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マラウィーの夜⑦Hiliが直斗と出会った。GypsyRoseが一夜限りのPretty Rose

マラウィー湖を渡るフェリーのイララに実際私も乗ったが、私の乗ったイララは2代目で、とんでもない爆音のディーゼルエンジンで動いていた。フェリーが港から出向するときは、特に激しい音と振動で恐怖で、身がすくんだ。ただ人間が、環境に順応する能力は素晴らしい。全身を揺さぶり続けられる疲労による睡魔で、寝袋の中で眠りに落ちた。現代は3台目のイララが就航しているらしい。もう一度マラウィー湖を渡ってみたいものだ。


第3曲 Gypsy rose その4 一夜限りのPretty rose


ホテルのバーで、一人で濃い酒をあおっていたHiliを、飲ませて落とすつもりで近

づいたBossは、Hiliが、口移しで飲ませたウイスキーでとどめを刺されベッドに沈

んだ。約束通り朝まで一緒に居たHiliは、そろそろ消えることにした。


翌朝、5時

東の空が赤くなってきた。

Bossからもらった財布の中身を見ると、クレジットカードやIDが入っていた。

どうせ酔わせて、取り返すつもりだったのだろう。財布をベッドのわきに返し、

中の札だけありがたく頂いた。

フロントに行ってBossは寝ているので、先にチェックアウトすると伝えると。

Hiliが飲食して払った分をBossが、部屋に付けるように言ったので、その分が、

現金で、320$返ってきた。感謝感謝と手を合わせた。


朝焼けに染まるレインボータワーを出て、バスターミナルに歩いて行った。


Hiliは、ハラレの夜が明けたら空港に行き偽造パスポートを自ら申告して、不法

滞在で検挙される覚悟でいた。そうすれば、無料でイスラエルに強制送還される。

数か月の禁固刑の後、最前線の戦場へ送られるはずだ。


Hiliは、思わぬ現金収入が入ったので、もう少し旅を継続することにした。

Bossから頂いたお金を見てみる。ドル札で、1,000$程あった。ユーロ札で4,000E

財布ごとくれると言ったのだが、クレジットカードやIDカードは返してあげた。

朝まで約束通り付き合ったのだから正当な報酬だが、ちょっともらい過ぎか・・・

軍資金は増えたが、ここまでに25日を費やした。イスラエルに帰るとしたら・・

臨時休暇はあと5日。地図を見ながらどこへ行こうか考える。


Hili:どう考えても飛行機を使わないと間に合わないな・・・


バスターミナルは、今までの街とは大違いで、次から次へバスが来て出発していく

飛行機で帰るとしたらイスラエルに乗り入れるのは、カイロぐらいだ、ケニアか、

タンザニアからカイロに飛んでイスラエルに入るルートしかない。陸路で5日では

帰れないからタンザニアからの航空機に乗るしかないのだ。


Hili:タンザニアを目指すか!


