マラウィーの夜⑤飛鳥Ⅱで巡るアフリカの旅。南アフリカで降ろされた!GypsyRoseどこへ行く!
豪華客船 飛鳥Ⅱで、仕事をもらえたHili。船の中に世界中のものが待っていた。食事、歌、踊り、衣装、など世界中の文化が豪華に演出されていて、イスラエルから出たことがなかったHiliは、夢のような世界に夢中になった。が!執着の南アフリカで全員降りるという!?聞いてないよ!!GypsyRose dokoheどこへ行く!
⑤
第3曲 Gypsy rose その2
エジプトのサファガの町で、偶然入ったレストランで、急きょ皿洗いで雇って
もらえたHili。明日からは、豪華客船の飛鳥Ⅱに乗り込みレストランの雑用の
仕事がもらえた。経験したことが無い長い船旅での仕事に、胸躍らせながら眠
りについた。
翌朝、店に男が入ってきて、
エラン:おはよう!ヒンディーいるか!
Hili:おはようございます。
エラン:ヒンディーか? エランです。よろしく!
Hili:ヒンディーです。よろしくお願いします。
エラン:こっちは、エリフ、まだ見習い中。
エリフ:よろしくお願いします・・・
エラン:ヒンディー、15日間、船に乗りっぱなしだぞ、大丈夫か?
Hili:分かりません。そんなに長く、乗ったことないんで。ただ、子供のころから
マリーナで働いていて、小さな船には何度も乗ってるので、大丈夫だと・・
港は、歩いて5分ほど、エランについて行くと、港に巨大な客船が停泊していた。
Hili:すごい大きいですね。それにかっこいい!これに乗るんですね!
エラン:観光客の喜び方だな・・・仕事になったら愚痴の連続だぞ・・
船に乗り込んだ。チーフ・スタッフの案内で、それぞれの仮眠室へ案内された。
女性用は少し綺麗で静かだった。男性用は、一番下の階で、エンジンルームに
近く、停泊中のアイドリングでもかなりうるさい。エリフからは、早くも愚痴
が出た。
エリフ:ここで寝れるわけがない。最悪だ・・・
エランも、同じように思ったが、立場上だまっていた・・
料理長の男から配置表が配られそれぞれの部署ごとに説明を受ける。飛鳥Ⅱが、
日本を出港するときに中心メンバーは決まっていて、交代する人員が配置され
る。ヒンディー達もそれぞれ違う場所に配置された。エラン以外は、雑用係だ。
飛鳥Ⅱはサファガを出港して、ケニアのモンバサに向かう。その先は、タンザニア
のザンジバル島。を経由して南アフリカのケープタウンで、旅は終了。乗務員は、
そこで、全員入れ替わるのだが、Hiliは、そのことは、知らされていない。
乗船したその日から仕事に追われる。難しい仕事はない。乗客の前に出ることも
無いし、接客は専門のスタッフが行うので、Hiliの仕事は、厨房の奥で洗い物や
掃除。メインキッチンが終われば、バーやカジノ、それぞれの炊事場で洗い物を
片付け、部屋の掃除にゴミ出し、日本独特の仕事だが、ポップも書く。これが、
難しいし、時間がかかる。
休憩時間も有り船内で飲食することも許されるが、ドレスコードがあってHiliの
持っている服や清掃員のユニフォームでは出歩けない。もちろん飲食費は自腹だ。
毎日、厨房の奥から見ているだけの豪華で華やかな世界を、Hiliは一度でもいい
から歩いてみたいと思っていた。
Hiliは、所持金を数えながら
Hili:1400$ちょっとか・・・
チーフ・スタッフに許可をもらって夜遅く衣料品店に行かせてもらった。
Hili:すいません。このワンピース、試着していいですか!
