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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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89話


ーー彼女が死んだのは全部僕の所為だ。何処で間違えたのだろう……。あの時、彼女を手放さなければ良かったのだろうか? それとも彼女と出会った事自体が間違いだったのだろうか? もう何処で間違えたのさえ僕には分からない。




 あの日から一ヶ月が経った。

 あれからクラウディウスはフローラという魔女に操られていた事が認められて、無罪とされた。ただ付け入る隙を作ったクラウディウスにも原因の一端があるとされ王位継承権は剥奪され王太子には新たに第二王子であるハインリヒが就いた。

 今クラウディウスは城を出て、街外れの屋敷で暮らしている。外出などは自由に出来るそうだが、暫くの間は監視が付くそうだ。


「態々すまない」


 クラウディウスに呼ばれたレンブラントは彼の屋敷を訪れていた。長椅子に向かい合って腰を下ろす。彼と会うのはあの日以来で、少し気不味い空気が流れる。


「いや、構わないよ。それで僕に頼みって?」

「散々迷惑を掛けておいて頼める立場でない事は分かっているんだ。それでも君に頼みたい」


 ハインリヒからの要請で、レンブラントを自分の側近にしたいと言われたそうだ。


「君がハインリヒの側近になってくれれば、旧王太子派の者達の気も済む。それと、私の代わりにこの国の行く末を任せたい」

「……」

「ははっ……自分でも何を言っているのかと分かってはいるんだ。私の所為で民を苦しめ不安を与えてしまったというのにな。……私はあの時、焦っていたんだ。父上は昔から優秀な弟のハインリヒに目を掛けていた。君達の前では虚勢を張っていたが、本当は何時か王太子の座を奪われるかも知れないと恐れていた。本当の私は情け無い臆病者だったんだよ。軽蔑しただろう? だから君が命を掛けてまで護る価値のある主君ではなかったんだ、すまないレンブラント、本当にすまなかった……」


 何度も謝罪しながら彼は頭を下げた。そんな彼の姿に自分の不甲斐なさを思い知った。クラウディウスはずっと苦悩していたのだ。彼の事を大切な友人だと主君だと言いながら、全く気付いていなかった。もし気付ける事が出来ていたならこんな未来は来なかったかも知れない。


「クラウディウス、もう謝らないでいいんだ。僕達も君の苦しみや不安に気付けなかった。すまない、クラウディウス。僕は君の友人失格だ」

「そんな訳ないだろう。君は最後まで私の王族としての誇りを失墜させない為に、自らを犠牲にしてまで護ってくれたんだ。本当に君には感謝しているんだ」


 あの時クラウディウスの首を刎ねていたなら、レンブラントは自害するつもりだった。主君の命を奪ってまで生きる事は貴族の誇りに掛けて出来ない。


「また来るよ」


 話を終えたレンブラントは部屋を出た。すると部屋の外で待っていたエルヴィーラがレンブラントと入れ違いに中へと入って行く。以前なら適当に声を掛けていたが、今は気不味さもあり互いに目すら合わせる事はなかった。


 


 あの日から二ヶ月が経った。

 レンブラントは今ハインリヒの側近として働いている。毎日朝方登城し、ハインリヒの執務室で夜遅くまで仕事をして帰路に着く。以前と余り変わらない生活をしていた。

 

「レンブラント〜!」


 執務室で書類に目を通しているとユリウスとその部下が入って来た。彼等は騎士団員であるが、基本ハインリヒの護衛役の任についている。

 ユリウスの背後には以前からいたカミルとマインラートの姿があり、更にその背後から現れたのは最近遠方から赴任してきた女騎士のベアトリス・ブルトンだ。やたらにレンブラントに絡んでくるのが鬱陶しく感じている。


「今日も美男子だわ〜素敵!」

「……」

「もう、つれない所も可愛いんだから」


 無表情、無反応のレンブラントを気に留める事もなく一人燥ぐベアトリスを見てヴェローニカを思い出した。彼女はかなり特殊ではあったが、ベアトリスもそれに近いものを感じる。あの後ヴェローニカはかなり憔悴した様子で自ら修道院へと戻って行ったそうだ。溺愛されて育った彼女は思っていた以上に打たれ弱ったらしい。


「ねぇ、レンブラント」


 しつこく話し掛けてくるベアトリスを横目に内心ため息を吐く。それにしても各々個性や差はあるが、レンブラントには全て同じ様にしか見えない。改めて思う、やはり女性は苦手だ。





◆◆◆


 以前から頻繁に借り出されていたが、ハインリヒが王太子に就任してからは正式に彼の護衛として働いている。ただ副長のユリウスは騎士団の仕事もあるので、多忙な日々を送っていた。そんな中、レンブラント・ロートレックがハインリヒの側近に抜擢されたと聞いたユリウスは眉根を寄せた。ハインリヒの思惑は透けて見えるが、それに彼が大人しく乗ったのが意外であり腹立たしくもあった。

 今の彼は空っぽだ。生気をまるで感じられない。まるで生ける屍の様だ。そんな状態の人間に国の中枢を任せるハインリヒも、それを受け入れたレンブラントに対しても腹が立って仕方がない。


「あの男の一体何処がいいんだ?」

「顔よ! あんな美男子中々お目に掛かれないわ。こんなむさ苦しい男ばっかの中で過ごしていたら絶対に拝めないもの」

「悪かったな、むさ苦しくて」


 ベアトリスはレンブラントに懸想しているのか、ずっと付き纏っている。カミルではないが理解に苦しむ。

 彼女はユリウスが以前赴任していた遠征先で知り合った女騎士で、少し前に赴任してきたばかりだ。城で常駐している女騎士は今の所彼女であり、それだけ女性の騎士は珍しい。


「ハッ、だが顔しか取り柄がないんだろう」

「あら、顔は大事よ。それに彼は公爵家の嫡男だしハインリヒ殿下の側近なのよ? 将来有望じゃない。それに人を寄せ付けない雰囲気? そこもまた可愛いのよねー。なんて言うか手負いの獣みたいな? 私が守ってあげたい! って思うの」


 昔の無駄に愛想を振り撒いていた優男なレンブラントをベアトリスが見たら驚愕するかも知れない。それだけ彼は人が変わった。生気がないだけじゃない。明るく愛想が良く友人ごっこ如く人と群れるのが好きだった彼は、今は人を避け無愛想になり無口になった。


「無駄口を叩いていないで、仕事に戻れ」


 ユリウスが注意するとベアトリス「は〜い」と口を尖らせカミルは怠そうに持ち場に戻って行った。








 

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