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マラウィーの夜①二人で一つの寝袋で、一つなって生まれる命。幸せな未来と残酷な無力。

青年海外協力隊でアフリカ、ケニアのナイロビに赴任した森嶋直斗。たまたま乗船した旅行先のマラウィーのマラウィー湖を渡るフェリーで、イスラエルの女性兵士、Hiliヒリとであった。

マラウィーは、ケニアより南に位置するアフリカの小国。国土の半分以上をマラウィー湖が占めていて、フェリーが重要な移動手段だ。日本人はほとんど見かけない。ただ、空手は有名で、日本人は、みんな空手の達人だと思われている。治安も比較的安全で金さえあれば、美味しい食事もある。皆さんも一度訪れてみてはいかがでしょう。

マラウィーの夜

この物語は、昨年、先行配信されている VintageNOTE のアルバム

”マラウィーの夜”に収録されている10曲の歌詞から

小説を想像して構成していく物語です。

1.マラウィーの夜

2.オレンジ色の爆撃

3.Gypsy rose

4.戦火の兵士はママになった

5.Hanapecha Sailormoon

6.途絶えたEmail

7.守り育てた贈り者

8.豊かさの裏側で

9.残酷な無力

10.宇宙に広がる青い空

Spotify、AWA、AmazonMusic、LINE MUSIC、他130ヶ国の音楽サブスクで、

配信中です。曲を聴いてあなたのストーリーを考えて見てください。

森嶋直斗の人生をあなたのストーリーで、変えてしまえ!


それでは、1曲目アルバムのタイトル曲。”マラウィーの夜”を聞きながら。 


アフリカの小国、マラウィー。マラウィー湖を渡るフェリーボートで知り合った、

森嶋直斗とイスラエルの女性兵士、Hiliヒリ。風が抜ける甲板は夜風が寒い。

二人で一つの寝袋で、一夜を共にした。

平和な日本で暮らしていた直斗は、TVでイスラエルの自爆テロのニュースを見て

いた。報復の爆撃で、オレンジ色に染まる夜空。直斗は、Hiliを思い出した。

「元気でいるだろうか・」

当ても無く書き込んだフェイスブックの投稿から再びHiliと繋がる事になった。

マラウィーの夜から始まった、直斗とHiliの幸せな未来と残酷な無力。

                    マラウィーの夜、始まります。

1990年ケニアのナイロビ

亘:直さん長髪じゃマラウィーには入れないみたいですよ。

直:どういうこと・・?

亘:マラウィーの法律で、男の髪型とか、女性の服装とか決まりがあって男は、

  直さんみたいな長い髪は入国禁止です。


吉田亘、青年海外協力隊員で、直斗の1年後輩。土木作業の専門家。

森嶋直斗、同じく協力隊で、電子工学の専門家。刑務庁のヘッドオフィスで刑務官

の技術指導員をしている。直斗は、首都ナイロビで都会の生活。亘はナイロビから

100キロ離れたエンブの町からナイロビまで建設をしている高速道路の土木作業

の技術指導員をしている。週末にはナイロビの町で飲むために協力隊のドミトリー

に泊まりに来る。二人は、お互い酒が強いので、よく一緒に飲みに出る。


ケニアに赴任前の直斗が、名古屋鉄道の社員専用の床屋で話している。

直:来月から、事前訓練で東京の広尾に行きます。名鉄は、今週で一旦休職です。

床屋:気を付けて行ってきてよ。飲みすぎると、強盗に襲われるよ!

直:分かりました。帰ってくるまで髪、切りません。帰って来たらお願いします。

床屋:2年?3年かな・・・どのくらい伸びるかね・・

日本を離れる前に行きつけの床屋の姉ちゃんと、たわいもない約束をしていた。


直の自宅。

直:ケニアで床屋なんて行ったこと無いからな・・・髪の毛どうしようかな・・

青年海外協力隊では、自分の任務国の近隣諸国に研修旅行に行くことが出来る。

直は、タンザニア、マラウィーを予定して、今週出発の予定だ。

直:もう、安いチケット取っちゃったからなあ・しょうがないから自分で切るか。

  ハサミと髭剃りしか無いからな・・

上半身裸でパンツだけになり風呂場で髪の毛を切る準備を始めた。よし!

いきなり頭皮に沿ってハサミを入れた。長い髪を握り頭皮に沿ってザクンと切る。

鏡を見ながらザクザクと無造作に切った。

直:これじゃあ落ち武者だな!