白と青のワンピースを試着した。
Hili:わあ! 素敵!これください。
確かに美しいHiliが、艶やかな女性になった。しかし、その色は脱走してきた
イスラエルカラーだけど・・
Hiliは、嬉しそうに着たまま自分の部屋に戻った。98$の出費だが、満足の様子
だ。部屋には鏡が無い。窓のガラスに写してくるくる回って楽しそうにみていた。
1日15時間働いて、5日に1回、半日の休みが有った。6日目の午後からHiliは休みを
もらった。買ったワンピースを着て、船内の飲食店や用品店、カジノにも入って、
見学してみる。コンビニから結婚式場まで、大きな街と同じようになんでも売って
いる。ここにないものは、武器や爆弾売り場と、葬儀場ぐらいだ。
Hiliは、口紅とマニキュアを買った。高校を出てイスラエル軍に入隊し、オシャレ
などしたことがない。人生で、最初のオシャレが、飛鳥Ⅱでの買い物だった。
Hili:あっ、アニメの店だ。子供のころ見ていたセーラームーンのグッズも売って
いる。へー、これほしかったな・・
子供のころにあこがれたアニメのキャラクターの衣装を手に取って眺めている。
自分では着れないのに子供用のコスプレ衣装を1着買った。気が付くとすでに閉店
時間となってしまった。
船内の仕事はきつかったが、あっという間に終わる。短い休憩時間に船内を小走り
に見て回るのが楽しかった。日本の船なので、いたるところに日本文化が盛り込ま
れていてイスラエルから出たことがなかったHiliには珍しい物がたくさんあった。
飛鳥Ⅱは、ケニアのモンバサ、タンザニアのザンジバル島を経由しもうすぐ終着の
南アフリカのケープタウンに寄港する。エランから残りの給料をもらった。
エラン:ヒンディー、船酔いも無かったみたいだな。給料の半額、1000$だよ。
お疲れ様。ここからどうやって帰るんだい。
Hili:どうやって・・帰る?
エラン:ケープタウンでみんな降りるだろ。エジプトまで観光しながら帰るのか!
Hili:このまま、帰っていくんじゃ無いんですか?
エラン:乗務員は、日本人も含めて全員交代だよ。エリフも僕も明日の飛行機で、
帰る予定だ。
Hili:聞いてないです。・・・・
帰りの飛行機代を引いたら決して高待遇の仕事とは言えなかった。
偽のパスポートで、ビザも無ければ、エリフ達と一緒に飛行機では帰れないし、
だいたいエジプトに帰る意味も無い。
ケープタウンからHiliのあてのない旅がまた始まることになった。
港に入港し、客も乗務員もみんな降りた。代わりに整備士や機関士、内装職人が、
乗り込み飛鳥Ⅱの整備をしながら日本に帰るようだ。
南アフリカ、ケープタウンは、ロンドンを超える大都会。Hiliが見たことも無い
ような高層ビルが、延々と続く。世界中のすべてがここにある。富も貧困も。
行くあてもないHiliだけど、今はアフリカの一番南にいる。北へ向かうしかない。
ヨーロッパまでは、一番遠いところまで来てしまったが、多少の金が入った。
Hili:飛行機ならイタリアまで行けるんだけどな・・
逃亡の身では、陸路しかない。安い乗り合いバス、マタトゥーが、集まっている
場所に来た。出来るだけ遠い場所に一気に行くほうが安上がりだ。行先板を見て、
ビューフォートと、あった。
Hili:結構遠いな・・よし、乗ってみるか。 いくら?
運転手:10$だよ。
Hili:安っす!100Kmは、ありそうだけど・・
例のごとく、何度も止まって客を拾う。いつまでたっても町を出ない。
そうです!満席にならないと出発しないのです。10時に乗って10時半、
やっとまともに走りだした。1時間ほどでパールの街についた。
客がみんな降り、運転手も降りた。
そのまま座っていると、他の運転手が乗ってきて、どこまで行くと
聞いてきた。
Hili:ビューフォートまで行くよ。
運転手:この車は、ケープタウンに戻るから、他の車を探してくれ。
Hili:げっ、だまされた!