ハラレからタンザニアまでは、モザンビーク、マラウィー経由の陸路しかない。

モザンビークのテテ行きのバスに乗った。ほぼ1日の長いバス移動にうんざり。

やっと、テテについたが、小さなキオスクがあるだけで、ビルもほとんどない。

歩き回って見つけたバラックのような安宿に泊まり、テラピアの姿揚げ、

マッシュポテトで、30$。観光客用にしても高すぎる。あきれて、飲まずに寝た。


早朝のバス停、ボロボロのバスが、、ギシギシいって止まった。行先はこの際、

どうでもいい、次のバスがいつ来るか分からないので、そのバスに乗った。

何度かボロボロのマタトゥーを乗り継いで、国境を越え、マラウィーに入った。

マラウィーのテッザは、交通の要所。多くの客がここで乗り換える。車も多く、

リロングウェ行きのマタトゥーにすぐに乗れた。エアコン付きのこの車は、普通

の音で走る。壊れそうな気がしない。リロングウェに到達できそうだ。


リロングウェも都会の街だが、ハラレと比べるとだいぶんこじんまりとしている。

資金も増えたので、高級ホテルのGolden Peacook の最上階を頼んでみた。

1泊850$、一番いい部屋でもかなり値打ちだ。眺めも最高。ガーデンテラスで、

ワインを飲んだり、プールで泳いだり。

Hiliは、ヨットハーバーで育ち、泳ぎも得意だ。Hiliが優雅にプールを泳ぐ姿を

プールサイドで他の客が見ている。プールから上がるHiliにボーイがバスローブ

をもって来て迎え、プールサイドのリクライニングチェアーに案内した。Hiliが、

バスローブを脱ぎ水着姿でくつろいでいると、花飾りのカクテルをウェイターが

持ってきた。逃亡兵の振舞ではない。


夜は、ホテルのルームサービスで食事をとると、街に出かけた。バーでHiliが、

フィッシュ&チップスをつまみに飲んでいると、スキンヘッドの男が入ってきて

同じものを頼んだ。旅行者は、安全だし安いからみんなこれを頼む。店を出て、

しばらく街を散策し、高級ブティックや宝石店を見て回る。

良い感じのテラスを見つけて入って行くと、先程のスキンヘッドが、マッチョな

男達に取り囲まれ、乱闘でも始まるのかと見ていたら、スキンヘッドが、構えて、

”アチョー~・・!”と、叫ぶとマッチョな男たちは、みんな逃げて行った。

あのスキンヘッドは、日本の空手家なのだと思った。

物騒な店は避け”Discorium”というカラオケバーで、死ぬほど歌って、飲んだ。


翌朝、マラウィー湖を北上するフェリー、イララに乗るため出発港のモンキーベイ

に向かうマタトゥーに乗った。一番奥に座るが、なかなか出発しない。町中を流し

ながら客を集めている。すると、昨日のスキンヘッドが、乗ってきて、Hiliの前に

座った。その後、客が増え、ぎゅうぎゅう詰めでモンキーベイに向かって走り出し

た。街はずれで、マツコ・デラックス並みの三姉妹が、手を挙げている。この車に

はもう乗れない。通り過ぎると思ったら、運転手は、車を止めて、みんなに一度、

降りるように言った。言う通りに降りる。中肉中背の男を4人ずつ後部席と中席に

綺麗に敷き詰めて、男の膝に女性を乗せる。Hiliも載せられたが、危険を感じて、

Hiliは、降りて逃げた。満員の車内にマツコ三姉妹が押し込まれた。どうなるかと

見ていると、スキンヘッドの男は、窓際でぺちゃんこになり顔だけ窓から出して、

呼吸をなんとか確保していた・・・無事を祈る・・


しばらく、待っていると他のマタトゥーが来たので、手を挙げて乗った。定員にも

満たない乗客で、快適だ。車も新しく、エアコンも効いていた。人生は不公平だ。


モンキーベイに着いて、降りようとすると、

運転手:ここには、何もない。フェリーにはまだ時間があるからこのまま乗ってい

    れば、飲食店の前で降ろしてあげるよ。

と、教えてくれた。マタトゥーが道を戻っていくと飲食店が数件、並んであった。

Hili:ありがとう!

朝食は、十分食べたが、14時になって腹も減った。一軒の食堂に入ってメニューを

見ると、

Hili:おっ、ティラピアが安い!12$か・・お願いします。これと、コーラ!

料理が来た。ティラピアの丸揚げと、マッシュポテト、が付いてきた。値打ちだ。

ゆっくり料理を楽しみ。地図を広げて、通ってきた国をペンでたどってみた。

この先は、マラウィー湖をフェリーで北上すれば、最後の国、タンザニアだ。

ダル・エス・サラームから空路で、カイロ、イスラエルへと帰る。空港の税関で、

捕まるのも覚悟の上で、臨時休暇が終わる前に帰れる可能性に賭けてみた。


フェリー乗り場まで、歩いて10分ほど・・・赤茶けた未舗装道路を車が通る度に、

土煙が上がって息もできない。白いTシャツが赤土に汚れる。フェリー乗り場に

戻ると、木陰にあのスキンヘッドが座っていた。声を掛けようとしたが、眠って

いるようだったので,やめた。

Hili:しかし、昨日から何度も出会うな・・マツコに潰されなかったみたいね。

話もしていないが、勝手に親近感が湧いてきた。

Hili:あの空手家、マッチョな男はやっつけたけど、マツコにはペチャンンコに

   されてたナ・・(ウフっ・)