後ろの方は、手を切りそうで怖いので後にした。前髪を切ったところから髭剃りで

頭皮に沿って剃り上げる。普通のT字型髭剃りなので、髪の毛が刃の間に挟まって

すぐに剃れ無くなる。髪の毛の挟まった髭剃りを掃除しながら前側の見える部分を

1時間かけて、きれいに剃り上げた。

直:困ったな・・後ろをどうやって切ろうか風呂場の鏡を見ていると鏡の肩越しに

人影が見えた。メイドのヘレンが帰って来たのだと思い振り返ったら、、

ヘレン:ギャー!!! ウェーオイオイオイオイ!!

走って逃げて行った。後ろは、いつもの髪型で、振り返ったらスキンヘッド・・

驚くのも無理はない。

直:心配しないでください!履いてますよ!と、言ってみたが・・

  パンツなんて見てないか・・

直は、文房具の先が丸くなったハサミに買えて慎重に後ろ側も切り始めた。ある

程度ハサミで切って後は髭剃りで。2時間以上かかってスキンヘッドが完成した。


明後日、マラウィーに出発する。今日は、亘と待ち合わせて飲みに出る予定だ。

直は、一足先にドミトリーに入り図書室で胡桃沢耕史の飛んでる警視シリーズ

を読んでいる。

亘:直さん早いですね。また、胡桃沢ですか・・

直:おー待ってたぞ!と、直がカーボーイハットを取って・・

亘:げーっ、なんで・・スキンヘッド?

直:髪、長いと、マラウィーに入国できないんだろ!

亘:入国できてもそれはそれで、やばいんじゃないですかね・・

亘の警告が、現実のものになるとは、直は、想像もしてなかった。


ナイロビのケニヤッタ国際空港からマラウィーへ4時間ほど、ケニア航空の

安チケットで出発した。


マラウィーの空港に到着した直は、税関で止められて、別室へ連れていかれた。

青年海外協力隊のパスポートは、紺色の外交官用のパスポートだ。通常は質問

無しで、スタンプのみで税関はフリーパス。係官が直のスキンヘッドを見て、

パスポートの写真と違うので本人に目ない様子。パスポートが偽物かもと、疑っ

ている。税関の係官が日本領事館に電話を入れて確認している。

アフリカ人は日本人の顔がのっぺりしていて、みんな同じに見えるんで、髪型を

変えられたら誰だか分からない。ところが、持っているのが外交官パスポート

なので、もしホンモノだと、国際問題になって担当の税関職員は飛ばされる。

疑っているけど気さくに話しかけてくる。


結局、領事館から日本人の職員が空港まで呼び出されて・・・・

職員:森嶋さんですよね。

直:そうです。

職員:なんで、頭、丸めちゃうんですか!

直:長髪だったんで、時間も無いし、金もない、自分で・・

職員:パスポートの写真と違うから通せないって・・呼び出されました。

   めんどくさい事しないでくださいよ!

職員は直の頭に黒い鞄を被せて、パスポートを横に並べて見せると・

職員:ね。本人でしょ!

直:こんにちわ!森嶋です!と、作り笑顔でお道化た。

税関の係官も納得して、入国できた。


直:すいません。ついでに街中まで乗せてってよ!

職員:しょうがないですね。早く乗って!

