイドルグループ)のメンバーがやはりバレリーナ風のスタイルで飛んできた。先頭にいるのは一番人気のカチュアリー・ノタネイだ。


カチュアリー「わたしたちは“キラメキ◇ピュアリーナ!” ガールズ騎士(ナイト)のみんな、お待たせ!」


 今度はキラメキララの3人だ。他にもピュアリーナがいるのか…いやいや、その反対方向からもどんどんピュアリーナが来ているぞ。先頭にいるのは国宝級美少女のティラミー・ダイフックだ。


ティラミー「わたしはソロピュアリーナのピュアビューティフル! 後ろにいるのは純情女子ピュアリーナと放課後♡ピュアリーナ、ゆめ味ピュアリーナよ!」


 次々にやってくるピュアリーナたち。クイン=マルゴルドは彼女たちの攻撃を受けて半泣きとなり、だんだん小さくなっていく。もう総数50人くらいとなったピュアリーナたちを見ながら私はボソッとつぶやいた。


ジャコ「オールスターズかよ…」


 ピュアリーナオールスターズからのビームの集中攻撃によりクイン=マルゴルドはもう普通の人間大より小さくなってしまった。これ以上やったらイジメみたいな構図になって子供の教育上よくないだろう。これでもう本当に最終回だ。なんとなく心が晴れた私は安心して目を覚ました。久しぶりに気持ちのいい目覚めだ。今日のホテルはチズルリーダーと同室であり、私が顔を洗いに洗面室まで行くとリーダーはもう起きて身支度を整えていた。


チズル「おはよ」


ジャコ「あの、いろいろすいませんでした。今日はすっきり起きれましたんで」


チズル「そ~お? 何か目のあたり赤くなってるけど」


 げ、そうだった。私は夢の中で大泣きしたんだった。


ジャコ「夢の中で思いっきり泣いてデトックスしたんで…」


チズル「手になに持ってるの」


ジャコ「え」


 言われて初めて気付いたが、私の右手には黒いスターチャームが握られていた。こ、これって夢の話じゃなかったの…? もしかしたら私はパラレルワールドの中に入り込んでピュアブラックとして本当に戦っていたのか? うわ、何それ…だったらジレオンにあんな態度取るんじゃなかった…!


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