騙されたのか、Hiliが分かってないのか・・100Km以上も走って10$のわけがない。
行先板の意味は、ビューフォート方面に行くという意味だったようだ。終点パール
までで10$。適正価格だ。次の車を探す。ビューフォートと案内のある車がある。
Hili:どこまで行くの?
運転手:客がいれば、タウズリバーまで行くが、ウースターで戻ってくるかも・・
なんとも大らかな計画だ。とりあえず乗ってみた。ウースターまで10$適正価格。
結局、ウースターで降ろされた。13時になって腹もすいた。食べ物屋も無い・・
しばらく歩いたが見つからないのでコーラと上げ菓子を買って食べた。
何度か乗り継ぎ、ラングズバーグまで来た。16時を回っている。今日は、移動を
あきらめた。綺麗なレストランがあり。食事もできそうだ。朝からろくに食べて
いない。レストランに入って、おすすめを聞いてみる。
店員:おすすめは、ロブスターかビーフステーキです。
メニューを見るとどちらも50$以上する。一番安いフィッシュ&チップス20$
ミネラルウォーターも金をとられて8$。少し腹が立った。
Hiliは、旅行などしたことがない。イスラエルから出るのも今回が始めて。その国
ごとに物価も違うが、そんなことも知らない。いわれた金額を払うだけで、節約す
ることも考えつかない。店員に宿を聞いた。
店員:Laings Lodgeが、安全でお値打ちよ。
レストランから歩いて5分ほどで、ラングス・ロッジについた。清潔そうな宿だ。
中に入って聞いてみた。
Hili:すいません、今日は泊まれますか。
従業員:泊まれます。女性一人ですと、100$です。
ちょっと高かったが、日も暮れているのでここに泊まる。部屋に入って地図を見な
がら・・イスラエルまでは、遠いところにいるなあと思っていた。15日間、飛鳥Ⅱ
ではお金をもらいながら、いろんな経験をして、知らないものを見て楽しかった。
同じ距離を帰るとしても、稼いだ金では足りそうもない。地図をみながら、
Hili:1,000$あっても、マタトゥーの乗り継ぎじゃあ・・・南アフリカから出られ
るかな?
だいたい、どこに向かっているのだろう。軍隊で、人の殺し方、生き残り方、怪我
の応急処置や病気の治療を学び、男女の経験もさせられ、習った格闘技を実践し、
痴漢野郎をノックアウトできるようになった。飛鳥Ⅱの中で、世界中の料理や文化
をみて、知らないことが山ほどあることに気づかされた。
なのに今は、ひとつの国を出られずにもがいている。この地図で見るイスラエルは
なんと小さな国なのか・・・疲れている。静かに落ちて眠った。
朝食は、ビュッフェスタイルだった。久しぶりに思いっきり食べられる。Hiliは、
張り切って料理を持ってきたが、しばらく、粗食で、胃が小さくなっているのか
すぐにお腹がいっぱいになってしまった。時間いっぱいまで粘って、果物を押し
込んだ。椅子から立ち上がると吐きそうだ。
ホテルに観光パンフレットが、置いてあった。何枚かもらって部屋で見ている。
南アフリカの観光地、ジンバブエ、ザンビア、マラウィーなど、近隣の国の情報
もたくさんあった。ヴィクトリアの滝と野生保護区のパンフレットに見入った。
人間の小ささと自然の雄大さ、イスラエルでは想像もしたことがない壮大な景色
に、行ってみたいと思った。
Hili:ビクトリアフォールズか・・野生動物保護区のサファリツアーもあるんだ。
よし!ここに行こう!残りのお金は、1,500$か・・マタトゥーを乗り継い
でいたら行けないな。とりあえず、ビューフォートまで行って考えるか。
少し、Hiliも旅行慣れしてきた。目的地ができると移動距離と金額を考えるよう