無言で、街まで乗せてってくれたが・・最後まで怒っていた。直は、亘の警告は、

こう言うことかと反省したが、そんなことでは収まらない事になるとは・・・


酒に音楽、女好き、の直は、日の明るい間は調子が出ない。すべての金は、夜に

みつぐ。寝るだけのホテル代は安いに越したことはない。チョーぼろいホテルに

チェックインしてベッドに入った。マラウィーとケニアに時差は無い。昼間でも

直はよく寝た。


オレンジ色の夕日をなぜか感じ取るこの男。カーテンを開け窓を開けると、夕日

が雲をオレンジ色に染めていた。

直:良い天気だ。行くか・・

この男が感じ取れるのは、オレンジ色だけじゃない。初めての町でも飲み屋街の

場所が自然にわかる。場所だけじゃなく、いい店か、悪い店かも分かる。

美味しいかどうかは・分からない。

何件か素通りして目星を付け、ぐるりと一回りして少し遠いところを散歩する。

犬のマーキングと同じで自分の存在を見せているのだ。危険な町ほど重要な時間

だ。アフリカの町で白人や東洋人は目立つ。白人の方が多いし植民地時代からの

歴史もあり、東洋人の方が、希少で、怪しくて、神秘的で金払いが良くて空手家。

日本人=空手家である。

空手家が、街をぶらつくと危険な奴は目をそらす。目をそらした奴にはしっかり

挨拶して顔を覚えさせる。向こうは絶対忘れないが、直は全く覚えてない。

直:身辺整理完了。

目星をつけた店に戻った。

直:こんばんは・・いいですか。ビール冷たいの。

冷たいのと、言わないと常温のビールが出てくる。

白人の客が、注文しているのを見て、

直:あれなら問題ないな・・フィッシュ&チップスとソーセージ、お願いします。

油で揚げたものは、安全だ。それ以外は危険だからだ。ビールは瓶でそのまま。

そもそも水が細菌だらけだからコップも危険だ。ビールを2本飲むと店を出た。


目星をつけていた次の店へ、

直:ジンある?と、言ってギルビーズのボトルを指さした。

店員:あります。

直:ボトルで買うと、いくら?

店員:10ドルです。

直:高いよ3ドルで、

いやいや、10ドルでもボトルなら安いが・・


店員:無理です。

直は、コースターの下に2ドル挟んだ。

店員がギルビーズの新しいボトルを持ってきてカウンターに置いた。

コップをコースターに置くと2ドルをチップとして持って行った。

直:コンビーフある?

店員が店の奥からコンビーフの缶詰を持ってきて、そのままカウンターに置いた。

直が、1ドル札を渡して両眉を上げた。両眉を上げるのはOKの合図。

首を傾げればNO。分からないときは、首を傾けて両肩を上げる。順番が大事だ。

両肩を上げてから首を傾けると、宣戦布告をすることになるので注意が必要だ。

コンビーフの1ドルの時の意味は、お釣りはチップで良いよというOKの合図。

コップを洗う水は危険だがロックで飲む氷はアルコールで消毒するからOK。

薄くなったらもちろん危ない。胃の中のアルコール度数を10%以上に保ってい

ないと、変な病気に感染するから危ない。コップに氷を山盛り入れてジンを注ぐ、

かき混ぜずにコップを少し揺らすと、氷の隙間から半分ほどを喉に流し込んだ。

コンビーフの缶詰を付属の金具で、、ねじねじして、パかッと、缶詰を開けて、

そのままかじってつまみにする。

しばらくすると何人かの女が入ってきた。店の奥のボックスに座った女の中の

一人が直の横に来た。

女1:なんかおごって!

直:知らん顔をして両肩を上げた。

その道の女性Aだ。


女連や男だけのグループ、ヒッピー風の女も入ってきて少しにぎやかになった。

音楽のボリュームも上がり会話もしづらくなってきた。他の女性も何人か来て、

最初からいる女たちと話をする。男に連れられて女が出て行った。

直はトイレに立った。小便器で立っていると後ろに気配を感じた。横目で見ると、

背の高い男だ。普通に小便をしていると少しづつ後ろに近づいてきて私が終わると

後ろから抱きしめてきた。戦う気配はないので変わったスキンシップかとも思い

じっとしているとズボンの中に手を入れようとしてきた。そういう種類の人だと

気づき、手加減して後ろ肘で溝内を突き、振り返って膝で顔面を蹴り上げた。

便所の床に倒れこんだ男?だと思うやつは、

男?:何すんのよ痛~いい、自分で誘っといて・・

すると便所の外から何人ものマッチョな男の中の男のような男?が入ってきて

転んでいる男?を抱き起し、作戦会議か?

”男? 違うの? ちがう チガウノ 違うのよ!”と、動揺している。

直:どうかしたか!

男の中の男のような連中は、逃げて行った。何が違うのだろう?

