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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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75話

 枯れた花に小瓶の液を垂らすが何の変化も現れない。また失敗だ。成功ならば花は蘇り花を咲かせる筈だった。

 あれから一ヶ月、ティアナは屋敷に篭り花薬を作り続けた。だが一度たりとも成功はしていない。


「やっぱり、私には無理なのかな……」


 思う様にいかないティアナは弱音を吐く。

 花薬が出来れば国王の病状も回復し、きっとクラウディウスの暴走を止めてくれる筈だと考えた。そうなればレンブラントの心労も改善される筈だ。だが少し短絡的だったかも知れない。


「失礼致します。お客様がお見えです」


 行き詰まり項垂れていた時だった。予想もしない人物がティアナの事を訪ねて来た。





 今にも鼻歌でも歌い出しそうな程上機嫌な彼女は、客間に通すとティアナが声を掛ける前に勝手に長椅子に座った。挨拶すらする間も無くモニカにお茶と菓子を催促する。


「あぁ、アップルパイとか貧乏臭いのはやめてね。お茶も高級なものじゃないと(アタシ)の口に合わないから」


 こんな言いた方は失礼かも知れないが、かなり厚かましい。しかもアップルパイが貧乏臭いと言われ少しムッとした。

 

「初めましてで良いのかしら」

「直接はお会いするのはこれが初めになります。ただ以前教会でフローラ様をお見掛けした事はございます」

「あぁそう」


 フローラは遠慮なく出されたお茶に口を付け焼き菓子を口に放り込む。余り行儀の良い振る舞いではない。


「それで本日は私などに何のご用意でしょうか」

「アンタを(アタシ)の侍女にしてあげる」


 突然の彼女からの意外な申し出にティアナは首を傾げる。ほぼ面識もない自分を侍女にしたいとは一体……。


「あの……」

「態々聖女であるこの(アタシ)が自ら来てあげたのよ。普通は感謝して、寧ろそっちから頭を下げてお願いするべきじゃないの?」


 フローラの言動に呆気に取られ言葉が出ない。言っている事が無茶苦茶だ。ティアナが想像していた人物とは大分かけ離れていた。あの時、彼女が花を咲かせた奇跡の瞬間をこの目で見た。その事からして確かに彼女は聖女なのだろう。だがだからと言って王太子妃に相応しいかと言われれば到底そうとは思えない。

 ティアナは無作法にお茶をゴクゴクと飲み干す彼女を見る。これではまるで我儘な小さな子供だ。


「確かに聖女であるフローラ様のお世話をさせて頂けるのは大変光栄な事ではあります。ただ申し訳ありませんが辞退させて頂きます」

「はぁ? 意味分からないんだけど。(アタシ)の話聞いてたの? (アタシ)の侍女にしてあげるって言ってあげてるのよ⁉︎ ちゃんと分かってる訳⁉︎」


 フローラは段々と苛々とした様子になり、遂には声を荒げた。それでもティアナは毅然とした態度を崩さず彼女からの申し出を突っ撥ね続けた。


「これ以上お話頂いても私の意思は変わりません。申し訳ありませんがお引き取り下さい」

「そんな事言って、後から絶対後悔するわよ‼︎」

「……」


 捨て台詞を吐いたフローラは乱暴に扉を開け、帰って行った。


 嵐が去った……。

 一人になった部屋で、ティアナは大きなため息を吐いた。一体何だったのだろうか。ほぼ初対面の相手に対して不躾にも程がある。それにしても何故彼女は自分を指名してきたのだろう。それも彼女の言っていた通り態々ティアナの元に足を運んでまで……。

 内情をティアナが知る事は出来ないが、使用人が足りていないという事は考え辛い。何しろクラウディウスのフローラへの溺愛振りは今や社交界で知らない者はいないくらい周知の事実であり、そんな彼が彼女に不自由させているとは思えない。もしかするとティアナがクラウディウスの側近であるレンブラントの婚約者である事が関係しているのだろうか……。

 だが理由はともあれ余り彼女とは関わりたくないのが本音だ。もしティアナがフローラの侍女になれば更にエルヴィーラに悲しい思いをさせてしまうだろう。優しく慈悲深い彼女を裏切りたくなどない。


「さてと、また頑張らないとね」


 今日の事は忘れる事にして、気を取り直したティアナはまた花薬の作製に取り掛かる事にした。




◆◆◆




「本当最悪! 何あれ、お高くとまっちゃって。だから嫌だったのよ!」


 屋敷に戻り自室に入ると腹立ち紛れにクッションを掴むと扉に向かって勢い良く投げ付けた。するとタイミング良く中に入って来たアルノーがクッションを受け取る。


「その様子だと交渉は上手くいかなかったのみたいだな」

「言っておくけど(アタシ)は悪くないわよ⁉︎ あの女が悪いんだからね! (アタシ)が折角侍女にしてあげるって言ってやったのに、それを断ったのよ⁉︎ 許せない‼︎」

「全く、アンタは血の気が多くて仕方ないな」


 呆れた様に笑いながら頭を掻く彼にフローラは鼻を鳴らす。


「ディアナ・アルナルディは、こちら側に引き入れたいって話しただろう。彼女の存在は今後脅威になり得る。それに利用価値も高い」


 全然面白くない。あんな娘の何が良いのか分からない。確かに自分とは違う。遠回しに彼はあの娘を特別だと言いたいのだろう。だがそんなアルノーの言い回しも気に入らない。


「別にあんな娘一人大した事ないでしょう?」

「フローラ」


 アルノーは嗜め様としているが絶対に譲らない。


「こちら側に付かないなら潰せば良いだけよ。そうでしょう?」


 同意を求めると彼は肩をすくませ苦笑する。


「あぁそうだわ! (アタシ)良い事思いついちゃった」


 妙案を思いついたフローラは不敵に笑いアルノーに耳打ちをした。


 

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