になる。逃亡しているのは、忘れているのかもしれない。ビューフォートに着く
と、長距離バスを聞いてみた。プレトリアまでの長距離バスがあった。今日の
午後出発で明日の夕方につく、200$かかるが、夜行バスなら宿泊代が掛から
ない。マタトゥーより安くて速い。貧乏旅行には、必須のアイテムだ。
プレトリアからブラワヨも高速バスで移動できる。ブラワヨは、ジンバブエなの
で国境を超える。
Hili:このおばちゃんのパスポートで大丈夫かな・・ジンバブエに行くには国境
を超えるしかない。
翌朝のバスで、ブラワヨ行きのバスに乗った。国境の町、ムシナに夕方到着予定。
ブラワヨには、明日の朝の予定だ。窓の外の景色もどんどん変わる。見たことも
無い赤茶けた土だけの世界になる。木も少なくなって空気が乾燥してきた。
豪華客船飛鳥Ⅱの旅行を経験したHiliにとっては、過酷な旅が続いているが、
さすが兵士として訓練をしてきただけのことがあり、揺れるバスでも平気で眠る。
国境の町、ムシナについた。税関の職員が、バスに乗り込んできて、乗客のパス
ポートにスタンプを押していく。顔もろくに見ないで、問題なく通過した。
Hili:黒人の職員から見たら私もこんな顔に見られているのか・・
偽パスポートの太ったおばちゃんの写真を見て、ちょっとショックだった。
バスの周りは、真っ暗で、街灯もないし、すれ違う車もいない。南アフリカでは、
夜間は危険なので、バスは運航しないと言っていたが、ジンバブエは比較的安全
なんだろうと思った。昼間からバスの中で寝ていたので、夜は眠れない。
朝方になり・・うとうと・・刺すような朝日に起こされた。ブラワヨに着いた。
整然とした街並みのブラワヨには人気がない。朝早いからだろうか・・
バスの発着所の人にビクトリアフォールズへの生き方を聞いた。
係員:2時間後の10時発のバスがあるよ。
急に腹が減ってきた。食べるところは無い。レストランが11時に開店する
との話なので、食べ物はなさそうだ。小さな売店で飲み物を買って持っていく。
気候も良くてすごしやすい。湿度も適度で、のども乾かない。のんびりとした
空気で安心感が漂っている町だ。
ビクトリアフォールズまでは、200km程になった。貰ってきたパンフレットや
地図を見ながら、これから行こうとしている景色に思いを寄せながら・・・
うとうとし、地図を見てベンチに座っている。・・・誰もいない・・・
バスの発車場所に人が集まってきた。どこにいたのだろう観光客も増えてきた。
10時を過ぎて、やっとバスが来て、ほぼ満席で出発した。
観光客がほとんどだ。途中ルパネの町で昼食で1時間ほど休憩があった。
ファーストフード店やレストラン、ホテル、こじんまりと分かりやすい。
お決まりのフィッシュ&チップスが、やっぱり一番安い。
バスが、くねくねとした道を抜け、深い渓谷を渡りビクトリアフォールズに、
到着した。Hiliは、所持金を確認し、観光案内所に行くと、
Hili:すいません。宿泊場所を予約したいんですけど。
店員:今日からですか?
Hili:今日の1泊と、明日のザンベジ国立公園のサファリツアーを予約したいん
ですけど。500$だと難しいですか?
店員:お一人ですか?
Hili:そうです。
店員:お一人だと少し割高ですけど・・Drift Inn というロッジで、サファリ
ツアー込みで490$です。ここから歩いて行けます。ビクトリアの滝にも
無料で送迎してくれますよ。
Hili:お願いします。
目的地としていたビクトリアフォールズに着いた。これから見たこともない、
大自然の中に向かうのだと心躍っていた。