細菌だらけの水で、良く手を洗って、飲みなおしだ。


ギルビーズのボトルが半分ほどなくなった。変な奴らとも事を起こしたし、

店を変えようかと思っていると・・一人の女が直の耳元で声をかけた。

女2:強いのね。私ももらっていい?ボーイさんソーダちょうだい。

女2は、ソーダを自分の金で買って、直の氷を自分のコップに入れて、

ギルビーズを勝手に注いでソーダ割にすると、コップを直に差し出して

乾杯を催促する。女2は、そういう女Bらしい。

もしここで、直が知らん顔をしていれば女はソーダとコップを持っていなくなる。

直が乾杯すれば、今夜は一緒だという意味になる。直は乾杯した。なるほど・・

好きなタイプだったようだ。


解説しよう。

女タイプA:毎晩何回も店とホテルを出入りする。流れ者でこの町に詳しくない。

女タイプB:一晩で、客は一人。この町を縄張りにしているのでこの町に詳しい。

女2とカウンターで飲みだした直は、持ってきたマラウィーの地図を開いた。

いまいるリロングウェの町を指さし、

直:明後日までにタンザニアに入りたい。交通機関を教えてくれ。

女2は鉄道の駅の場所、長距離バス乗り場、小型の乗り合いバス、マタトゥーを

乗り継ぐ方法などを教えてくれた。興味深かったのが、フェリーに乗る方法だ。

モンキーベイまでマタトゥーで行ってフェリーに乗る。フェリーでマラウィー湖を

北上してチペカまで行きバスでタンザニアに入る。12時間フェリーに乗るが、

夜中のうちに移動するので、時間も効率的だし、ガタガタ道でマタトゥーに揺られ

るより楽そうだ。

女2が奥の女たちに何やら言うと、3人ほどの女が近づいてきた。

女3,4,:違うんだ 違うみたい、強いらしいよ!どっちが?どっちも!へー

女2:もらっていい?

直:良いよ。

女2が、ソーダを2本頼んで自分で払った。女4,5が勝手にソーダ割を作った。

直:これ、どうぞ

と、ギルビーズのボトルを渡すとグラスに注いで、

女3,4,5:頂きまーす。

女3:何んで、その頭で来たの?

頭を飲みに来るたびに取り換えることもできないのに・・何が言いたいのだろう・・

女2が、直の腰をグッと引き寄せ、ゲイの合図よ!と、直の頭を爪先で撫でた。

女3:ゲイにもいろいろあるけど・・最初の人がソフト!

直:あの子?、と最初の女1を見た。最初の女1は、男だったらしい。

                (*この表現もOUTかな??*)

女3:トイレの子が、ハード! どっちかだと思ってソフトじゃなかったから

ハードだってことになって・・ハードのあの子たちがいっぱいこのお店に集まって

来たのに・・違ってた!

直:あー・・違うってそういう事!それわ知らなかった。

女2:違うなら、こっちかってことで・・

直:そう!こっちです。

と、直が、女2の腰を引き寄せた。

こっちの人達は、話が好きで情報収集が上手だ。国営の新聞よりは正確だし面白い。

直は少し残ったギルビーズのボトルを自分のカバンに入れ、女2とホテルへ戻った。


翌朝4時、あたりはすっかり明るい。身支度をしていると女2が目を開けた。

直:ありがとう。行くよ。フェリーに乗ってみる。

女2:昼まで寝てていい? あんだけ飲んで、すごいんだね。しばらく動けない・・

直:フロントに言っとくよオヤスミ!


