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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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74話


ーー国王が倒れた。


 これまで特に持病もなく健康な身体だった国王が急に倒れ床に伏せている。今の所は命に関わる程ではないが、余り病状は思わしくないと聞いた。



「クラウディウス、流石にこれは無理だ」


 国王が床に伏せる様になってからは、王太子であるクラウディウスが摂政を務めている。以前の彼だった何の問題もなかった筈だが、今の彼には正直不安しかない。


「何がだ」

「何がって、いきなりこんな制度を制定するなんて無茶だと言っているんだ」


 ここの所何度同じ様なやり取りをしたか分からない。レンブラントのみならずヘンリックやテオフィルも同じ様に苦言を呈しているが、彼は全く聞く耳を持たない。


「聖女はこの国に恩恵を齎してくれる尊い存在だ。その彼女に報いる事の何が悪いのか理解に苦しむ」

「クラウディウス、レンブラントが言いたいのは恩恵を齎す所か民が苦しむだけだと言っているんです」


 話が平行線のまま進まない所にテオフィルが助け舟を出すが、クラウディウスは肩をすくめるばかりでまともに取り合おうとはしない。


「別に平民から徴収するなどとは言っていない。そもそもこれまで貴族に対しての規制が緩かったんだ。このままでは王族の権威そのものが失墜してしまうかも知れない。他国ではもっと貴族等から税を徴収している国も少なくない。それに比べれば微々たるものだ」

「他国は他国のやり方があります。突然そんな制度を定めれば、必ず不満に感じる者達が出で来ます」

「そうなれば黙らせれば良いだけの事だ」


 冷たく言い放つ彼に以前の面影はない。レンブラント達は茫然と立ち尽くした。まさか彼の口からそんな言葉が出るなど考えられなかった。

 

「お、おい、レンブラント!」


 放心状態のまま踵を返す。背中越しにヘンリックが呼び止める声が聞こえて来たが構う事なくそのまま執務室を後にした。



 その後、聖女への信仰心を示す為にと寄付と称し貴族等から金品を徴収する信仰金制度が定められた。但し寄付とは名ばかりで実際は強制的に納めなくてはならず、寄付の拒否又は不満を述べる者は容赦なく粛清対象として資産の没収や国家反逆罪の罪を着せられ拘束された。


「今年の収穫祭は中止か」


 数百年前に祭りが行われる様になってから初めての事だった。

 信仰金が徴収される様になり予想通りの事が起きた。貴族等は自らの領地の税を一気に引き上げたのだ。中には領民に負担を負わせない様にと全ての負担を自ら負う領主もいた。これまでほぼ一律だった税は領地により徐々に格差が生まれ始めており貴族のみならず民も混迷を極め祭りを行う余裕などはない。


「非常に残念な事です」


 昼間だというのに静まり返る城内をレンブラント達は暗い表情を浮かべ歩いていた。執務室の扉を開け中へと入るがクラウディウスの姿はない。 

 最近彼は仕事もそこそこにフローラの元へ通い詰めている。真面目で曲がった事を嫌う彼が嘘の様だ。レンブラントはため息を吐き山積みにされた書類に目を通していく。その中で頻繁に目にする嘆願書の文字に眉根を寄せた。





◆◆◆



 手紙を認め折り畳むと丁寧に封筒に入れ封を綴じる。それをお茶を運んで来たハナに渡した。

 あれからエルヴィーラとは頻繁手紙のやり取りをする様になった。ただ直接会う事はない。人目が気になるらしくエルヴィーラは自邸に引き篭もっている。ならばティアナが彼女に会いに行けば良いだけの話だが、オランジュ家にはヴェローニカがいるのでティアナが行く事はない。


「今年は収穫祭しないんですね」


 お茶菓子のケーキを切り分けながら詰まらなそうにミアがぼやいたのを聞いて、もうそんなに経つのだと切なくなった。去年はレンブラント達に誘われて生まれて初めての祭りに参加した。初めての事ばかりで胸が高鳴ったのを良く覚えている。


(愉しかったな……)


 そう言えば彼とはあれ以来会っていない。たまに届く定例文の様な内容の手紙を眺めてはあの日の事を思い出し苦しくなるばかりだ。


ーー彼が恋しい。


彼に会いたい。顔が見たい。声を聞きたい。名前を呼んで抱き締めて欲しい。ただ今はまだ会うべきではないと思う。また彼を困らせてしまう。それに彼は今大変な状況に立たされている。国王が倒れ王太子のクラウディウスが摂政となり実権を握る様になった。そして新たに制定された制度の所為で今国は荒れ始めている。


ーー信仰金。


 聖女への信仰心延いては王への忠誠心とされ、貴族等は毎月多額の金品を国へ納めなくてはならなくなった。拒めば粛清される。少しずつクラウディウスへの不信感や不平不満が高まりつつある。この状態が続いて行けばそう遠くない先この国はダメになるかも知れない。彼はこれから一体どうするつもりなのだろうかと心配に思っていた。

 自分もレンブラントの為に何か出来る事があれば良いのに……自分などでも役に立てる事が何かないかとティアナは毎日思案している。そして思い立った事がある。正直自信はない。こんな時にロミルダが居てくれたら……そんな弱気になってしまうがグッと堪える。


ーー今私がすべき事、それは花薬を作る事だ。





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