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【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。  作者: 秘翠 ミツキ


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69話


 最近、クラウディウスの様子が変わった。少し前までは悩みがあるのか上の空でいる事が多かったが、今は妙に機嫌が良い様に見える。

 昔から感情を余り表に出すタイプでは無かった彼故に一体何があったというのかと心配になる。以前悩みがあるのかと尋ねた事はあったが、話したくない様で誤魔化されてしまった。

 幼い頃から何時も一緒だった彼の事は、大抵の事は理解しているつもりでいたが今は彼が何を考えているのか全く分からなくなってしまった。


「例の彼女、街の至る場所に出没しているらしいですね」

「あれだろう? この間教会にいた赤髪の娘だろう」


 テオフィルが言うように、教会で見かけた娘はあの日を境に街の凡ゆる場所に現れては奇跡を起こしていると報告が上がっている。

 蕾をつける一輪の花を咲かせる奇跡、確かにあの時レンブラントもこの目で見た。魔法の様に花開く瞬間は確かに奇跡と呼んでも良いだろう。ただあの娘が本当に聖女ならば、国を揺るがす程の存在となり得る。何しろこの国にはもう何百年と聖女なる存在が現れていない。以前ティアナが言っていた通りお伽話だと認識する人間が大半だろう。そこに突如『聖女』が現れたら一体どうなるのか……正直レンブラントには想像もつかない。だが嫌予感がしてならない。それに娘と一緒にいたあの男も気になる。徒ならぬ雰囲気を感じた。


「クラウディウス?」

「ん、あぁ何だ、レンブラント」


 珍しい。何時もの正義感や責任感の強い彼なら積極的に発言をして行動を起こそうとする筈なのにも関わらず、今回はまるで関心すらない様に見える。


「いや……何でもないよ」


 やはり以前の彼とは違う様に思えてならない。


「クラウディウス、貴方はどう思いますか? 私としてはやはり警戒をして監視対象とするべきだと考えますが」

「そんな気に留める事ではないだろう。放っておけば良い」


 クラウディウスのその言葉に彼以外は顔色を変えた。


「ですが……」

「話は終いだ。余計な詮索をしている暇があれば、この溜まっている書類を処理してくれ」


 レンブラント等三人はクラウディウスを訝しげに見るが、彼はそれ以上何も言う事はなく仕事を始めた。




ーーそれから二ヶ月の間、民衆の聖女への信仰は一気に加速していった。


 この国はもう何百年と他国と戦乱もなく平和に過ごして来た。気候や土地も比較的恵まれており食糧難に陥った事ない。それ故民衆の不平不満などはないものだとばかり思っていたが実際は違った。

 聖女の出現により民衆のこれまで抱えていた不平不満が溢れ出し、それらは聖女への強い信仰心へと変換された。更にはそれは平民に限った話ではない。レンブラントが耳にした噂では、今はまだ少数ではあるが貴族の中にも聖女を信仰する者が出て来ている。余り良くない傾向だ。やはりこのまま放置するのは危険だと考えいた矢先の事だった。


 その日、クラウディウスに大事な話があると呼ばれ執務室に入ったレンブラント達は目や耳を疑った。それだけ信じられなかった。

 執務室にはクラウディウスの他に例の聖女がいたからだ。そしてクラウディウスは信じ難い事を口にした。


「紹介しよう、彼女はフローラだ。私の婚約者になった」


 一瞬何を言われたか分からずレンブラントもヘンリックやテオフィルも呆気に取られる。


「おいおい、一体何の冗談だよ」


 ヘンリックが信じられないと言わんばかりに半笑いをする。


「冗談なんかじゃないよ。昨日(さくじつ)、私は彼女と正式に婚約をした。フローラは、歴とした私の婚約者だ」

「クラウディウス……エルヴィーラは、どうするつもりなんだ」

「彼女なら分かってくれたよ。君達だって分かるだろう? フローラは聖女なんだ。誰よりも王太子妃延いては王妃として相応しい存在だ。それに心配はいらない。私が国王に就任した後、エルヴィーラは側妃として召上げる」 


 至って真面目に返答する彼に冗談ではないと分かったが、彼らしくない言動に只々困惑するしか出来なかった。


 



 

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