リロングウェからフェリーが出発するモンキーベイまで陸路で100キロあり2時間

以上かかる。直接行くのをあきらめて途中のデッザまで行くマタトゥーに乗った。

街はずれまで乗客を拾いながら行き、満席になったら目的地に向かう。満席とは、

定員ではなく、車が満杯でもなく、オーナーが決めた目標乗車人数のことだ。

当然大きな人ばかりだと窮屈だし小さな女性が多いと余裕がある。余裕と言っても

呼吸ができるぐらいで、圧死する可能性が低い程度。


この日は、余裕がない日で残念なことになった。ほぼ満タンで街はずれまで行き

もう乗れないだろうと思っていたらマツコ・デラックス風の三人娘が道路わきに

待っていた。この車には乗れないと思っていたら運転手は、車を止めて、一度皆

降りろという。何事かと思って降りると中肉中背の男を選んで乗せている。直も

選ばれ運転席の後ろ窓際に座った。男ばかりで助手席に2人、中席に4人座り、

私が一番右、後部座席に4人。これで11人ボロボロのハイエースは、すでに定員

オーバー。男たちの上に女性陣を座らせる。何人かの女は、危険を感じ乗らずに

逃げた。新しい向こう見ずな8人を2段目に座らせると、そこにマツコABが後ろ

の席に、頭から潜り込んでいった。ひと際デカイ、マツコCが中席に詰め込まれ

ギシギシとハイエースが発車した。直はシートの右端に5cmほどの隙間を見つ

けて右側の片方の尻をそこに押し込み、顔の周りに、若干の余裕を生みだした。

直は、自らの才能に感謝した。次の町で何人か降りた。後部座席で一人の女性の

意識がない。乗客が運転手に知らせて、車が止まりみんな一度降りた。運転手が

その女性に水を飲ませて幸い意識が回復した。その女性はそこで下ろされその後

どうなったかは分からない。結局マツコABCは、デッザまで乗って行き、何人

か意識不明にして途中下車させた。途中で意識不明になった人たちには、不謹慎

だが、生き残った直にとっては、マツコも使い方次第かとも思えた。

運転手になんで大きい人を最後に乗せるのかと後で聞いたら、大きな人で窓を、

ふさがないと人が窓から飛び降りて危険だと言っていた。確かにマツコABCは、

窓からは出れない。苦しくなった人が命がけで走行中の車の窓から脱出すると、

危険だから、マツコで窓を封鎖して乗客の安全を確保していると誇らしげな運転手

に納得させられた。


いくつかの町を経由してモンキーベイに着いた。時刻は14時予想よりだいぶ時間

が掛かった。フェリーは、16時発。朝4時の出発で早すぎるかと思ったが、良い感

じの到着時間だ。フェリーの中は物が高そうだ、何か食べておこうと思った。

いつも同じものしかないが、ティラピアの唐揚げは旨そうだけど高い。10ドルも

するティラピアはあきらめて2ドルのフィッシュ&チップスにする。

16時発のフェリーに人が乗り始めた。

直:フェリーは目の前にある。慌てることはない。


フェリーの煙突から黒い煙が噴き出し始めた。15時40分、そろそろかと思い。

フェリーに乗り込んだ。一番下に車や荷車が乗っている。二階が二等席。人がいっ

ぱいで歩く隙間もない。客室に入るのはあきらめた。二等客室の外の甲板に座っ

た。夕日が遠くの山に傾いた。16時30分まだ出発しない。よくあることだから心

配もしない。そのうち出発するだろう。夕日が遠くの山に沈みだした。17時前やっ

とフェリーが動き出した。エンジンを吹かすと物凄い振動と音が襲ってくる。

人のしゃべる声は全く聞こえない。フェリーが向きを変えてエンジンを吹かした。

真っ黒い煙に包まれ爆音が体をぐちゃぐちゃに揺さぶる。思わず着ていた革ジャ

ンを頭から被った。風が流れ、フェリーが巡航速度に達すると幾分エンジン音が

収まり恐怖感はなくなった。それでも通路の床に寝転ぶと頭が揺れる。皮のリュ

ックを枕にすると少しは振動が少なくなった。


フェリーにはレストランもあるが、すごい人で行く気にもならなかった。辺りは

すかり暗くなり、横になって見上げると大げさなほどの星が満員電車のように犇

めき合っている。人間は慣れるのが得意だ。いつの間にかこの騒音の中で眠った。

寝返りをうって、仰向けにあくびをしていると、誰かが上からのぞき込んでいる。

何か話しているけど、聞こえない。起き上がって向き合うと、その人が耳元に近

づき話しかけてきた。

人:食堂に行きませんか!

直:??初めて会って、食堂へ?何があるのかな?

人:一緒に食事しませんか!

直:えっ

と、暗くて顔が見えない。位置を変えて二等客室の明かりが漏れる所に移動し、

直:食事ですか?

