10.【side】アンガス、改心する。
――――街で初めてのAランク冒険者が誕生したその後ろで。
さきほどまで、この街で“最強”だった男アンガスは全てを悟った。
(オレは、あの人にはぜってぇ勝てねぇッ!)
それまで高圧的な態度をとっていた彼に、そこまで思わせるほど、アリシアの戦いぶりは鮮烈であった。
彼女は超基本スキルの<バリア>だけで、あらゆる上級スキルを弾いた。
まるで「お前など足下に及ばないから出直せ」とそう言われているようだった。
(オレはBランクに上がって、完全に浮かれたんだ)
街で最強。
つまり周囲に敵なし。
そんな状況に完全に酔っていた。
(だが、そんなオレをあの人が醒ましてくれた)
自分よりはるかに強いやつがいる。
そのことに気が付くことができた。
アンガスは地面から這い上がると、そのままアリシアの下へと向かう。
自分に向かってくる角刈りの男の気迫に、アリシアは少したじろぐ。
だが、次の瞬間、
「無礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした!!」
アンガスは腰を90度に折り曲げて謝罪した。
「……え?」
突然の出来事にアリシアは驚いて目を丸くした。
何かの間違いかと思ったが、目を瞬いてみても、やはり目の前で男が頭を下げている状況に変わりはなかった。
「えっと、あ、はい。あの……とりあえず頭上げてください」
アンガスの勢いに圧倒され、アリシアは口をもごもごさせながら答えた。
するとアンガスは顔を上げ――キラキラした目をアリシアに向けて言った。
「これからは姉貴と呼ばせてください!」
「え? あ、姉貴?」
急転直下の出来事に、アリシアは困惑する。
「っていうか、わたし年下だけど……」
アリシアは18歳になってクラス分けの儀式を終えたばかり。
一方、アンガスは既に冒険者として研鑽を積んでBランク冒険者にまでなっている。
年齢は間違いなくアンガスの方が上だった。
だが、そんなことはもう彼には関係がない。
「オレは姉貴からもっと学びたいんです! だから舎弟にしてください!!」
「え? え?」
何度も目を瞬くアリシア。
だが、アンガスはそんなことお構いなしに続ける。
「オレは一生姉貴についていきます!」
「おい、話聞けよ」
思わず男口調でツッコミをいれるアリシア。
だが、
「はい、姉貴!」
そう明るく返事をするアンガスだった。
――アリシアは自分を導いてくれる聖女様だ。まさか舎弟にしてもらえないなどということはみじんも考えていなかった。
「す、すげぇ。あのアンガスを舎弟にしちまった」
「あいつ、あれでもB級冒険者だぞ」
「あの聖女様すごすぎるだろ」
と、周囲の人々がそんな会話を交わす。
(え……わたし、こいつに絡まれ続けるの……? めんどくさすぎない?)
アリシアは心の中でそう呟く。
――――こうして、アリシアはなぜか“舎弟”を手に入れてしまったのであった。