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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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82話


 何時もより早起きをして、念入りに身支度を整え普段着ではなく正装に着替えた。何故なら今日は卒業式だからだ。

 ティアナは昨日無事長旅から帰還した。正直間に合わないと思っていたので胸を撫で下ろす。学院生活に殆ど良い思い出はないが、やはり卒業式くらいはケジメとして出席したい。それに悪い事ばかりでは無かった。生まれて初めてミハエルという友人が出来た。ただ卒業したら彼とは接点がなくなり疎遠となってしまうだろうと思うと少し寂しくなる。


「銀髪、お前どんだけ休むんだよ」


 ティアナが登院をすると、待ち構えていた様にミハエルに声を掛けられた。


「すみません……」

「全く、一ヶ月近く休むなら俺に言え。……余り心配掛けるな」


 朝から不機嫌そうにするミハエルに怒られるが、彼なりの優しさが伝わってきて胸が熱くなる。こんなやり取りをするのも今日が最後だと思うと切ない。


「銀髪は卒業したらどうするんだ」

「えっと……」

「どうせ決まってないんだろう?」


 大半の女子生徒は卒業したら嫁ぐのが一般的だ。だがティアナに今婚約者はいない。最近は色々と立て込んでいたので考えるのを後回しにしていた。


「あー……その、嫁の貰い手が見つからないなら俺が貰っ……探してやろうか」

「ありがとうございます。でもお気持ちだけで十分です」

「……」


 ミハエルには心配を掛けてばかりだ。最後まで気を使わせてしまったと苦笑する。


「ミハエル様は、卒業後はどうされるんですか」

「俺は……兄上の仕事を手伝うつもりだ」

「それは……」


 どちらのと続け様としたが、丁度その前に鐘が鳴った。話はそのままになりティアナとミハエルは教室へと向かった。



「ミハエル様、お世話になりました。ミハエル様の友人になれて本当に良かったと思っています。ありがとうございました」

「卒業するだけだろう。別に何時でも会える。だから、たまには連絡しろ……あ、後、困った事があれば遠慮とか絶対にするな、直ぐに言えよ! その……ゆ、友人なんだからな! 後、また銀髪のラズベリーパイが食いたい」


 ミハエルと挨拶を交わし別れた。馬車に乗り込み去って行く彼を見送っていると背後から足音が聞こえてきた。


「卒業おめでとう」

「ありがとうございます、ユリウス様」


 ティアナはユリウスに手を引かれ馬車に乗り込んだ。


「本当に良いのか」

「はい、もう決めましたから」

「正直、私は反対だ」

「ユリウス様……」

「あの方は君が思う程甘くない。良い様に利用されるだけだ。私なら……」


 両手を握り締めティアナは一瞬押し黙った。ユリウスも何かを言い掛けるが口を閉じた。

 

(分かっている。ミレイユ様にも同じ様な事を言われた……それでも)


「私は私が為すべきべき事をします」


 


◆◆◆



 良く晴れた昼下がり、レンブラント達は城の中庭で男女六人円卓を囲み昼食を摂っていた。レンブラントの向かい側に座るクラウディウスの隣にはフローラが上機嫌で座っている。その二人の左右にはヘンリックとテオフィルが気不味そうにしており、レンブラントの隣にはピッタリと寄り添う様にヴェローニカが座っていた。少し前までフローラの場所はエルヴィーラが、ヴェローニカの場所はティアナが座っていた……。そう思うと遣る瀬無くなり無性に苛立つ。それはクラウディウスやフローラ、ヴェローニカに対してだけでなく無力で不甲斐ない自分自身に対してもだ。だがこれは全て自分で選んだ結果だ。


「そう言う訳だ。レンブラント、頼めるか?」

「え、ごめん聞いて無かった……。なんだい」


 その場の視線の全てを集めている事に気が付きレンブラントは苦笑し謝罪をする。ぼうっとしていてまるで話を聞いていなかった。


「ここ最近、郊外で偽聖女の目撃が相次いでいると報告が上がっている」

「偽、聖女?」


 一体何の話だとレンブラントは目を丸くした。フローラを見ると先程までとは打って変わり苛々とした様子でテーブルを指で叩いている。仲間内といえ流石に態度が悪過ぎると呆れる。これで王太子妃になるというのだ、考えられない。


「聖女を騙るなど、私のフローラを冒涜する許し難き所業だ。これは何を措いても優先すべき事案であり、至急調べて貰いたい」


 すっかりフローラの虜であり言いなりになっているクラウディウスを見ているのが辛くて仕方がない。ヘンリックやテオフィルも同じ思いの様で終始顔を顰め黙り込んでいた。だがレンブラントは快諾をする。自分は演じなくてはならないのだ。


「分かった、任せて」

「待って、レンブラント様」


 席を立つと隣にいるヴェローニカが猫撫で声で名前を呼んで腕に絡み付いてくる。寂しいと言って中々放そうとしない。内心鬱陶しさを感じながらもレンブラントはやんわりとそんな彼女の手を解き笑って見せた。


「僕も君と離れるのが寂しいよ。直ぐに帰るから、待っていて」


 頬に口付けをして甘く囁くと、顔を赤らめ満足そうに笑っていた。踵を返し背を向けた瞬間、レンブラントの顔からは表情が抜け落ちた。


(吐き気がする)




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