と、聞き直して、明かりにその人の顔が照らされた。ブロンズの長い髪に青い瞳。

綺麗な人だが・・何か違和感が・・よく見ると顔がススで汚れている。にっこり

笑た歯も若干黒い。白いTシャツから豊かな胸が透けそうだが、そのTシャツが

また汚い。袖もほころび穴だらけ。ジーパンに至っては原型が想像できない。

直は、最速コンピューターをフル回転させて状況を分析した。出した答えは、

直:お腹いっぱいなんだ。申し訳ない。

その人は、汚いTシャツで汚い顔を拭いながら、さわやかな笑顔で暗闇に消えた。


一人になって、解析結果を考察してみよう。

女性は間違いなく美人。背は165㎝ぐらいで金髪の白人。青い目で、やせ型。

胸とお尻は大きめ。Tシャツにノーブラ、ジーンズは長かったであろう、短パン。

サンダルで、持ち物は、小さなリュックサック一つ。

考察結果

貧乏旅行のバックパッカーで、マラウィーに来てみたが金は無い。二等客室は、

満員で入れない。外のデッキは寒いので、日本人を見つけて、誘ってみれば、

食事と暖かい部屋が手に入る。おごらせよう!と、声をかけた。

間違いないと確信した。そもそも、分析してもしなくても直も金が無かった。

昨夜の女2に調子こいてみついでしまった。フェリーに乗った時点で10ドルしか

ない。フェリーの食堂に行けるわけがない。頭を使ったら、腹が減ってきた。

直の革ジャンのポケットには非常食がたくさん入っている。どこに何が入ってい

るのかは、覚えていない。

カナダで買ったSサイズの革ジャンは、169cmの直には、ブカブカ。ポケットが、

表、裏、合わせて・・・・とにかくいっぱいポケットがある。順番に探していく

と新聞紙に包んだ手作りビーフジャーキーがあった。

直:ラッキー、これがあれば一晩持つな。

持ってきたギルビーズのジンをラッパ飲みするとビーフジャーキーをかじった。

さすがにジンのストレート体がすぐに温まる。エンジンの爆音もバスドラの音に

聞こえてきた。良い調子で酔っぱらっていると。背後に人影を感じた。

直:ハードかソフトか・・こんなところに来るんだからハードさんだな・・・

気配を感じながら相手の腕の動きをかわして、振り向いて構えた。

女性:はい!何してんの・・

直:あーさっきの・・

女性:一人で食べてきた。

他のカモを見つけておごらせたんだと思った。

直:美味しいものがあった?

女性:フェリーの食堂にしては美味しかったよ。

金持ちを見つけたんだな・・1等客室か、いや特別室か・・やり手だな・・

女性:どこまで行くの・

直:タンザニアそれからケニアに帰る。

女性:私は、明日イスラエルに帰る。私はHili!

直は聞いたことのない名前でよく聞き取れない。首をかしげていると・・

女性が、文字を書くジェスチャーをした。

直がリュックからメモが無いので国際免許証を出して開いた。女性がペンで、

  HILIと書いた。

直:ヒリ!

Hili:Yes! I'm Hili! and You?

直:なお N、A、O 直です。

Hili:直、よろしく!

直:Hiliは、旅行?

Hili:旅行と言えば旅行だけど・・脱走かな。

直:脱走?囚人?俺は刑務所の先生の先生。

Hili:えっ、刑務官・・・

Hiliの顔色がこわばった・・顔色がこわばったので、直も”本当に囚人”

  なんだと・・思った。

直:だいじょうぶ。今は刑務官じゃないし刑務官の先生だから逮捕権限は無いよ。

本当に囚人だと思って話した。

Hili:わたしは、囚人じゃない。兵士。

直:兵士!?

    服装をしたから見上げて、Hiliの顔を見た。

Hili:イスラエルは18歳で徴兵があるの。男も女も。入隊時の訓練だけ受けて

   一時帰宅で逃げてきた。

   来月までに帰らないと逮捕されるの。脱走兵!(Deserter)

直は、Hiliの英語の意味が分からない。そんな英語を聞いたことが無かった。

Hiliが言い直した。

Hili:逃げ出した兵士!(escaped soldier)

直:おーっなるほど!(笑)

英語の意味が分かって嬉しかったが、笑い事じゃない・・

直:それで・・どうするの?

Hili:だから明日帰って入隊するの・・・

直も、いろんな国の事情、徴兵制度も理解していた。イスラエルはパレスティナ

やシリアと長年戦争状態にあり自爆テロや空爆が繰り返されている。

直:笑い事じゃなかった。ごめん・・

Hili:直は、日本人でしょ。なんでケニアにいるの?

直:日本政府から派遣されたボランティアで刑務所で先生にTV修理を教えてる。

先生が、受刑者に教えて、出所後に仕事ができるように。

Hili:ほーっカッコいいじゃん!