他の乗客が乗り始めたので、Hiliもフェリーに乗り込んだ。窓際の席に座ると、

黒人のおばさんが、周りの席を埋めた。2等席は、満席だ。出発まで1時間以上

ある。別にやることも無いので座って寝る。


16時を回って、フェリーのエンジンが回り出した。気が付くと窓の下、壁を挟んで

甲板にスキンヘッドが寝ていた。窓下の壁にもたれて気持ちよさそうに・・・

Hiliは、少しいたずら心で、内側から壁をゴンと蹴った。スキンヘッドが、驚いて

目を覚まし、あたりを見回した。

Hili:えへっ・・気が付いてない・・日本人かな・・

リュックに付けられていた航空機のタグにJAPANとあった。


フェリーが動き出し、エンジンをふかして向きを変えた。排気ガスの中に船が潜り

客室の外は、真っ黒けで何も見えない。スキンヘッドがススで汚れ、男は息も出来

ずに、むせている。壁を隔てた内側と外側でこんなにも環境が違うんだと、咳こん

でいる男を哀れんだ。マツコ三人姉妹から逃げて、エアコン付きの車に乗り換えた

Hiliと、ぺちゃんこで、腹ペコで、煙にむせて、真っ黒になった男。


偶然は、怖い・・・喜ばせたり、落胆させたり・・そして、残酷だ。


アフリカの町のある子供は、親はナショナルパークの保護官で、子供も将来は後を

継ぎ、一生・・いや、何世代も家族は保護区の動物と一緒に補助金で生きていく。


隣の村の貧しい家庭の子は食べ物も無く眠るように死んでいる。


Hiliも同じだ。偶然の事故で親が死んで、9歳から働き、偶然の仕事が、最高級の

客船。偶然の男が金を与え、豪華な食事を楽しみ、逃亡者が、人殺しの仕事に復帰

しようとしている。


信じるものは、何なのか。守るべきものは何なのか。


壁の向こうで、真っ黒けで寝ている男が、気なってきた。どこからきて、どこへ

行くのだろう。

自分の話も誰かに聞いてほしかった。イスラエルに帰って仲間の兵士に話しても

現実感が湧かないだろう。この旅で知り合った人なら、お互いの話を共感できる

かもしれないと思った。


Hiliは、思い切ってスキンヘッドの男に話しかけてみた。寝転んでいる男をのぞ

き込んで、

Hili:すいません!一緒に食事に行きませんか!

(何度も貴方とあっているのに気が付いてないでしょう!)と、言おうとしたが、

エンジン音がうるさ過ぎて、聞こえていないのか、返事がない・・・

・・・

男:えっ・・食事ですか?・・うーん・・・お腹減ってないんで・・

男は、少し考えたが・・寝袋にもぐり込んだ。


Hiliは、そんなにお腹が減ったわけではないが、言った手前、食堂に行った。

結構おいしそうだ。周りの客の食べているものを見て、チキンソテーとティラピア

を頼んだ。味も格別だ。フェリーの中の食堂とは思えない美味しさだった。

Hili:せっかくお腹すいてるだろうと、誘ってあげたのに・・

と、思ったが、そんな考えは、偽善だった。本当は、自分の話を聞いてほしかった

だけだ。

食事が終わって、Hiliは、もう一度、男のところへ行った。

スキンヘッドの男は、デッキの手すりにもたれて夜空を見ていた。

声を掛けようと近づくと、男が急に振り返った。

Hili:ハーイ!何してんの・・

男:あーさっきの・・

Hili:一人で食べてきた。

男:美味しいものがあった?

Hili:フェリーの食堂にしては美味しかった。どこまで行くの?

男:タンザニアそれからケニアに帰る。

Hili:私は、イスラエルに帰るところ。Hili!よ。

男:・・・・?えっ・・

男は、リュックから何か出してペンを渡してきた。

Hili:男が出してきたIDのような紙面にHILIと書いた。

男:ヒリ!

