属性が多い男
周りの人に聞いた性癖を全部のせました。
私は、よく、良くないモノを惹き付けると言われている。幼い頃は、警備はどうしたと父親が城内公園管理室にクレームを入れる程度には、一人にさせてはいけない幼女だった。ちゃんと乳母も護衛もいての連れ去り未遂。不審者検挙率が私が出現するポイントで鰻登り。
可笑しい話である。
陰気な灰色の髪に、憂鬱そうな黒い瞳。顔は十人並みで、髪色は覚えられても顔を覚えられたことはとんとない。灰色の髪は、王都に十人に六人位はいるので、「あの灰色の髪の…」と言われた所で私を探すのは難しい。
そう。
難しいはずなのだ。
「見付けたよ、僕のお姫様」
その男は、私を拉致しようとする変質者と同じように、幾多の灰色から私を見付けたようだった。そっと私に美しい箱を手渡し、跪く。艶のあるビロードの上品な紫色のそれは、正方形15センチほどの大きさで、厚さは指2つ分くらい。まあ、なんか良くない瓶詰めの液体とかではなさそうなので、開けてみた。
貢物とか、人体の一部や液体以外では初めてのことである。中級階級の貴族には可笑しい位の護衛を撒いて来た甲斐があったかもしれない。
お姫様…とか台詞が、ちょっと、まあ直接的な言い方すれば、頭湧いてるのかなとか思わないでもないけど。
「……わぁ」
思わず感嘆の声が出た。
金色と銀色が繊細に絡み合っている。美しい細工は、蔦だろうか。中央に煌めく宝石は、見たことも聞いたこともない静かな青に仄かに橙が揺らめく不思議な石である。
「くれるの?」
思わず聞いてしまった。「知らない人から物を貰わない」と今日だけで16回くらい乳母に約束させられている。それを破ってしまった訳だが、いや、まさかこんなに美しい物を貢がれるとは思わなかったのである。
盗聴は困るが、現在地探索魔法くらいだったらギリギリいいんじゃない?
彼女の護衛が聞いたら、いくら雇い主の娘で護衛対象であってもよせ! と揺さぶりたくなる案件であった。
「勿論です。貴女でしたらさぞ似合う事でしょう」
「ティアラとブレスレットかしら?」
「首輪と足輪です」
「……はい?」
「首輪と足輪です」
「いえ、聞こえなかった訳じゃないのよ」
金の髪の青い瞳。少し身長は低いかもしれない。跪いている目線が低い。纏っている服は、上質な物だ。自分と同じ貴族か、それに類する地位のある男とみえる。
「是非、それを身に纏ったあなたと行きたい場所があるのですが」
これはもう。アウトである。全力で、箱を受け取ったことを後悔した。速やかに蓋を閉め、男に押し付けようとするが、のけ反るようにして、頑なに受け取ろうとしない。
「困ります」
主に、この馬鹿高そうな宝飾品()を処分しなければならないうちの護衛とかが。
「あっ」
力の限りに箱を押し付けようとした私は、思い切り男の反らした胸にあててしまった。しかし、男が口から漏らしたのは、喘ぎ声である。
首輪と足輪を送った相手に胸を押されて喘ぐ人類に初めて遭遇し、私は、思わず箱を持ったまま、後ずさる。
「姫」
「こ、来ないで」
「大丈夫です! 怯えないで」
怯えている? いやどん引いているんです。
「な、何が大丈夫なんです?」
「ほら、姫。犬が欲しかったでしょう?」
なんで知っているんだ。どうしよう、これが恐怖……! 助けてハッサン! 護衛の貴方が今とても恋しい…!
「わん!」
男は、首を振って獣の耳を生やした。
「じゅ、獣人……!」
これが、犬獣人のヒモ束縛系甘えたな乳首弱い頭おかしい不審者だった婚約者との出会いである。
なんで婚約に? それは、正式な高貴な隣国の使者だった男が、友好の証に婚約を〜となった際に私を猛プッシュしたせいである。外面が良い上、背が低い顔の良い男に脅威を感じるかと言ったら否だ。
しかも、彼、チワワの獣人だったので、お近付きにと完全獣人になって、うだつの上がらない中年貴族を落としやがった。いや、私の父親なんですがね。
「ちなみに、僕、蛇が混じってるんですけど」
「チェンジ!!!!!!」
クーリングオフ(婚約取り決め書面取り交わし)期間は過ぎていたので、残念ながら、ご成婚コースであった。