直:やってることは、地味だよ・誰も見ても分かんないし・・


たわいもないことをいっぱい話した。おばあちゃんと二人暮らし、訓練から帰っ

たらお婆ちゃんが入院。家は爆撃で無くなって、帰るところが無い。入隊したら

シリアとの国境へ赴任する。3年は帰れない。・・たわいもない話じゃ無かった。


Hili:トイレいってくる。

直:ああ・・

金目の物を持っている観光客じゃないと分かったから、戻ってこないなと思った。


やっぱり帰って来ないと、思いながらジンをラッパ飲みしてビージャーキーを

かじった。しばらくして、小走りで走ってきたヒリが、嬉しそうに、

Hili:直!どう!

明かりの漏れている所に直の手を引っ張って行って、くるッと回て自分を見せた。

直:どうしたの・・・綺麗だね。見違えた・・・・

Hili:似合う?

直:うん・・・

急に緊張してきた。顔を洗って、たぶん化粧して、間違いなくワンピースに着替

えて・・Tシャツとジーパンは??捨てた?リュックの中?どうでもいいか・・

それと、、間違いなく、歯も磨いた! だって、息がスースーした・・から・・

Hili:寒くなったね。

風が避けられるところに移動してくっついて座った。正面に有った大きな星が、

西の空に傾いて山陰に沈みそうだ。直が持っていた寝袋に二人で足を入れた。

好きな音楽の話、歌手になりたかった話、ギターは挫折した話、入隊した時、

上の前歯が虫歯で、ひっこ抜かれて差し歯になった話。今度こそ、たわいもない

話をいっぱいした。

Hili:抜かれる時、抜かれる前にギャーって悲鳴上げちゃってみんなに笑われて

私も笑ってる間にスコッって、抜かれちゃった。

直:どうでもいい話だな・・はは!

Hili:どうでもよくない!!乙女が、前歯無くなった話だよ!

どうでもよくない話だったようだ。

マラウィーは、アフリカの内陸の国だ。朝方は、かなり寒くなる。

直:寒いね。この革ジャン着て良いよ。

Hili:直が寒いよ。

直:俺は、こうする。

と、言って寝袋に肩まで潜り込んだ。すらりと揃えたHiliの長い足を抱き枕に。

Hili:えーっズルい!私も入りたい・・

直の寝袋は外国製の大きなものだったが、それでも二人は窮屈すぎる。

直:さすがに二人は、無理だよ交代しよう。

Hili:大丈夫だって!私細いから・・

細い足をくねくね、確かに細いが、、豊かに出っ張ってるところもあるから・・

Hili:やーだ・・くすぐったい・・寝袋引っ張って・・いけそう・・もうちょ・

いけるよ・ほら!

寝袋が詰め放だいのビニール袋のようにパッツパツになった。

直:いけたけど・・かっこよかったワンピースがまくれあがってるよ。(笑)

Hili:エーッチ!想像するな!

想像も何も・・

Hili:温かいね。

Hiliが、触れ合っていた頬をずらし唇を重ねようとしたが、2cmずれて・・

直の鼻をくわえた。ニンニク臭が・・・

直:Hili!ティラピアの唐揚げ食ったな!

Hili:残念でした、チキンソテーで~す!

一つの寝袋で二人が一つになった。一つになったまま、いつの間にか眠った。

にぎやかに輝いていた無数の星も照れて雲に隠れた。


頭の横を誰かが歩いていく。うっすらと空が明らんできた。

寝袋の周りに革ジャンやらワンピースやら・・丸まって落ちていた。

周りの人の動きが慌ただしくなってきた。


ドガーン大きな音、フェリーが大きく揺れた。

直:チペカに着いた!Hili!起きて、チペカに着いた。行かなくちゃ・・

甲板に丸まっていたHiliのワンピースを直が、寝袋に押し込んで、Hiliが、

代わりに直のズボンを手探りでつかんで、渡し・・3秒で出撃準備完了!

直:僕は、チペカで降りないと・・

甲板に放り出してあった革ジャンをはおり、リュックを背負って。

Hili:また会えるかな・・・

直:生きてれば、会える!

お互い手を伸ばしたが、船が大きく揺れて、指先は空を切った・・・・・

直が1階に下りるとフェリーは岸壁を離れ始めていた。暗がりの岸壁に、

思い切ってジャンプした。よろめいて転びながら直は、2階の欄干を見上げる。

手も振らず、手すりにしがみついているHiliが、乗り出して・・声は・・

赤らんだ空にHiliの顔はシルエットで・黒い影・・・髪が風に流れていた。


第1曲マラウィーの夜♪ おわり


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