Hili:Yes! I'm Hili! and You?

直:なお N、A、O 直です。

Hili:直、よろしく!

直:Hiliは、旅行?

Hili:旅行と言えば旅行だけど・・脱走かな。

直:脱走?囚人?俺は刑務所の先生の先生。

Hili:えっ、刑務官・・・

Hiliの顔色がこわばった・・

直:だいじょうぶ。今は刑務官じゃないし刑務官の先生だから逮捕権限は無いよ。

Hili:わたしは、囚人じゃない。兵士。

直:兵士!?

Hili:イスラエルは、18歳で男も女も徴兵があるの。入隊時の訓練だけ受けて

   一時帰宅で逃げてきた。

   来月までに帰らないと逮捕されるの。脱走兵!(Deserter)

直は、Hiliの英語の意味が分からない。そんな英語を聞いたことが無かった。

Hiliが言い直した。

Hili:逃げ出した兵士!(escaped soldier)

直:おーっなるほど!(笑)

直は、英語の意味が分かって嬉しそうだが、笑い事じゃない・・


と、こんな具合で、Hiliと直は出会った。


Hiliは、話したいことが、いっぱいあった。ここまでに、不思議にいろんな所で、

見かけていたこと。マツコ三姉妹の車でもHiliが後ろに乗っていて、そこに直が乗

って来て、Hiliは危険を感じて降りたこと。直がおっきなお尻にぺちゃんこになっ

てる時にHiliは、次の車でエアコンが効いた車内で快適だったこと。直は木陰で、

腹ペコなのにヒリは値打ちなティラピアにマッシュポテト付きのプレートで美味し

かったこと。それから・・・

Hili:さっき、壁を意地悪して、ゴンって蹴ったのわたし!フフッ、ゴメン!

直:フェリーが、何かにぶつかったと思ったよ。

全部、ぜんぶ、話せて、お互い自然と笑顔になった。Hiliも・・直も・・・


Hili:トイレ行ってくる。


トイレで鏡を見た。

Hili:げっ何!この顔、真っ黒!えーっTシャツも泥だらけ・・・

顔を洗って、歯を磨いて、髪の毛を吹いて・・・

Hili:そうだった・・着替えよっ・

飛鳥Ⅱで買ったワンピースに着替えて、腰に黄色いスカーフを巻いた。そして、

買っただけで使ってなかった新品の口紅を付けて、マニキュアも塗った。

Hili:ふーっ、ふーっ、ん・うん

鏡に口元とと指先を映して、ご満悦だ。


直:トイレに行ったままどっか行っちゃったか・・

壁にもたれて夜空を見上げた・・

直:その道の女じゃなさそうだな・・・しかし綺麗な子なのに・・真っ黒け・・


Hili:直!これ・・どう似合う

直:えーっどうしたの・・・綺麗だよ・・・

客室の明かりの漏れるところで、Hiliがくるりと回て、自分を見せた。

どちらからともなく、二人の指が絡まり寄り添ったままくっ付いて座った。

いろんな話をして、お互いの話を聞いて、笑ったり、悲しんだりして夜が更けた。

寒くなると直が寝袋を出し自分だけ入って、Hiliには、自分の革ジャンを着せた。

Hiliが自分も入りたいと言い出し、無理やり寝袋に足を突っ込んだ。一人用の寝袋

だったので、無理かと思ったが、革ジャンを脱いで、無理やりHiliが、入った。


二人で、一つになって・・・朝が来て・・・また、二つに分かれた。・・


フェリーが直が降りる予定のチペカに着いた。”ドガーン ガリゴリー”Hiliが、

壁を蹴った時より、はるかに大きな音で目が覚めて、直は寝袋から飛び起きて、

出て行った。Hiliは、寝袋の中で身支度を整え、直が、忘れていったのか、置い

て行ったのか・・JOCVと書いた青年海外協力隊のジャージを着てデッキの

手すりから乗り出し、岸壁を見た。直が岸壁に飛び降り、すっころんだ!

Hili:だいじょぶ!かっこわりーぞ!空手家!

直・・・・・・

Hili:もう、会えないよね・・・バイバイ・・


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